エコノミスト 、YouTube登録者100万人の有料会員化を模索

英パブリッシャー、エコノミスト(The Economist)のYouTubeサブスクライバーが100万人に達した。動画による自社サイトへのリファラルトラフィックも徐々に増えつつあり、同社は今後、そうしたサブスクライバーの有料会員化を図っていく。

2019年9月、Googleのデジタル・ニュース・イニチアティヴ(Digital News Initiative)から得た資金の一部で、エコノミストは配信するYouTube動画を強化し、視聴時間数の増加とYouTube上での交流を促すとともに、オーディエンスの自社サイトへの引き戻しを狙っている。

同社の新動画シリーズ「ビハインド・ザ・ストーリー(Behind the Story)」は、報道として主要テーマを深く掘り下げていくもので、各専門家とのQ&Aを含め、週に2~3本配信される。最初の3本のテーマは「気候変動:自然はこの惑星を修繕できるのか?」「米国の貧困を止める方法」「ブレグジットはEUをどう変えるのか」だった。今後のテーマとしては、スポーツ界におけるドーピング問題や、先頃米政府から中国政府のスパイ工作に手を貸しているとの疑惑をかけられたハイテク企業、ファーウェイ(花為技術)などが予定されている。

これらの動画はエンドカードやリンクといったYouTubeの特徴を利用し、各テーマに関するより詳しい内容やデータが読めるエコノミストのサイトへと人々を誘導するとともに、Q&A動画やコミュニティタブを通じ、人々と同社チームとのさらなる交流を促していく。分析会社チューブラー・ラボ(Tubular Labs)によると、エコノミストのYouTube動画のエンゲージメント率――いいねとコメントを含む――は、2019年をまだ約2カ月残している時点ですでに昨年のそれを34%上回っている。

「オーディエンスのためのYouTube動画コンテンツ制作にフォーカスし、『彼らにリーチし、惹き付けるための最良の手段は?』と問い続けた努力がいま、同プラットフォーム上で実を結びはじめている」と、エコノミスト・フィルム(Economist Films)のプログラムディレクター、デヴィッド・アルター氏は語る。「これはエンゲージメントの最適化を目指すより大きな活動の一環だ。出発点は、動画は唯一ではないが、きわめてパワフルなエンゲージメントツールのひとつ、との認識にある。そしてその回答の一部が、異なるフォーマットという観点でコンテンツを考えることだ」。

登録者数増加への期待

エコノミストの読者はすでに動画を視聴している。同社の発表によると、読者の86%が動画を毎週オンラインで視聴中だ。ソーシャルメディア分析サイト、ソーシャルブレイド(SocialBlade)のデータによれば、2019年9月の同社のYouTubeサブスクライバー数は50万人だった。同年8月末、同社は1週間で2万人のサブスクライバーを獲得している。サブスクライバー数急増の背景には、同社がこの2カ月間にふたつの新シリーズ「ビハインド・ザ・ストーリー」と「ナウ・アンド・ネクスト(Now and Next)」を立てつづけに登場させた事実がある。だが、これらの動画によってエコノミストのサイトのサブスクライバー数も増加の兆しを見せており、同社がさらなる拡大を狙う領域はそこにほかならない。

 

Economist

エコノミストのサブスクリプション登録者数推移

 

パブリッシャー勢は数年前から動画を配信するプラットフォームとしてYouTubeをひいきにしている。これはプレロール広告からのマネタイゼーション構造が新規プラットフォーム勢よりもはるかに成熟しているためだ。YouTubeでは一般に、オーディエンス構築に比較的長い時間を要するが、いったん取り込まれた人々には忠実なコンテンツ消費者となる傾向が見られる。とはいえ、YouTubeオーディエンスの有料サブスクライバーへの転向術は、いまだ未知の領域だ。そこでエコノミストは、そして同じく英パブリッシャーのファイナンシャル・タイムズ(The Financial Times)も、YouTubeオーディエンスがいかにしたら自社のサブスクリプションファンネルを拡大できるのか、その可能性に注目している。

