長期的な持続可能性を念頭に、eスポーツ組織は収入源の多様化を推し進めている。米DIGIDAYは、eスポーツの専門家や業界幹部に取材をおこない、eスポーツの主要組織がさまざまな収入源をどのように活用しているのかを明らかにした。
長期的な持続可能性を念頭に、eスポーツ組織は収入源の多様化を推し進めている。
昨年末、ゲームストリーマーの「ドクター・ディスリスペクト」ことガイ・ビーム氏が、絶大な人気を誇るフェイズクラン(FaZe Clan)を除き、すべてのeスポーツ組織は「儲からない」とツイートした。このツイートは大いに議論を呼び、何人もの業界ウォッチャーたちが、ビーム氏の断言を覆すべく猛然と反論した。著名eスポーツチーム「100シーブス(100 Thieves)」の共同創設者である、「ネードショット」ことマシュー・ハーグ氏もそのひとりだ。
この騒動でわかったのは、多くのゲーマーやeスポーツファンは、いまだにeスポーツ組織がどうやって、どれだけの利益を上げているかを知らないということだ。ゲームはいまや世界でもっとも人気のあるエンターテインメントのひとつに成長したにもかかわらず、多くのeスポーツ組織は依然として収益化に苦労している。eスポーツのオーディエンス数はすでに従来のスポーツに匹敵するが、eスポーツのオーディエンスは従来スポーツのファンよりもはるかに少ない額しかお金を落とさない。主な要因は、eスポーツファンの平均年齢が低く、可処分所得が少ないからだ。加えて、従来のスポーツリーグは放送事業者に放映権を販売して収益を得るのに対し、ほとんどのeスポーツイベントはTwitch(ツイッチ)などのデジタルプラットフォームで無料で配信されるため、eスポーツリーグやリーグを構成するチームにとっては、潜在的な収入源のひとつが絶たれている状態だ。
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こうした困難はあるものの、最大規模のeスポーツ組織はすでに毎年数百万ドルの売上を獲得している。既存の収入源を強化し、新たな収入源を獲得するため、2021年、いくつかの著名eスポーツチームが、中小企業の買収や株式公開に踏み切った。米DIGIDAYは、eスポーツの専門家や業界幹部に取材を行い、eスポーツの主要組織がさまざまな収入源をどのように活用しているのかを明らかにした。
キーポイント
- 主要eスポーツ組織の多くが重視する収入源は3つある。eスポーツ、エンターテインメント、アパレルだ。eスポーツとは、組織の競技チームが獲得する売上を意味し、eスポーツリーグの分配収益や、トーナメントの賞金、チームのブランドパートナーシップがこれに該当する。エンターテインメントには、競技はしないもののチームと関わりの深い、クリエイターやインフルエンサーが獲得する売上が含まれる。彼らの多くは自身がブランドパートナーシップやスポンサーシップを締結している。
- 3つの柱は、100シーブスの売上の約3分の1ずつを占めていると、同社の最高執行責任者であるジョン・ロビンソン氏はいう。「我々がこの多様化モデルを信じる理由のひとつに、発足当初の4年間にわたり、これら3つがすべて順調であったことがあげられる」と、ロビンソン氏は語る。100シーブスは最近、周辺機器企業のハイグラウンド(Higround)を買収し、同社の戦略のアパレル部門の傘下に置いた。これにより、100シーブスはマーチャンダイズを、衣類だけでなくキーボードやマウスパッドにも拡大することが可能になった。
- 3つの収入源の優先順位はチームによって異なる。「マーチャンダイズは多くのチームにとって素晴らしいビジネスだが、私が思うに、おそらくほとんどのeスポーツチームは、リーグの分配収益とスポンサーシップからより多くの収益を得ている」と、イモータルズ(Immortals)のCEO、ジョーダン・シャーマン氏は話す。同氏は昨年、マーチャンダイズゼロ利益方針への転換を表明した。「我々の優先順位は、分配収益、スポンサーシップ、マーチャンダイズの順だ」
