Appleがあらためてトラッキングと戦う姿勢を見せている。アドテクベンダーがAppleの個人情報保護ポリシーの抜け道を使ってウェブでユーザーを追跡しているのを阻止するため、アンチトラッキングのポリシーをさらに厳格化した。
Appleがあらためてトラッキングと戦う姿勢を見せている。アドテクベンダーがAppleの個人情報保護ポリシーの抜け道を使ってウェブでユーザーを追跡しているのを阻止するため、アンチトラッキングのポリシーをさらに厳格化した。
アドテクベンダーと広告主は8月中旬から、リンクデコレーションやフィンガープリンティングなど、どちらかというと非公然とされていた、一連のトラッキング手法を使えなくなった。それらは、これまで、Safariでのトラッキングを禁じるAppleの取り組みを迂回する方法として人気が高まっていた。
これにより短期的に収益が落ちこみ、プロダクト投資が不透明になると、パブリッシャー側は予想している。しかし、当初のITP更新時のような厳しい落ちこみにはならないと、パブリッシャー幹部らは考えているようだ。アドテク業界筋によると、当初のITP更新時は、オープンエクスチェンジのCPMが40%下がったパブリッシャーもあったという。
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あるパブリッシャー幹部は、「サードパーティのトラッキングやアドテクを狙ったものであり、その点は、パブリッシャーが所有するデータに味方する」と、匿名を条件に語った。「『いいね』ボタン、フェデレーテッドコメント(統合コメント)、その他のソーシャルウィジェットボタンがおそらく機能しなくなり、Facebookなどには明らかな打撃となるだろう。それらの機能は、パブリッシャーにユーザーを還流する際に、差し障りのあるデータを統合、管理しているからだ」。
意図せぬ影響のリスト
Appleは今回の米国時間8月16日の更新に合わせて、トラッキング手法の一掃によって生じる可能性のある意図しない結果を11件リスト化しており、メディアコンサルタントはその多くを心配している。リストには、「いいね」ボタンのほかに、サードパーティのログインプロバイダーを使ったフェデレーテッドログイン(統合ログイン)や、同じ組織が管理する複数のウェブサイトに対するシングルサインオンが並んでいる。この2つの手法は、複数のメディア機関によるアライアンスで、ユーザーが1回のログインでたくさんのサイトにアクセスできるようにするため用いられているのだ。そうすることで、メディア機関は互いにデータを共有し、FacebookやGoogleに代わる広告プラットフォームを対抗できる規模で広告バイヤーに提供できる。そのため、このように1回のログインで複数のサイトにアクセスできるようにしているメディアアライアンスは、苦しくなるだろう。
メディアコンサルティング企業であるADZストラテジーズ(ADZ Strategies)の創業者、アレッサンドロ・デザンチェ氏は、「意図せぬ影響のリストから明らかなのは、もぐら叩きになっている業界のアプローチ全般が持続可能ではないということだ」と語った。「シングルサインオンとフェデレーテッドログインは、ビジネスのより強力な将来像を誠実に実行に移そうとしているメディアアライアンスに影響するかもしれない。とても大きな問題であり、業界への恩恵は思い浮かばない。事態が行き詰まるさらなる兆候しか見えない」と、同氏はいう。
トラッキングを防止するITPの回避法や迂回策をアドテクベンダーが広めたことをきっかけに、Appleは2019年すでに2度、2月と4月にITPを更新しており、アンチトラッキングを巡るせめぎ合いは不可避の状態だ。
問題の大きさへの不理解
データマネジメントプラットフォーム(DMP)を手がけるパーミュティブ(Permutive)のデータによると、英国では6月、パブリッシャーのサイトを訪問したユーザーの約37%はブラウザがSafariで、MozillaのFirefoxも5%あった。FirefoxにはAppleも認める独自のアンチトラッキングポリシーがあり、Googleはクロスサイトトラッキングやフィンガープリンティングの取り締まりを約束している。Googleも同様の信念でプライバシーの誓約に取り組む可能性があるのかどうか、パブリッシャーの業界筋は注視している。
2018年夏のITP 2.0以降、パブリッシャーが売っているオープンなマーケットプレイスのインベントリー(在庫)は、SafariではなくGoogleのChromeのオーディエンスのものになっており、Safariについては代わりにエージェンシーに直接売っている。たとえば、パーミュティブの共同創業者のジョー・ルート氏によると、一部のパブリッシャーはエージェンシーと直接組んでSafariのオーディエンスのプライベートマーケットプレイスを準備することで、当初のITP更新で失った収益の一部をなんとか取り戻している。
広告主は一時しのぎとして、アプリのエコシステムでオーディエンスを見つけることも試みている。アプリのエコシステムならいまもAppleの広告ID(IDFA)で広告主がユーザーを追跡できるのだ。しかし、オープンなウェブのプライバシーに対するAppleの姿勢に隙がないことから、Appleが広告IDをどれだけ生かしておくかはわからないと業界筋は疑っている。
「AppleがIDFAを廃止するまで、バイサイドは問題の大きさを理解せず、パブリッシャーとの提携を促進しないだろう」と、ルート氏は語った。
シブステッドによる対応事例
Appleのアンチトラッキングに対する取り組みは、アドテクのエコシステム全体に関係する。Appleは、アドテクベンダーでもFacebookやGoogleのようなテック大手でも、クロスサイトターゲティングの目的でCookieを使い続けるのなら、マルウェアのように扱うつもりだ。当然、とりわけ打撃が大きいのはサードパーティのデータプロバイダーやデマンドサイドプラットフォーム(DSP)で、長期的にはFacebookとGoogleということになるだろう。Appleのデバイスでリターゲティングができなくなり、広告ビジネスに大きな穴が空くことになると、ルート氏は語る。
「パブリッシャー、Facebook、Googleはいずれも、この問題の大きさを認識し、積極的に検討している」と、ルート氏はいう。「業界でもそれ以外は、問題を覆い隠そうとしている。問題の規模があまりに大きい」。
たとえば、2018年に公開されたITP 2.0をきっかけに、ノルウェーのシブステッド(Schibsted)というパブリッシャーは、ログインとIDのシステムを再構築し、ログインセッションをサードパーティのCookieではなくファーストパーティのCookieに基づくものにした。シブステッドは、ノルウェーとスウェーデンで展開されているさまざまなデジタル版新聞に、ログインサービスとIDサービスを提供している。
「信頼できる安定したログインとIDソリューションの確保が必要な運営に、AppleのITP 2.0は大きく影響した」と、シブステッドでID担当のプロダクトマネジャーを務めるアイダ・クリスティーン・ノルダル氏は語った。「ソリューションを作り直して対応したので、収益への直接の影響はなかった。しかし、ソリューションの再構築はもちろんコストがかかる」。
「誰にとってもよくない」
今回の意図しない影響がパブリッシャーにどれほどの問題を引き起こすのか、正確にはわからない点が、いまはまだ多い
最初に登場した匿名のパブリッシャー幹部は、「セッションをまたいだ一貫したユーザー識別ができなくなることで、ユーザー体験が損なわれることになってくれば、ユーザーからすると明らかに不利益であり、我々も困る」と続けた。「ともかく、誰にとっても同じようによくない」と、この幹部は語った。
Lucinda Southern (原文 / 訳:ガリレオ)