オークションでリアルタイムに価格が決まるプログラマティック・インベントリのオープンマーケットが、不安定な状況に陥っている。原因はいくつかあるが、そもそもの要因は、アドテクのパイプが細くなるなかで、パブリッシャー主導のプログラマティックオークションが急増していることだ。
オークションでリアルタイムに価格が決まるプログラマティック・インベントリのオープンマーケットが、不安定な状況に陥っている。もちろん、いまに始まった話ではないものの、最近はさらに厳しさが増しているようだ。
原因はいくつかあるが、そもそもの要因は、アドテクのパイプが細くなるなかで、パブリッシャー主導のプログラマティックオークションが急増していることだ。複数のパブリッシャーが同じインプレッションに対して同時にオークションを行う事態が続いているため、アドテクベンダーは管理すべきオークションの数を減らそうとしている。
当然ながら、オークションの重複は広告主にとって好ましいことではない。知らないうちに自らに不利な入札をし、自社が支払う価格を吊り上げている可能性があるからだ。裏を返せば、パブリッシャーに多くの利益が渡っていることになる。
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質の低下を招くオークションの重複
この問題が解消されない状態が長引けば、オープンマーケットはますます苦境に立たされるだろう。では、オークションの重複がよく見られるのは、どのようなタイプのパブリッシャーだろうか。答えは、プレミアムパブリッシャーではない。もちろん、彼らのあいだでも重複は発生するが、重複がより頻繁に見られるのは、いわゆるMFAサイト(広告をクリックさせることを目的としたサイト)だ。これらのサイトはトラフィックの収益化だけを目的としているため、トラフィックの獲得コストを気にかける必要がそもそもない。
したがって、オークションの重複が、市場でシェアを伸ばしているプログラマティック・インベントリの品質を低下させているわけだ。だが、パブリッシャーはこの問題の解決に本腰を入れようとしていない。ads.txtファイル(パブリッシャーが提携しているすべてのプログラマティックパートナーのリスト)のサイズを見れば明らかだろう。
プログラマティックコンサルティング企業ジャウンス・メディア(Jounce Media)のクライアントによる、広告支出上位1万のサイト、アプリ、CTVアプリでプログラマティックオークションが実行されたサプライパスの数は、2020年1月には205件だった。だが、2022年後半には622件と、3倍以上に増えている。
「オープン市場は数が多すぎる」と話すのは、オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)でデジタルアクティベーションマネージングディレクターを務めるライアン・ユーサニオ氏だ。「すべてを管理するのはコスト効率が悪いため、市場の誰もが、管理すべきオープン市場の数を何らかの形で絞っている」
広告費はPMPに流れ込む
この状況はしばらく前から起きている。広告費がオープンマーケットからPMPに少しずつ流れていることが、その何よりの証拠だ。
ただし、この動きが小規模なままで、大きな潮流となっていないのには理由がある。どう考えても、1対1のプライベートなプログラマティック取引は、大規模なメディアエージェンシーでさえかなりの負担となるからだ。もちろん、コストがかかることはいうまでもない。
一方、さまざまな欠点を抱えるオープンオークションに、同じような問題はない。それどころか、多くの広告主は、購入の手間が明らかに少なく、コストも比較的低いというオープンマーケットの特性を必要としている。オープンマーケットでは、あらゆる広告主が参加できるオークションを通じて、リアルタイムで広告の価格が設定されるからだ。
「バイヤーの大半は、依然としてオープンオークションで購入を行っている」と、デジタルマーケティングコンサルタント企業のCvEで戦略担当グローバルバイスプレジデントを務めるロブ・ウェブスター氏は指摘する。「残念ながら、多くのバイヤーはいまでも、オープンウェブの手軽さと明らかなコストの低さに魅力を感じており、(はるかに)優れたやり方があることに気づいていない」。
この優れた手段とは、インベントリーのキュレーションを中心としたものだ。だが、その規模はかつてないほど拡大している。
インベトリが厳選されたマーケットプレイスは実現するか
エージェンシー(および少数の広告主)はいま、多数のパブリッシャーとの1対1の取引に基づいてプレミアムプログラマティックマーケットプレイスのキュレーションを行うやり方から、パブリッシャーとの1対多の取引に基づいてインベントリーをキュレーションし、独自のサプライパイプラインを維持する方式に変えようとしている。しかも、そのためにSSPを利用しているのだ。これはいわば、より安全に広告を購入できるマーケットプレイスのようなもので、質の低いインプレッションや怪しげなパブリッシャーを回避できる。
全体を見れば、最終的にはこのようなインベントリが厳選されたマーケットプレイスが、エージェンシー版のオープンオークションになるかもしれない。
少なくとも、計画ではそうだ。詳しくはこちらの記事で述べられているが、簡単にいえば、エージェンシーが目指しているのは、キュレーションされたマーケットプレイスを利用してオープンオークションから投資を呼び込むことだ。そうすれば、ベストなオーディエンスがどこにいるのかをクライアントに伝えられるようになる。
一方、広告主もパフォーマンスが高いパブリッシャーに関する情報を多く得ることで、そのパブリッシャーに直接、より多くの広告費を費やすことが容易になる。つまり、フライホイール(弾み車)効果のような好循環が生まれるというわけだ。
いまのところ、広告費はオープンマーケットに流れ続けており、オープンマーケットが完全に苦境に陥っているわけではない。一進一退が続くなか、アドテクベンダーは価値のあるインベントリとないインベントリを選別する努力を続けている。たとえば、各プログラマティックマーケットプレイスが実施できるオークションの数に制限を設けたり、明らかに質の低いインベントリーをサプライチェーンから完全に排除したりするといった取り組みだ。ただし、このような努力でできることには限りがある。
注目はここから数カ月
実際、PMPがオンライン広告支出に占める割合は(増えつつあるとはいえ)まだ小さい。メディアマネジメント企業のイービクイティ(Ebiquity)によれば、同社のクライアントの場合、オープンプログラマティック市場を含むオンラインでの支出の割合は3分の1強(36%)に過ぎなかった(ただし、2020年の27%から増えている)。
「DSPのカスタム入札モデルは複雑で、ディールIDのアクティベーションに問題があるため、ほとんどのプログラマティックバイヤーは、いまも支出の大半をオープンオークションに振り向けている」と、ジャウンス・メディア(Jounce Media)の創業者、クリス・ケイン氏は話す。「だが、オープンオークションの質は下がり続けている」
いうまでもないことだが、注目はこれからの数カ月間だ。オープンマーケットに流れ込む資金が増える可能性もあれば、少しずつ資金が流出する可能性もある。また、景気後退によってオープン市場の広告価格の安さが魅力を増す反面、すべての支出について説明を求められる多くのマーケターにとっては、それだけでは不十分かもしれない。現時点では、どちらに転ぶか判断するのは難しい。
ただし、オープン市場から資金が出ていく可能性を示唆する初期の兆候も見られる(あくまでも「初期」の兆候だ)。たとえば、ハーシー(Hershey’s)などの広告主は、パブリッシャーとの直接取引の資金を確保するために、オープンオークションから資金を引き揚げ始めている。また、エージェンシーやDSPは、彼らが参加するオークションから低品質のインプレッションを排除する高度な手法の開発を続けている。CO2の排出量に配慮するメディアバイヤーが増えていることは、いうまでもないだろう。このような状況が、オークションの重複を減らそうという経済的インセンティブを、パブリッシャーに初めてもたらすことになるかもしれない。
[原文:The open programmatic market is in a tough spot]
Seb Joseph(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)