「我々はYouTubeサブスクライバー率の上昇を認めており、弊社プラットフォームへのリファラル数にも顕著な上昇が見られる、まだごく初期段階ではあるが」とアルター氏は語り、サブスクライバー増加に関する具体的な数字は明かさなかったが、「弊社プラットフォームにおけるエンゲージメント率と弊社サイトへのトラフィック数の上昇は明らかだ」と断言する。

コンテンツ戦略のあり方

2015年6月以来、エコノミスト・フィルムは77本のドキュメンタリーと585本以上のショート動画をYouTubeで発表している。以前は5分の動画が主だったが、 今年の8月から全般に尺を伸ばしており、現在はすべて10分前後となっている。チューブラーによれば、昨年から今年にかけて同社が投稿したYouTube動画の人気上位20本のうち70%が5分を超えている。アルター氏は詳細こそ明かさなかったものの、動画の尺を伸ばして以来、視聴時間数が増加している事実は、同社が動画の適切な尺を見つけつつある証と示唆する。

ただし、答えの出ていない疑問はまだまだある。「より多くのコンテンツを定期的に配信することに明白な価値があるという確信には至ったが、それがもっとも重要なのか否かはいまだ不明だ」と、アルター氏は明かす。同様に、同社はどの要素がリファラルトラフィック増にもっとも有効なのか、またコミュニティタブを含め、どのコミュティティ構築アスペクトがもっとも効果的なのかについても、いまだ分析できていない。

同社の第2弾シリーズ「ナウ・アンド・ネクスト」は、ロンドンの法律事務所ミシュコン・デ・レヤ(Mishcon de Reya)がスポンサーに付いており、幅広いテーマを2種類の動画で掘り下げていく:ひとつは30分前後の長尺版、もうひとつは同じテーマの一部分にフォーカスする短尺版で、5分前後となっている。たとえば、民主主義がテーマの場合、長尺版は民主主義がどの程度危機に瀕しているのかを伝える一方、短尺版は蔓延する深刻なフェイク問題に焦点を絞る。同シリーズはYouTube以外の動画プラットフォームでも配信されている。

「サステナブルな動画投資は、広告収入予測だけでは不十分であるため、単独では正当化が困難となる」とエンダーズ・アナリシス(Enders Analysis)のシニアリサーチアナリスト、アリス・ピクトホール氏は指摘する。「そのため、動画戦略には宣伝価値、収入、コアオーディエンスにとっての価値も併せて考えていく必要がある」。

必要経費とマネタイズ

また、エコノミストは新規サブスクライバー獲得に多くの予算を費やしており、2019年のマーケティング費は14%増加しているが、サブスクライバー数の伸びはわずか1%に留まっている点も、ピクトホール氏は指摘する。「長期的に成功するには、こうした経費高騰への対応も不可欠になってくる」。

エコノミストの動画の場合、トルコの航空会社ターキッシュ・エアラインズ(Turkish Airlines)、スペイン最大の商業銀行グループ、サンタンデール(Santander)、世界有数の金融コングロマリット、クレディ・スイス(Credit Suisse)、米クラウドコンピューティングサービス企業のセールスフォース(Salesforce)、米情報企業のトムソン・ロイター(Thomson Reuters)といったブランドがスポンサーとして付いており――編集権はエコノミストが完全に握っている――これが動画収入の大半を占めている。別シリーズ「ディスラプター(Disruptors)」にはこの3年間、会計や財務などのサービスを提供する英企業EYがスポンサーとして付いている。エコノミストはまた、YouTubeプレロール広告からも収入を確保している。

同社は以前、エコノミスト・フィルムは30人からなるチームだが、デジタルビジネスのうち350万ポンド(約4.7億円)相当を同グループにもたらす一助になったと語っている。

「オーディエンスのエンゲージメントによって得られる価値をビジネスチャンスに変えられる好循環を創造したい」とアルター氏は語る。

Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)