Facebookとエリザベス・ウォーレン上院議員が火を付けた、2020年大統領選でプラットフォームは政治広告を許容すべきか否かに関する、数週間におよぶ論争があった。この政治広告に関する騒動は、扇情的な政治広告の隣に自社のコンテンツを表示されたくない広告主に、ブランドセーフティへの懸念を抱かせることになった。
ソーシャルプラットフォームと政治広告をめぐるこのたびの議論は、当たり前の結論に落ちつきはした。だが、このようなプラットフォームにおける政治的な広告の是非に関わる、より本質的な議論はいまも続く。
Twitter(ツイッター)のジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は10月30日、同社が運営するプラットフォームでの政治広告の掲載を禁止すると発表した。決断の背景には、Facebookとエリザベス・ウォーレン上院議員が火を付けた、2020年大統領選でプラットフォームは政治広告を許容すべきか否かに関する、数週間におよぶ論争があった。そして、この政治広告に関する騒動は、扇情的な政治広告の隣に自社のコンテンツを表示されたくない広告主に、プラットフォーム上でのブランドセーフティに関する懸念を抱かせることになった。同時に、マーケターやエージェンシーの幹部たちは、クライアントが政治と隣り合わせの問題を広告を通じて語りはじめたこともあり、プラットフォームごとに異なるルールがクライアントのマーケティング活動にどう影響するのか見極めきれずにいる。仮に、プラットフォーム上で意見広告が禁止されれば、クライアントにとってはリスクとなりうる。たとえば、パタゴニア(Patagonia)は、今後も広告のなかで、気候変動について論じることができるのか。
「デジタルでの政治広告は、本質的に問題のある領域だ」と、UMのエグゼクティブバイスプレジデント(EVP)で、デジタルとイノベーションの最高責任者を務めるジョシュア・ローコック氏は指摘する。「デジタルは規制されていない」ため、さらには「複数のプラットフォームで一貫性のない決定」がなされることもあり、舵取りの難しい環境ともなりうるという。「マーケターの懸念もある。我々は、クライアントの立場で、彼らの考えを主要なプラットフォームに直接伝えてきた。対話は進行しているが、あくまでも水面下の対話だ」。
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政治広告を嫌がる広告主
マーケターたちの具体的な心配は一様ではないが、一般的には主に、プラットフォーム間に一貫性がないこと、ポリシーの決定過程が透明でないこと、広告が敵意のある政治的コンテンツの隣に表示される恐れがあることなどが挙げられる。とはいえ、マーケターたちがプラットフォームからすぐにも予算を引き上げるというわけではなく、エージェンシー、クライアント、プラットフォームのあいだで、政治広告の懸念に対応すべく話し合いが行われている。
「政治広告に隣接した広告表示を嫌がるクライアントが非常に多い」と、メディアキッチン(The Media Kitchen)のプレジデントを務めるバリー・ローウェンタール氏は明かす。反面、ローウェンタール氏のクライアントやほかのエージェンシー関係者らは、Facebookを含め、政治広告を掲載するプラットフォームから広告予算を引き上げるよう依頼されたことはまだないと口をそろえる。
「エージェンシーやクライアントと話をすると、多くの広告主やエージェンシーの場合、ブランドセーフティの問題に立ち戻る」と、アメリカ広告業協会(4A’s)でガバメントリレーションズ担当のシニアバイスプレジデントを務めるアリソン・ペッパー氏は言う。「(ブランドは)自社の広告が政治的に有害な広告の隣に出るのを好まない」。
プラットフォーム上の政治広告の存在は、近年、プラットフォームに溢れかえるブランドセーフティの問題をいっそう複雑化させる。広告主たちは、自社のコンテンツが扇動的な政治広告の隣に表示されるかもしれないという考えに、神経をとがらせる。今後企業は、政治広告が出ない場所を基準に、広告の出稿先を決めるかもしれない。