- ただし、eスポーツ組織の収入源はこの3つだけではない。一部の組織は、自身を競技チームというよりも、フルサービスのエージェンシーと位置づけ、ブランドに固定ファン層へのシームレスなつながりを提供している。「我々は、確立されたマーケティングサービスおよびブランドコンサルティングのチームを擁し、ゲームとeスポーツの世界で、ステートファーム(State Farm)などのクライアントを手掛けている」と、eスポーツ企業レクトグローバル(ReKTGlobal)の共同創業者でありCEOを務めるデイブ・バイアレック氏はいう。「ブランドコンサルティングおよびメディアバイイングの担当部署はとても強力で、主にB2B事業を手掛けている。レクトグローバル傘下できわめて順調にビジネスを操業しており、この部署の社員たちはきっと、我々の組織の一部であることすら意識していないだろう」。レクトグローバルの2021年の売上は約1500万ドル(約17億2800万円)で、「売上の3分の2がこの部署から得られた」と、レクトグローバルの共同創業者でチェアマンを務めるアミッシュ・シャー氏は語る。
従来スポーツとの違い
マーチャンダイズがeスポーツ組織の主要な収入源のひとつであることは、eスポーツ組織と従来のスポーツチームの収益化方法の根本的な違いを反映している。NFL、MLB、NBAなど従来のスポーツリーグは、しばしばメーカーにリーグ全体のジャージを生産する権利を販売する。たとえば、NFLのジャージのライセンスをもつブランドはナイキ(Nike)だけだ。「欧州の主要サッカーチームは、アディダス(Adidas)やプーマ(Puma)やナイキと契約し、Tシャツやマグカップやその他の商品の生産に関して、チームごとのライセンスを販売する」と、マーチャンダイズ企業ウィー・アー・ネーションズ(We Are Nations)でCEOを務めるアレックス・ローマー氏は說明する。「商品の一部を直接生産するチームもあれば、完全に委託するチームもある。ジャージに関しては、いずれも代金と引き換えにライセンス供与を行っている」
一方、eスポーツ組織のチームはしばしば複数の競技リーグに参加しているため、リーグ全体として統一のライセンス契約を結ぶのは困難だ。そこで、eスポーツ組織は直接メーカーと提携してマーチャンダイズ生産を委託するか(イモータルズはウィー・アー・ネーションズとこうした契約を結んでいる)、あるいは(100シーブスのように)社内でデザインを行っている。
進化するビジネスモデル
eスポーツがさらに深くポップカルチャーに浸透していくにつれ、ますます多くのeスポーツ組織が、競技チームから、ブランドとゲーマーを結びつけるのに特化したエージェンシーやブランドコンサルティング企業への脱皮をはかるだろう。そのほとんどは、すでにこうしたタイプのサービスを提供するのに必要な、タレントやリソースを豊富に持っている。eスポーツ組織の中核をなすストリーマーやプレイヤーは、ゲーマーにとって何が魅力的かを、誰よりもよく知っている。「ポキメイン」ことイマーン・アニス氏のような独立クリエイターがすでにコンサルティング企業を立ち上げているなか、こうしたブランド向けサービスを提供しない組織は、旧来のeスポーツの枠組みにとらわれて遅れをとるリスクを抱える。「ビジネスの成長に関して、我々はとてつもないチャンスを目の当たりにしていると考えている」と、バイアレック氏は言う。
全体像
一部のeスポーツチームは、すでに収益化の有効な道筋を示してきた。2020年にはTSMが収益化を実現したと発表した。イモータルズのシャーマン氏は昨年、同社の個別事業の多くは収益化できていると米DIGIDAYに語っている。明らかなのは、従来のスポーツリーグの収益化手法をなぞるだけでは、あるいは競技eスポーツそのものだけに特化するのでは、収益化は見込めないということだ。旧来の競技中心のビジネスモデルからの脱却を図るなかで、eスポーツ組織には、新規の資金調達や株式公開、さらに吸収合併によるフレッシュなアイデアの取り込みが、ビジネスの多様化の推進力として、これまでになく重要になってくるだろう。
「TSM、チームリキッド(Team Liquid)、クラウド9(Cloud9)が展開するさまざまなビジネスを見てみれば、チケット販売とマーチャンダイズといった従来の収入源の枠を超えているのは一目瞭然だ」と、eスポーツエンターテインメント企業のスーパーリーグ(Super League)でCEOを務めるアン・ハンド氏はいう。「プロのeスポーツというカテゴリーには、これまで誰にも想像できなかったような莫大なポテンシャルがある。とはいえ、当然ながら、軌道に乗せるには時間がかかる。誰もが一夜にして宇宙船を打ち上げたがるが、そう簡単にはいかないのは明確だ」と、同氏は述べた。
[原文:The Rundown: How do esports organizations generate revenue?]
Alexander Lee(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)