「インスタグラムエディター」はいまやワシントン・ポストの公式なポジション名であり、同紙のサブスクリプション事業に欠かせない重要なパーツとなっている。これは単なるレガシーパブリッシャーのソーシャル展開ではない。同紙が目指す最終にして最大の目標は、サブスクライバーの拡大だ。
これも時代を象徴するひとつなのだろう。「インスタグラムエディター」はいまやワシントン・ポスト(The Washington Post)の公式なポジション名であり、同紙のサブスクリプション事業に欠かせない重要なパーツとなっている。
ワシントン・ポストは2021年2月1日付けで、トラヴィス・ライルズ氏をインスタグラムエディターに就け、同紙の主たるインスタグラムアカウントの管理・監督を一任した。同氏は今後チームを結成し、縦型の視覚に訴えるインスタ用ストーリーテリングを量産し、出版の枠を越えて同紙のアイデンティティの拡大を図る。そして究極的には、インスタフォロワーの有料サブスクライバーへの転向を目論む。
「最終にして最大の目標はサブスクライバーの拡大だ」と、ワシントン・ポストのソーシャル&オペレーションズ部門ディレクター、マーク・スミス氏は言う。インスタグラムは「若く大きな可能性を秘めた人々に、ワシントン・ポストの魅力を紹介できる最良の場だ」。
Advertisement
成長を続けるインスタグラムアカウント
ワシントン・ポストには現在、約300万人のデジタルサブスクライバーがいる。だが、同社のインスタグラムオーディエンスは一般に、「現在のサブスクライバーよりも若く、多様性に富んでいる」と、スミス氏は続ける。
同紙は以前にも、ほかのプラットフォーム上で若年層にリーチする試みを実施している。人気のTikTokアカウントの利用はその一例で、ときにユーモアを交え、トップニュースをわかりやすくかみ砕き、ワシントン・ポストというブランドを売り込み、サブスクリプション事業の促進に努めた。ほかのソーシャルチャンネルで獲得したサブスクライバー数については、同紙広報担当者は明かさなかったが、インスタグラムアカウントは今年1月に過去最高のエンゲージを記録し、1200万以上のエンゲージメント(いいね&書き込み)があったという。
先の米大統領選(2020年11月)が過去最高数のオーディエンスを連れて来たというのであれば、特段驚くような話ではない。しかし、ポスト紙のアカウントは「急激に成長し続けており」、11月以降も伸びる一方だとスミス氏は言う。また、今年1月のエンゲージメント数の急増については、連邦議会議事堂の襲撃、新大統領就任式、新政府の動向といった事件・出来事も後押ししたと、同氏は指摘する。
フォロワー数とエンゲージメント数で言えば、ワシントン・ポストにとって「インスタグラムがいまのところ、数あるプラットフォームのなかで最速の成長株であることが、この約1年半で明らかとなった」と、スミス氏は言う。サイトのアクセス数自体はインスタグラムよりもFacebook経由の方が多いのだが、これはリンクを貼るという行為が後者においてより一般的であることも関係していると、同氏は分析している。
あくまでニュースを伝えるアカウント
インスタグラムエディターに就任したライルズ氏は2017年、米紙バージニアン・パイロット(Virginian-Pilot)からワシントン・ポストに移籍して以来、同紙の主要インスタグラムアカウントを担ってきた。「シェアしたくなる見出し」にフォーカスしており、それが急成長の主要因となったとスミス氏は言う。実際、ライルズ氏の入社後、ポスト紙のインスタグラムフォロワー数は67万5000人から450万人に急増した。
「(ライルズ氏は)入社後すぐに、いわばニュースエディターとして弊社のアカウントを動かしはじめた」とスミス氏は言う。つまり、インスタグラムのようなプラットフォームでは視覚に訴えるものが圧倒的に多いなか、ライルズ氏はあえて「新聞がニュースを報道する感覚」でコンテンツをアップしていったという。
今後、インスタグラムにあげる動画数をさらに増やしていきたいと、スミス氏は言う。それには、インスタに相応しいフォーマットで縦型動画を作成し、音声なしでも内容が伝わるようキャプションも加える必要がある。無論、動画といってもIGTVやリール(Reels)、ライヴ(Live)では、それぞれ「異なるコンテンツ配信が求められる」と同氏は言い添える。
ライルズ氏のチームは最終的に、ソーシャルプロデューサー、動画プロデューサー、動画デザイナーを加えることになるという。
「このチームはスピード感を重視し、インスタグラムにおけるニュースアカウントの先駆者を目指す」とライルズ氏は語り、続ける。「このチームでは、いま世界で起きていることを人々に知らせるだけでなく、複雑なニューストピックをわかりやすくかみ砕くことも優先していく」。
他紙もインスタグラム展開を模索
インスタグラムアカウントに専任者を置くレガシーパブリッシャーは、ワシントン・ポストだけではない。昨年、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)はタイソン・ウィートリー氏をインスタグラムディレクターとして起用し、同紙のメインアカウントのキュレーションおよび戦略を一任した。
その後、同紙はさらにふたつの職をインスタグラムチームに増設し、リズ・ピアソン氏(同紙の元フォトエディター)をウィークエンドエディターとして、ビアンカ・クレンデニン氏(元グループ・ナイン・メディア[Group Nine Media]傘下のナウディス[NowThis]社員)を動画エディターとして、それぞれ起用している。
一方ワシントン・ポストにはプラットフォームの垣根を越えてバーティカルなストーリーテリングを発信するストーリーズ(Stories)チームがあり、インスタグラムチームはそのチームとも協力していく。ストーリーズチームはもともと、Snapchatのパブリッシャー向けプラットフォーム、ディスカバー(Discover)用のニュース速報の制作を目的として結成された。これで、同チームはインスタグラムストーリーズ用のコンテンツ制作にも手を貸せることになった。
「天井は我々が思っているよりもはるかに高い」とスミス氏。「正直、今年末にフォロワー数がどこまで伸びるのかは、私にもわからない」。
[原文:How The Washington Post’s new Instagram editor will try to boost its subscription business]
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)