現在、Facebook、インスタグラム(Instagram)、Google、YouTube、Snapchat(スナップチャット)は政治広告を容認している。Twitterが政治広告の禁止を決めたいま、LinkedIn(リンクトイン)、TikTok(ティックトック)、Pinterest(ピンタレスト)に続いて、政治広告収入を拒絶することになる。ソーシャルメディアはデジタルの政治広告の一局面にすぎない。ウェズリアンメディア・プロジェクト(Wesleyan Media Project)の調べによると、2020年大統領選挙の有力な候補者が使ったデジタル広告費は、現在、全体で8460万ドル(約92億円)にのぼる。また、カンター(Kantar)は、2020年大統領選のキャンペーンでは、広告に60億ドル(約6540億円)が投じられ、うち20%をデジタル広告が占めると予測している。このうちどれだけの金額がプラットフォームに当てられるかは不明だが、比率的にはごく一部と予想される。プラットフォームが政治広告から得る収入は大きくない。2018年におけるTwitterの政治広告収入は300万ドル(約3.2億円)に満たなかった。Facebookは政治広告収入の比率を毎年0.5%前後と発表している。
広告から政治を排除すること
マーケターたちがプラットフォーム上での政治広告に懸念を抱く一方、広告から政治を排除することは、特にそれが意見広告である場合、困難であると判明している。マーケティング活動でブランドパーパスを強く打ち出すマーケターが増えており、なかにはマーケティングミックスに政治問題やコーズマーケティングを含めることもある。意見広告が禁止なら、ブランドは、マーケティング活動の一環として、その意見を論じることができなくなるのか。たとえば、この5月、シンクス(Thinx)やファー(Fur)を含む女性起業家によるD2C(Direct to Consumer)ブランドが、広告を通じて中絶権の支持を表明したのだが、意見広告が禁止となった場合、プラットフォーム上でこのような活動を展開できるのか不透明だ。
ドーシー氏が「Twitterでの政治広告を禁止する」という決断を発表したツイートのなかで述べている通り、意見広告はこの問題を一段と複雑化させる要因だ。「どこで線を引くかが厄介な問題だ」と、ローコック氏は指摘する。エネルギーや教育など、政治と隣り合わせのテーマが状況をさらにいっそう難しくするという。「複雑なカテゴリーである一方、エネルギー、公共サービス、教育分野のクライアントを持たないエージェンシーなど存在しないし、それが潜在的にさらなる混乱を生じうる」。
デコーデッドアドバタイジング(Decoded Advertising)の創設者でCEOのマシュー・レドナー氏によると、意見広告の全面排除は「問題が多い」という。「どこで線引きをするのか? 石油会社は広告に数十億ドルを投じているが、環境保護派の人々はこの石油会社のメッセージに反論できないのか?」と、彼は問う。
ターゲティングがはらむ問題
プラットフォーム上での政治広告には、政治家が自身のメッセージを特定のニッチな利益団体にターゲティングできるという問題もある。集団に対するターゲティング広告は一般的で、広告主たちもテレビを通じてある地域の集団にターゲティングメッセージを送っているが、近年、プラットフォームの別を問わず、ターゲティング能力はめざましい進歩を遂げている。このようなターゲティング能力の高度化にともない、マーケターたちがデジタルプラットフォームに投じる予算も増えている。というのも、適切なユーザーの目の前に、適切なタイミングでメッセージを発信する能力は、売上の達成という最終目標に潜在的に貢献するからだ。
「石けんの新商品ひとつを出すにしても、ターゲットオーディエンスを決めて広告を配信する」と、ソーシャルコード(SocialCode)のローラ・オショネシー最高経営責任者(CEO)は言い、選挙の候補者も有権者にターゲティング出来て当然だと主張する。「ターゲティング能力は別物で、それそのものが悪いわけではない。要はマーケティングのあり方だ」。
プラットフォーム上で特定の利益や小規模の集団にターゲティングできれば、それはマーケターたちの役に立つ。反面、プラットフォーム上でそのようなターゲティング機能を政治広告に利用できるとなると、それは政治広告を見る集団の大きさや、政治広告を見る人々に差別的な手法が使われていないかなど、多くの問題を提起すると、エージェンシー関係者は言う。
「業界は変曲点を迎えている」
「それは問題を加熱させ、偽情報を加速させかねない」と、ローウェンタール氏は言う。「かつて、ターゲティングの対象は、ある問題に関心を持つ人々だった。いまやターゲティングは偽情報をより信じそうな人々に到達するための道具となっている。真の問題はそこにあると、私は思う」。
ペッパー氏は、疑わしいプロパガンダは「新しい」ものではないが、「そのプロパガンダが広まる範囲は、比較的新しい現象だ」と指摘する。「プラットフォームとマイクロターゲティングの登場で、我々の業界は変曲点を迎えている」と、同氏は言う。「我々は社会として向かうべき方向を定めなければならない」。
Kristina Monllos(原文 / 訳:英じゅんこ)