QVCのようなテレビショッピング・通販の成功をストリーミングで再現する試みはいくつも行われているが、人気に火がついた例はなく、ショッパブルTVの構想はまだ現実というより誇大広告に近い。しかし、2020年、NetflixとAmazonプライムがそれぞれ、eコマースとストリーミングの融合に向けての道を示した。
Netflix(ネットフリックス)の「THE HOME EDIT ~暮らしを変える整理術~」(TOP画像)を見ているときに突然、コンテイナー・ストア(Container Store)の収納用品を買いたくなったら、これはストリーミングベースの小売だと考えてほしい。
この番組はコンテイナー・ストアと広範なパートナーシップを結んでいた。しかも、さりげなさはほぼ皆無だ。ナッシュビルを拠点に整理術のコンサルタントとして活動するクレア・シアラー氏とジョアンナ・テプリン氏がリース・ウィザースプーン、クロエ・カーダシアンなどの有名人の自宅や一般家庭を訪問し、散らかった空間を整理するという内容だが、番組内で使われていた収納用品のほぼすべてがコンテイナー・ストアの商品だった。
効果は絶大だったようだ。9月の番組開始以降、コンテイナー・ストアの売上は16.8%増加した。どれくらいが番組の影響かを計算するのは難しいが、当然ながら、番組が一定の役割を果たしたとコンテイナー・ストアは考えている。コンテイナー・ストアは直近の決算発表で、「Netflixの番組『THE HOME EDIT』のハロー効果」を経験したと述べた。
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「THE HOME EDIT」とコンテイナー・ストアの緊密なパートナーシップは、すでにあるトレンドの加速にすぎない。ストリーミングとeコマースの結び付きはもともと、かつてないほど緊密になっていた。プロダクトプレイスメントは昔から存在する。たとえば、1982年の映画「E.T.」では、マーブルチョコ製品リーシーズ(Reese’s)の売上が70%も増加した。しかし、「THE HOME EDIT」のような全面的なコラボレーションはほとんど存在しなかった。ブランドのスポンサーシップがより包括的なものになり、データの重要性が高まるにつれて、テレビ番組はオンライン小売店に近づき始めている。
eコマースとストリーミングの融合
ホーム・ショッピング・ネットワーク(Home Shopping Network)、QVCのようなチャンネルの成功をストリーミングで再現する試みはいくつも行われているが、人気に火がついた例はなく、ショッパブルTVの構想はまだ現実というより誇大広告に近い。しかし、2020年、NetflixとAmazonプライムがそれぞれ、eコマースとストリーミングの融合に向けての道を示した。
コンテイナー・ストアのマーケティング担当バイスプレジデント、フェリペ・アビラ氏によれば、「THE HOME EDIT」とのパートナーシップは2種類ある。シアラー氏、テプリン氏との商品ベースの契約、Netflixとのマーケティングパートナーシップだ。「デジタルプラットフォームをよく利用する新世代の消費者との関係を保つ」手段としてパートナーシップを結んだとアビラ氏は説明する。
このようなレベルのパートナーシップは、前例がわずかしかない。インディアナ大学におけるマーケティング学のベス・フォッセン教授は「コンテイナー・ストアと『THE HOME EDIT』のようなパートナーシップは、より緊密なプロダクトプレイスメント契約だ」と分析する。そしてこのパートナーシップは「製品が1回、もしくは2回取り上げられるようなシンプルなプロダクトプレイスメントよりも稀だ」という。
「メイキング・ザ・カット ~世界的デザイナーを目指して~」は数少ない前例のひとつだ。「プロジェクト・ランウェイ」のハイディ・クルムとティム・ガンを起用した類似番組で、3月にAmazonで公開された。もちろん、Amazonは番組のヒットを目指していたが、高級ファッション事業のたたき台にしたいという意図もあった。テレビとショッピングを融合した番組で、エピソードの最後に優勝作品が表示され、親切にも、Amazonで購入するためのリンクが付いていた。さらに、Amazonは視聴者向けの「メイキング・ザ・カット」ストアに、高価な商品をいくつか追加した。番組からインスピレーションを得た服のなかには995ドル(約10万4000円)の商品もあった。
プロダクトプレイスメントのリスク
テレビ番組とショッピングを融合しているのはAmazonだけではない。ウォルマート(Walmart)は7月までストリーミングサービスのブードゥー(Vudu)を所有していたが、コンテンツではなくeコマースが狙いのように見えた。広告に「買い物かごに入れる」ボタンを紛れ込ませていたためだ。しかし、人気番組が生まれることはなく、広告主は一貫して消極的だった。こうしてブードゥーは失敗に終わったが、ウォルマートは諦めていないようだ。現在、動画プラットフォームTikTokに投資するための交渉が進められている。
こうしたあからさまなプロダクトプレイスメントにはリスクもある。「私自身のものを含むプロダクトプレイスメントの研究は、プロダクトプレイスメントが目立つほど、通常は売上増加の効果が落ちると示唆している」と、フォッセン教授は話す。効果を高めたければ、「番組の筋書きと視聴者にとって有益なプロダクトプレイスメントにしなければならない。視聴者が気をそらされ、娯楽としての価値が下がるようではいけない」。
その点で、「THE HOME EDIT」と「メイキング・ザ・カット」はうまくやっている。どちらも商品と番組が分離できないくらい一体化している。両者に違いがあるとしたら、Netflixは今のところ、番組に商品広告を組み込むつもりはないと明言していることだ。一方、Amazonとウォルマートはすでに、番組と商品広告を組み合わせている。
最大の変革が起きるのはしばらく先
しかし、ショッパブルTVに最大の変革が起きるのはしばらく先になりそうだ。この数年、ミリアド(Mirriad)、リフ(Ryff)という2つのスタートアップが、見る人によってプロダクトプレイスメントを入れ替える技術を売り込んでいる。簡単に言えば、テレビをマイクロターゲティングの楽園に変える技術だ。たとえば、ミリアドにプリングルズ(Pringles)の大ファンだと判断された人は、番組内でプリングルスの巨大な広告看板を目にすることになるかもしれない。新しい掃除機の購入を検討している人の場合、同じ広告看板にダイソン(Dyson)の商品が表示される可能性がある。
時間帯によってプロダクトプレイスメントを入れ替えることも可能だとミリアドは説明している。朝起きてすぐ「ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー」を再生した人は、番組にチェリオス(Cheerios:シリアルのブランド)やコーヒーが登場するかもしれない。同じエピソードを夜に再生したら、バーボンやモッツアレラスティックが出てくるかもしれない。
ミリアドは数年の歴史を持ち、20thテレビジョン(20th Television)やユニビジョン(Univision)、コンデナスト(Condé Nast)と取引関係にあるが、大手ストリーミング企業のパートナーはまだいない。
現在のところ、ストリーミング企業が売上の急増にもっとも貢献したのはコンテイナー・ストアの例だ。マイクロターゲティングのスポンサーシップの流入はおそらく不可避だが、まだ水門は完全に開いていない。
[原文:The Container Store’s Netflix partnership hints at the future of streaming-based retail]
MICHAEL WATERS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)