過去5年のあいだ、ベビーブーマーたちがFacebookを政治関連のミーム(それも間違った文法の間抜けな)で埋め尽くしたことで、ミレニアル世代たちは見栄えの良い避難先としてインスタグラムに群がった。しかしその後、綺麗な画像のためだけにプラットフォームを閲覧する時代は終了した。
過去5年のあいだ、ベビーブーマーたちがFacebookを政治関連のミーム(それも間違った文法の間抜けな)で埋め尽くしたことで、ミレニアル世代たちは見栄えの良い避難先としてインスタグラムに群がった。しかしその後、綺麗な画像のためだけにプラットフォームを閲覧する時代は終了した。
インスタグラムのフォーマットと2020年の出来事が組み合わさって、多くのインフルエンサーが作り出してきた「憧れのファンタジー」像は打ち砕かれた。2020年ロイター研究所デジタルニュース・レポート(2020 Reuters Institute Digital News Report)によると、インスタグラムを通じたニュースの取得は2018年以来倍増している。加えて、激動の2020年においてはインスタグラムで時事問題を取り上げるユーザーの数が今まで以上に増えた。ブランドたちもこの新しい現実に適応することになった。
初期のインスタグラムでは、「今日はトゥルムの海岸(カリブ海)、次の日はパリの美しいカフェ、といった具合に夢を見させてくれるものだった」と語るのは、インフルエンサー・エージェンシー、オブヴィアスリー(Obviously)のCEO兼ファウンダー、マエ・カーワウスキ氏だ。「しかし今では、『あなたは今、実際は何をしているのか? 何に関心があるか? 情熱を注ぐ対象は何か? 何について話したいか?』といったことが重要になっている」。
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インスタグラムユーザーは今や「現実を忘れるためというよりは、自分の現実、また現実についてほかの人がどう考えているかについての情報を得るために」インスタグラムを活用していると、デジタルマーケティング企業スパークス・アンド・ハニー(Sparks & Honey)の文化戦略ディレクターのコートニー・エメリー氏は言う。
衰退しはじめた「インスタ映え」
2019年は「インスタ映えするビジュアル」が衰退した年だったが、2020年には旅行や食事、お祝い行事などの「インスタグラムが可能な」活動が縮小されたため、「インスタ映え」を達成することがほぼ不可能になった。それでも、多くのインフルエンサーやセレブはインスタ映えに挑戦し続けたが、即座に非難された。
「従来のインスタグラムのような現実逃避的なコンテンツを投稿しようとすると、(現代社会が抱える問題やそれにまつわる人々の苦しみや感情に関して)『無神経』に映ってしまう」とエメリー氏。「セレブや旅行関連のインフルエンサーたちはそのことを痛い思いをして学んだ」。
夏には、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動がプラットフォームに大きな変化をもたらし、インフルエンサーやブランドだけでなく、一般ユーザーも社会問題について投稿する頻度を高めた。それ以来、ブランド各社は選挙、連邦議会の暴動、大統領就任式などの時事問題に積極的にコメントするようになった。
そのひとつ、メンテッド・コスメティックス(Mented Cosmetics)も最近の時事問題によくコメントしている。最近では、大統領就任式の日にインスタグラム上でカマラ・ハリス副社長を称えた。それ以前にも、1月6日には国会議事堂での暴動に関する声明を発表していた。
「リアルタイムマーケティングは、しばらくのあいだ、ソーシャルメディアの根本的なテーマだった」とメンテッド・ビューティ(Mented Beauty)のマーケティングディレクターであるチャンドラ・クックス氏は言う。「政治的状況がより混沌を増し、BLM運動が転換点に達したことで、さらに大きな変化があったことは間違いない。『ブランドに集中する』という古いモットーはもはや通用しない。最終的には、これほどの状況において沈黙を保つことはできなくなった。ブランドが自分たちの使命と、自分たちがサービスを提供している顧客に関して内省をするなかでは特にだ」。
著しい変化はコロナ以前から
一方、セレーナ・ゴメスは2020年に、メンタルヘルスに特化したブランドイメージを組み込んだ「レア・ビューティ(Rare Beauty)」というブランドを立ち上げた。米連邦議会議事堂の暴動の日には、フォロワーたちのためのメンタルヘルスに関する情報を掲載した。
インスタグラムのコンテンツにおける著しい変化は、コロナウイルス・パンデミックの前から始まっていた。アルゴリズムベースのフィードに加えて、ストーリーズ(Stories)での投稿のシェアなどの新機能によって、より多くの「意見」ベースのコンテンツが可能になった。
「インスタグラムが機能を進化させるにつれて、人々がシェアする内容も進化してきた。インスタグラムライブ(Instagram Live)やストーリーズのようなプラットフォームは、よりリアルで本物の会話コンテンツを提供する」とレア・ビューティのCMOであるケイティー・ウェルチ氏は述べた。「人々、特にZ世代のような生まれたときからデジタルが社会の標準であった人々は、ソーシャルメディアを使って自分の考えや感情を表現する」。
「インスタグラムは政治的なプラットフォームとして使われるようになって長い。たとえば、ボディ・ポジティビティ運動は社会的・政治的なものだが、全国的な選挙と比べると、その範囲は狭い」と語るのは、カルチャー分析を提供するクラウドDNA(Crowd DNA)社のホリー・ジョーンズ米社長だ。
「ブランドが(政治的な会話に)参加する場合、それが確実に長期的な戦略として考えられていることが重要だ。なぜなら、人々が話題にしているこれらの多くの問題は、痛みを伴い、根深いものだからだ。ブランドは、(この政治的な問題を)食い物にしようとしていると思われたり、日和見主義だと思われることは避けないといけない」とエメリー氏は述べる。
「ふたつのものが共存できる」
しかし、インスタグラムではビジュアルやライフスタイルのコンテンツが消えてはいない。ブランド、インフルエンサー、ユーザーは、投稿内容のバランスを取る方法を模索している。
「カルチャー(分野)において、『この本当に重いコンテンツへのリアクションを投稿したあとに、ランチの写真を投稿してもいいのだろうか?』と、探っていた段階があった」と、エメリー氏は言う。「私たちが今、目にし始めており、これからも目にするだろうことは、このふたつのものが共存できるということだ」。
「インスタグラムは、ファッションやインテリア、美的感覚を重視するトピックに適した、高度にビジュアル化されたプラットフォームだ。政治的なコンテンツが増えているからといって、ほかのものがなくなるわけではない」と、ジョーンズ氏は語った。
[原文:The end of escapist Instagram]
LIZ FLORA(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)