昨年10月、タブーラ(Taboola)とアウトブレイン(Outbrain)が、コンテンツレコメンデーションの「モノリス(一枚岩)」を形成する計画を発表したときは、世界情勢はもっとシンプルだった。以来、数カ月のあいだに、予測不可能なパンデミックが巻き起こり、両社のビジネスを混乱させた。
昨年10月、タブーラ(Taboola)とアウトブレイン(Outbrain)が、コンテンツレコメンデーションの「モノリス(一枚岩)」を形成する計画を発表したときは、世界情勢はもっとシンプルだった。
以来、数カ月のあいだに、予測不可能なパンデミックが巻き起こり、両社のビジネスを混乱させた(世界各国の規制当局も、この合併はコンテンツレコメンデーション分野の競争に悪影響を及ぼすという懸念を抱いていたが、両社の合併は白紙に戻されるという)。そして、いまパブリッシャーたちは、驚きと同時に安堵の表情を見せている。
イスラエルの金融紙「カルカリスト(Calcalist)」は8日火曜日に、両社が取引から手を引いたと最初に報じた。米DIGIDAYは、この件に詳しい複数の情報筋に確認を行っている。
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「結婚式の参加者が突然、式の中止を宣告されたような驚きを少し感じている」と、大手ニュースパブリッシャーの収益担当エグゼクティブは語る。「最終的には、ふたつの健全なビジネスが出現し、イノベーションを起こし、パブリッシャーに多くを還元できれば、それは素晴らしいことだ。だが、それは激動のマーケットに(または実質的なプラットフォームに)直面して、両社のビジネスを弱体化させることになった場合、それは良いニュースとはいえない」。
当初の計画でタブーラは、2.5億ドル(約256億円)のキャッシュと統合会社の30%の株式で、アウトブレインを買収すると発表。その統合会社は、タブーラのアダム・シンゴルダCEOが率いることになり、2000人以上の従業員を抱えることになった。当時、両社のプラットフォームを組み合わせることで、ウェブ上のスポンサードリンクの購入を考えている広告主にとって、より効率的になり、新会社はテクノロジーやプロダクトへの投資を増やすことで、パブリッシャーの収益を増やすことができるだろうとされていた。
しかし、パブリッシャーは難色を示していた。というのも、どちらも2000年代半ばにイスラエルで設立されたタブーラとアウトブレインは、もっとも収益性の高いパブリッシャーとの独占的なパートナーシップを得るために、多額の(しかし、一見不経済な)保証契約と収益分配契約を結ぶことを、長いあいだ競い合ってきたからだ。そのため、パブリッシャーは契約が終了すると、アウトブレインとタブーラを切り替えるのが一般的だったという。あるパブリッシャーのエグゼクティブは、この交渉を「家の保険のように、2年ごとに切り替える」と表現していた。
タブーラとアウトブレインからの高額な小切手を毎月頼りにしてきたパブリッシャーは、コンテンツレコメンデーション市場の最大手が合併することで、価格の下落圧力がかかることを恐れた。業界ではすでに「チャムバケット(chumbucket:撒き餌のバケツ)」と呼ばれている広告ユニットが「底値競争」に陥ると読んだのだ。
タブーラとアウトブレインのすれ違い
3月にコロナウイルスが流行し、広告主は流行初期の数カ月間に支出を抑制した。そのため、メディア業界の多くの企業と同様に、タブーラとアウトブレインの事業は、激動に見舞われた。これに対応して、タブーラは、損失を出していた収益保証を一時的に停止したと説明。その代わりに、収益分配契約に切り替えた。同社に詳しい人によると、タブーラのこうした対応は、既存の保証取引から切り替えなかったアウトブレインとのあいだに、緊張を生んだという。
7月には、タブーラの最大の顧客の1社であるFOXニュース(Fox News)が、ベライゾンメディア(Verizon Media)のネイティブ広告製品へ切り替えるために、同社との契約を打ち切った。コムスコア(comScore)によると、FOXニュースにおける7月のユニークビジター数は、1億3900万人を超えているという。この動きは、ベライゾンメディアネイティブ(Verizon Media Native:2018年にYahooジェミニ[Yahoo Gemini]から改名された)が、主にベライゾンメディアの所有・運営するプロパティのみにサービスを提供していたため、注目すべきものだった。
アウトブレインとの合併の一環としてタブーラは、2.5億ドルにおよぶキャッシュを用意するため、資金調達を計画していた。そのためタブーラはこの数週間、キャッシュを減らすか、株式の持ち分を増やすか、合併の再交渉を求めていたが、アウトブレインはこれを拒否したと、この件に詳しい関係者は述べている。同関係者によると、タブーラは8月に期限が切れたあと、銀行との融資契約を更新していなかったという。
その関係者の話では、アウトブレインは10月に取引を成立させるための期限を設定していたが、競争規制当局が提案されている取引を調査するにつれ、その計画はますます可能性が低くなってきていた。米国司法省が7月にこの取引を回避したのに対し、英国の競争市場局は今年の夏、合併案を「第2段階の調査」に委任したという。
