Appleがプライバシーポリシーを改める発表をして、アドテク業界を動揺の渦に陥れてから、4カ月弱が過ぎた。Appleは9月下旬、自社デペロッパーサイトの「ユーザープライバシー&データ使用」ページに「FAQ(よくある質問)」セクションをひそかに加えた。混乱の収拾が目的とは思われるが、さらなる混乱を生んでいる。
Appleがプライバシーポリシーを改め、個人データの利用に関する同意がなければ、アプリデベロッパーはサードパーティのウェブサイト/アプリ上でユーザーを追跡できないとする旨を発表してから、4カ月弱が過ぎた。この内容は、モバイル広告会社およびパブリッシャー勢を動揺の渦に陥れた。
混乱の主な原因は、その厳しい新ルールがアドテク業界の誰に適用されるのかについて、業界のなかで解釈が大きく異なっている点にある。7月にも書いたとおり、アドテク専門家らは当時、Appleの発表には「看過できないグレーゾーンが複数」存在すると指摘していた。
4週間ほど前(過去のウェブサイトを閲覧できる無料ツール『ウェイバックマシン[Wayback Machine]』によれば、9月25日)、Appleは自社デペロッパーサイトの「ユーザープライバシー&データ使用」ページに「FAQ(よくある質問)」セクションをひそかに加えた。混乱の収拾が目的とは思われるが、文字どおりいつの間にかの出来事であったため、筆者が話を聞いたアドテク専門家の多く(ビジネスモデルが現在Appleの広告主識別子[IDFA]の機能と密接に関係している人たちも含まれる)は、先週(10月第3週)偶然に見つけたという。
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この件についてAppleに問い合わせたが、回答はなかった。
アドテク幹部が注目する項目
そのFAQは「[モバイル測定パートナー]と[デマンドサイドプラットフォーム]が享受している不明確性をいくつか明確にした」と、パフォーマンスエージェンシー、ヘラクレス・メディア(Heracles Media)のストラテジーコンサルタントで、ブログ「モバイル・デヴ・メモ(Mobile Dev Memo)」のオーナー、 エリック・スーファート氏はいう。
この1週間(10月第3週前半)に私が話を聞いたアドテク幹部らは、8つあるFAQのうち、以下の3つに特に注目していた。
- デペロッパーは、ハッシュ化したメールアドレスや電話番号といった、IDFA以外の識別子を使用することができない――追跡同意プロンプトを介してユーザーの許可を得た場合は、その限りではない。
- サードパーティが提供するシングルサインオン(Facebookのログインといった、統合ID管理サービスなど)を使用しているアプリデペロッパーも、当該機能を追跡に使用する場合は必ず、ユーザーの同意を得なければならない。アプリに挿入されているSDK(ソフトウェア開発キット)による追跡についても、デペロッパーはユーザーの同意を得る責任を負う。
- デベロッパーは、追跡の許可を目的として機能を開閉(gate)することができない。また、当該アプリのエクスペリエンスを通常以上に充実させることで、ユーザーに追跡の同意を促すこともできない。
「このFAQを読めばわかるとおり、新ポリシーはアドテク業界が思っていたよりもはるかに厳しいものであり」、フィンガープリンティングとシングルサインオンがもはやAppleユーザーの追跡に使えない以上、「今後はオプトイン率の上昇に、そしてコンテクスチュアルターゲティングの開発に焦点が移行していくことになると思う」と、アリート・リサーチ(Arete Research)のインターネットエクイティリサーチアナリスト、ロッコ・ストラウス氏はeメールでの質問に答えた。
行き過ぎと感じる強硬姿勢
アドテク業界の事情通らは一方、Appleのこうした――なかでも、IDFA以外の識別子の利用に対する同意の取得法に関する――強硬姿勢は行き過ぎだと感じている。
「Appleが自社製の識別子を管理するのも、それをユーザーにとってわかりやすいものにするのも良いが――これまでの使用法は間違っていた、見えない部分が多すぎたからだ――ユーザーが承認しても良いと考えている、ほかの識別子まで管理する権限はないはずだ」と、データプラットフォーム、インフォサム(InfoSum)のCEOニコラス・ハルステッド氏はいう。「そうした機能まで管理しようとするのは、やり過ぎの気がする」。
また、アイデンティティプラットフォームID5のCEOマシュー・ローシュ氏は、Appleが取ろうとしている「行き過ぎた姿勢」は、企業に回避策を講じさせる誘因にもなりかねないと指摘する。
今回のポリシー変更は「パブリッシャーがユーザーとの自由な関係[構築]を阻害するものであり、そういう意味では、Appleの優越的地位の乱用にほかならない」と、ローシュ氏は続ける。「サブスクライバーがいようが、ユーザーとメールアドレスを得られる関係を築いていようが、関係ない。誰もがとにかくAppleのデフォルトプロセスを通らされる……彼らはその点をきわめて明確にしているわけであり、それこそ挑発にも思えてくる」。
コンテクスチュアルへの険しい道のり
ただ、IDFAの同意がなくとも、パブリッシャーは――当該個人情報をサードパーティと共有しない限り――AppleのIDFV(ベンダー識別子)を使い、自身のアプリ内でパーソナライズド広告を打つことは可能だと、アリートのストラウス氏はいう。IDFVはさらに、パブリッシャーがフリークエンシーキャッピングやアドサプレッションなどにも利用できるが、それもアプリの垣根を越えた追跡への同意が得られなければ、自社アプリ内に限った話となる。
件のFAQの文言を読むかぎり、コンテクスチュアルターゲティングが今後、マーケターのモバイルアプリ広告戦略においてより大きな役割を果たすことになるのは、間違いないだろう。ただし、コンテクスチュアルへの道のりは、少なくともしばらくのあいだは、険しいものになりそうだ。
「何についても、ウーバー(Uber)並みに測定可能であることが当たり前になっているエコシステムは、大混乱に陥る」と、ロケーションインテリジェンスに特化するアドテク企業、ブリス(Blis)のチーフテクノロジーオフィサー、アーロン・マッキー氏は予想する。
Appleの測定ソリューションSKAdnetworkは、最適化にとりわけフォーカスするマーケター勢が慣れ親しんでいるシステムに比べて、「精密度がはるかに低い」とマッキー氏は指摘する。
そして、「業界がそれに合わせて再調整するまでには、しばらくかかるだろう」とも、氏はいい添える。
「やはり曖昧な部分が多すぎる」
新プライバシーポリシーの施行時期は、いまだ不明だ――Appleは「2021年前半」としか言っていない。当初は新OS、iOS14の導入に合わせた、今年9月になると目されていたが、それではデベロッパーおよび広告主の準備が間に合わないと考えたのだろう、Appleは導入を延期した。
その間も依然、関係企業らはより明確な説明/対話をAppleに求め続けている。
「相変わらず、穴だらけだ」と、モバイルマネタイゼーションプラットフォーム、ファイバー(Fyber)のプロダクトマネジメント部門バイスプレジデント、アロン・ゴーラン氏はいう。「弊社を含め、どこの法務部も、やはり曖昧な部分が多すぎると考えている」。
LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)