Amazonセラーの買収ビジネスがブームになるなか、Amazon上でのサードパーティ企業の価値が急上昇している。。2020年の急激なEコマースの伸長も要因のひとつであるが、買収企業による投資が集中しバブルになっていることを指摘する声もある。今や誰もがAmazonセラーを取引したがっているのだ。
Amazonセラーの買収ビジネスがブームになるなか、Amazon上でのサードパーティ企業の価値が急上昇している。
セラーが自社や自社のビジネスを、売りに出すことができるオンラインマーケットプレイスを運営するエンパイア・フリッパーズ(Empire Flippers)によると、同社のマーケットプレイス上でAmazonでの商品販売をおこなうサードパーティ企業の平均売却価格は2019年から2020年のあいだに80%跳ね上がり、29万8558ドル(約3150万円)から53万8742ドル(約5690万円)になった。エンパイア・フリッパーズのマーケティング担当ディレクター、グレッグ・エルフリンク氏は、「こうした企業がいかに評価されているかという点で、これはとてつもない増加だ」と述べる。エルフリンク氏は、2019年はすでにAmazonビジネスが成長していた年であり、その価値が2018年の平均売却価格21万2117ドル(約2240万円)から上昇していたと付け加えた。
高まるセラーの価値
こうした数字は、2020年のAmazonの記録的な成長とも合致し、第3四半期の売上が前年比で37%増となっている。さらに、成功しているAmazonビジネスの買収を専門とし、人気商品の販売をさらに成長させるためのリソースを投じている、ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業の台頭とも一致する。そうした企業のなかで最大のセラシオ(Thrasio)は、およそ9億ドル(約950億円)を調達した。セラシオのピッチには、米国のセラーに魅力的な出口戦略を与え、ロジスティクスや価格設定、ブランディングの洞察力にテコ入れをして、小さなセラーが実行するよりはるかにスピーディーにビジネスをスケールアップできる、とある。
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2010年代初頭、個人の愛好家が少額の利益を期待してAmazonビジネスを購入したり転売したりしていた。そんな小さなニッチ現象として始まったものが、いまでは数十億ドル(数千億円)規模の業界となった。その結果、Amazonのサードパーティ企業の価値は急上昇している。この上昇を後押ししているのは、エンパイア・フリッパーズのようなセラー売買の場が提供され、そこでセラシオのように大規模な買収と統合で拡大を図るロールアップ企業の入札が起きているためだが、一部の専門家はここにバブルの兆候を見ている。
なぜなら、売却価格の(ほぼ)倍増は、セラーが売上を伸ばしエンパイア・フリッパーズにおいて高い価格で自社をリストアップしているから、ということで必ずしも説明されるものではないからだ。実際、eコマースビジネスは通常、売上をはるかに上回る倍率で売却している。2018年、エンパイア・フリッパーズに掲載されている平均的なeコマース企業は、平均月利益の23.1倍で売却されていた。2020年にはその数字が30.2倍に跳ね上がっている、とエンパイア・フリッパーズは指摘している。
Amazonビジネスの転売がビジネスに
エンパイア・フリッパーズは、2016年にAmazonビジネスの販売を開始し、大規模な買収企業よりも、単一のAmazonビジネスへの投資を探している個人によってはるかに頻繁に使用されている(大手の買収企業も、ときどきそこから購入することはある)が、大規模なセラー買収市場としては不完全なプロキシだ。エンパイア・フリッパーズのようなサイトで売買されている企業は、買収市場全体の末端に存在し、それらを購入する個人には、大きなロールアップ企業のような資金力がない。にも関わらず、エンパイア・フリッパーズでの驚異的な価格の高騰が起きているのは、自社の製品カタログの価値が高まっているとAmazonのセラーが認識していることを示している。
これは、第1にAmazonのeコマース全体の成功のおかげでもある。2020年は、「事業を売却した当社のクライアントの多くがこれまでで最高の月を過ごした」と、エルフリンク氏は述べる。しかし、同時にそれは買収スペースに参入した投資のおかげでもある。2020年にはAmazonのセラーを買収するために、セラー買収企業が10億ドル(約1004億円)弱を調達した。eコマース解析企業マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)によると、2021年1月だけでも、その数はほぼ倍増しており、買収企業はさらに10億ドル(1000億円)近くの資金を集めている。
1年前でさえ、「オンラインビジネスの売買は、ニッチのなかで、さらにニッチのなかのニッチだった」と、エルフリンク氏は述べている。エンパイア・フリッパーズが2016年末に初めてAmazonビジネスをマーケットプレイスに掲載し始めたとき、Amazonビジネスの転売について知っている人は非常に少なかったため、多くの人がAmazonの利用規約に違反していると(誤って)思い込んでいた。しかし、より大手のAmazon買収企業が資金を調達したおかげで、「いま目にしているのは、オンラインビジネスの売買について聞いたこともなかった人々が、セラシオを見て、自分もやってみたいと考えているということだ」と、エルフリンク氏は話す。
バブルの終焉はいつになるのか
しかし、この高値が続くかどうか、となると話は別だ。eコマース仲介企業クワイエット・ライト・ブローカレッジ(Quiet Light Brokerage)の創設者、マーク・ダウスト氏は、セラーの買収企業に言及して「昨日、同僚にコメントしていたところだが、2年間の熱狂的なムーブメントが続いているだけだと思う」と述べる。ダウスト氏は、「この業界がなくなることはないと思う」と付け加える。Amazonのようなプラットフォームは、成功するビジネスを構築するための独創的なアイデアを持った人々に機会を与えてくれるからだ。しかし、「何年もの時間をかけてこれらのビジネスが膨れ上がってきたゴールドラッシュ的な部分」は、近いうちに最高水準に達するかもしれないと、ダウスト氏はいう。
エンパイア・フリッパーズのエルフリンク氏は、Amazonビジネスの価値は今後数カ月のあいだに横ばいになり、もしかしたらわずかに下がるかもしれない、と予想している。しかし、大規模な成長にもかかわらず、一般的にオンラインビジネスの価値はまだ従来型の店舗ビジネスよりも低く評価される傾向があるとエルフリンク氏は指摘する。「落ち込みがあるとしても、おそらく少しだけだろう」と同氏はいう。大局的にはまもなく「一般的にオンラインビジネスも、伝統的な実店舗ビジネスに似た方法で評価されるようになる」と、エルフリンク氏は期待を寄せている。
[原文:The value of an Amazon business is surging]
MICHAEL WATERS(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島 翔平)