英国のCMA(Competition and Markets Authority:競争市場局)は、コンテンツレコメンデーションサービスの選択肢が減り、条件が悪化して、同国のパブリッシャーの広告収入が減るのではないかと懸念していた。CMAによると、タブーラとアウトブレインは、英国のコンテンツレコメンデーション市場の80%のシェアを持っていたからだ。この合併は、ニッチなコンテンツレコメンデーション分野だけではなく、GoogleやFacebookとの競争力を高めるためだと、タブーラとアウトブレインは主張していた。
イスラエル競争局(ICA)の合併案に対する調査は、また傑出したものだった。これが、手続きにさらなるしわ寄せを加える。イスラエルのビジネス紙「グローブス(Globes)」が8日に報じたところによると、合併が当局によって承認される前に、タブーラとアウトブレインのあいだの調整の疑惑をめぐって、ICAがタブーラの顧客である地元のニュースサイト、ワイネット(Ynet)の調査を開始したという。
米DIGIDAYが8日に確認した、タブーラの従業員向けのメモのなかで、シンゴルダ氏はICAが「調査を開始した」ことを確認したが、具体的な内容には言及しなかった。「我々は何も間違ったことはしていないし、調査によってそれが明らかになると確信している」と、彼は書いている。
そのメモのなかで、シンゴルダ氏はまた、タブーラがアウトブレインとの合併を中止することにした理由として、「合併発表以来、我々は成長を続け、これまで以上に良い業績を上げているが、アウトブレインのビジネスは停滞し続けており、実際には下降傾向にある」と述べている。
さらに、シンゴルダ氏はメモのなかで、アウトブレインが「過去2年間、自社への投資をやや劇的に過小評価していた」と主張し、その結果、タブーラは当初の取引条件を修正することになったと主張。メモによると、タブーラはいま、「自社の資本と株式でIPOの道を目指す」という。
米DIGIDAYに送られた声明のなかで、アウトブレインの共同最高経営責任者(CEO)ヤロン・ガライ氏は、タブーラが「今年初めにパブリッシャーの契約を変更したのと同じように」当初の契約を変更しようとしたため、同社は今回の契約を終了することにしたと述べている。
「アウトブレインは利益を上げ、主要な指標をすべて達成しており、強力な[前年比]成長を経験している。重要なことは、アウトブレインの利益は、パブリッシャーパートナーとの約束を守りつつ、パブリッシャーパートナーと一致して達成されているということだ」と、ガライ氏は続けた。
タブーラは現在、これらの保証契約の一部を復活させようとしている。
シンゴルダ氏は声明のなかで次のように述べた。「世界でもっとも重要な報道機関のいくつかとのパートナーシップの強さを誇りに思う。パンデミックが最初に起こった3月に、一緒に嵐を乗り切り、短期間で収益分配に移行して、協定の最後には保証を押し通した」。
敵対関係に戻った2社の向かうところ
タブーラとアウトブレインは、明らかに旧来の敵対関係に戻った。両社ともいまでは、(たとえ高いレベルであっても、合併や買収を取り巻く開示ルールを考えると)お互いの財務状況を明らかにしたという利点があると、タブーラとアウトブレインのライバルであるレブコンテント(Revcontent)のリチャード・マルケスCEOは述べている。
「このビジネスのやり方は、もし私が巨大なパブリッシャーであれば、2~3社の[コンテンツレコメンデーション]企業に競り合いを始めてもらい、もっとも高い入札者に取引を売るというものだ」と、マルケス氏は語る。「ベンダー側からすれば、可能な限りの支払い能力があるところで、どれだけ高く売れるかということだ」。
アフターコロナの風景では、タブーラとアウトブレインの「過去の[旨味の多い]保証取引」は、まったく同じ方法では実現しないかもしれないと、英国のマネージングディレクターであり、ネイティブ広告会社アドユーライク(Adyoulike)の共同創設者であるデール・ラベル氏は述べる。
彼はさらに、「合併、新型コロナの影響、そして新しいM&Aの状況は、間違いなくコンテンツレコメンデーションスペースに混乱の余地を残している」と付け加えた。
ある大手全国ニュースパブリッシャーのエグゼクティブは、タブーラとアウトブレインの合併が発表されたとき、やや懐疑的だったと述べている。
「需要が多ければ多いほどオークション圧力が高まり、パブリッシャーにとってはより高い利回りが得られるという考えを私は常に持っていたが、歴史はそうではないことを物語っている。市場に競争がなければ、交渉力を失うことになるのだ」と、そのエグゼクティブは語った。
「我々のビジネスのための競争は、一般的に良いものだ」と、別のパブリッシャーのコマーシャル・エグゼクティブも同調している。
[原文:Why the Taboola-Outbrain deal fell apart and what it means for publishers]
LARA O’REILLY (翻訳、編集:長田真)