ストリーミングTV、黒字化の鍵は「ターゲティング」の向上

YouTube TVなどのストリーミングテレビサービスは、インターネットで安価なチャンネルパッケージを提供してケーブルテレビからユーザーを奪うことを目指している。しかし、有料テレビモデルの関連で番組コストが高くなり、黒字化も難しいというのがこれまでだった。

こうしたいわゆるスキニーバンドル――テレビ業界の用語でバーチャルMVPD(Multichannnel Video Programming Distributor)――は合計契約数が600万件を突破した。テクノロジー系メディアのジ・インフォメーション(The Information)によると、ディッシュ・ネットワーク(Dish Network)のスリングTV(Sling TV)とAT&TのディレクTV ナウ(DirecTV Now)がほかを一歩リードして、契約数がそれぞれ220万件と180万件。Hulu(フールー)のライブTV(Live TV)とYouTube TVがそれぞれ100万件と80万件。それにソニーのプレイステーション ヴュー(PlayStation Vue)が50万件で、以上がいわゆるビッグ5だ(これ以下の、スポーツ中継で10万件超えのフーボTV[FuboTV]や、スポーツ以外のケーブルチャンネルが中心のフィロ[Philo]などもバーチャルMVPDにあたる)。

ケーブルテレビ、衛星放送、通信キャリアといった従来型ディストリビューターの契約数減少は、こうしたストリーミングサービスで一部相殺されるが、バーチャルMVPDの数字は、従来型のサービスにいまもお金を払っている推計9200万件にはまだおよばない。

ほとんどのバーチャルMVPDは、さまざまなテレビチャンネルを提供するために毎月支払っている額が、顧客への毎月の請求額を上回っており、いまだに持ち出しの状態だ。ジ・インフォメーションによると、たとえばYouTube TVの月額料金は40ドルだが、チャンネルのオーナーたちには約49ドルを支払っている。従来型有料テレビからもっと顧客を奪い、規模と先進の広告ターゲティングを組み合わせることで、広告収益を増やしていくというのがバーチャルMVPDの願いだ。

売りは「より良いターゲティング」と「ユニークなプラットフォーム」

バーチャルMVPDは、真のアドレサブル広告――すなわち世帯単位、あるいは潜在的にはテレビオーディエンス単位のターゲティング――を提供する業者だという立場をとっている。

ケーブルテレビや衛星放送と同様に、バーチャルMVPDによるサービスもチャンネルでは番組1時間あたり2分間の広告インベントリー(在庫)がある。スリングTV、ディレクTV ナウ、フーボTVは、すでにこの広告枠を販売中だ。Huluはこの1カ月、同社のライブTVで段階的に販売をスタートさせており、YouTubeもこの秋、テレビ番組の次のシーズンがはじまるまでに、同様にスタートさせる計画をしている。

「まだ規模はないが、ターゲティング性能が主なセールスポイントのひとつになっている」と、マインドシェア・ノースアメリカ(Mindshare North America)でクロスプラットフォーム投資のマネージングディレクターを務めるマット・ディナースタイン氏は語った。

もうひとつのセールスポイントは、サービス自体の独自性だ。たとえばHuluは、ライブTVのインベントリーを単独で売ることは当面、予定していない。現在は、広告を導入しているサブスクリプション動画サービスとライブTVサービスの、横断的なパッケージを販売している。人々が慣れ親しんでいる視聴習慣と同じように、広告主も、ときにライブ、ときにオンデマンドとテレビを購入していく。

YouTube TVは、通常のYouTubeの上位5%のチャンネルなどから構成される「Google Preferred(グーグル・プリファード)」の上位ラインナップ内で、テレビのインベントリーのパッケージを提供する(通常のYouTubeとYouTube Premium(プレミアム)を活用できるYouTube TVは、競合相手とは違うテレビと動画のユニークなサービスという位置付けなのだ)。AT&Tは、従来のテレビのインベントリーを、ディレクTV ナウや、タイムワーナー(Time Warner)の獲得で傘下になったターナー(Turner)のケーブルチャンネルとパッケージングしていく。スリングTVは、スリングTVとディッシュ・ネットワークにまたがるプラットフォームの垣根を越えた広告インベントリーを提供することができる。

バーチャルMVPDに対する広告主の関心は高まっているようだ。あるメディアバイヤーによると、最近、複数のバーチャルMVPDをテストしたところ、30秒のコマーシャル枠のCPMは30~70ドルだったという。また、フーボTVのCEOのデビッド・ガンドラー氏によると、フーボTVはCPMが40ドルを超えてきているという。

特定のネットワークや番組ではなく、オーディエンスに基づいた購入の価値

バーチャルMVPDは、精度が高いターゲティングを提供することで、インベントリーのプレミアム料金を請求できると考えている。問題は、広告主がそれを払うかどうかだ。

AT&Tは、CEOのランドール・スティーブンソン氏が直近の業績発表で、ディレクTVはデータを駆使して特定のオーディエンスに広告をターゲティングすることで、販売広告あたりの売り上げを3~5倍にできると語った。スリングTVは、広告セールスの責任者、アダム・ローウィー氏によるとアドレサブル広告の需要が高まっている。スリングTVの広告購入の80%以上が、何らかの形で(番組とネットワーク以外を)ターゲティングしたものになっているのだ。スリングTVでは先月、(アドレサブル広告の購入を含む)プログラマティック商品が広告ビジネスの50%になった。5カ月前は、およそ15%しかなかった。

「広告主はこれからもネットワークや番組の購入を求めてくるだろう」と、ローウィー氏は語る。「しかし、特に我々がアドレサブル広告をテレビのプレミアムコンテンツに結びつけているところでは、新しい方式の購入にも慣れてきている」。

広告バイヤーたちの声は、バーチャルMVPDの高度にターゲティングされた広告にプレミアム料金を払うのはいいが、クライアントやクライアントの目的によって対応は変わるだろうというものだった。また、特定のネットワークやテレビ番組に広告を出せることに価値があるのだという主張もまだあり、YouTube TVやHuluのライブTVにはこれができない。

「一部のクライアントは文脈を大事にしている」と、メディアエージェンシーのスウェルシャーク(Swellshark)のCEO、ニック・パッパス氏はいう。「ネットワークやケーブルはいいとこ取りができる。バーチャルサービスだと、ネットワークやケーブルに直接あたる場合と同じレベルの特性が常に得られるわけではない」。

テレビとデジタルでの経歴が長いある幹部は、アドレサブル広告のインベントリーが高いCPMに見合う期間は限られていると補足した。「いずれ当たり前のことになり、プレミアムに値する新しいものではなくなる」と、この幹部は語る。

また、コムキャスト(Comcast)、ディレクTV、ディッシュのような従来型の大手ディストリビューターは、大量の契約者に訴求するアドレサブルオーディエンス商品と特定のネットワークやテレビ番組の両方を買えるようにしている。それがまだ魅力になるのだと、パッパス氏はいう。

「コムキャストや(従来型の)ディレクTVを買うと、常に家庭の一番大きな画面で見られることが、いまでも保証されるのに対し、Huluだとテレビ画面での視聴は時間にして60~70%になる」と、パッパス氏はいう。(Huluによると、いまは視聴の78%がテレビ画面)。「そして、コムキャスト、ディッシュ、ディレクTVは、アドレサブル商品の規模が、他社がまだ匹敵できないほど大きいことから、料金をより高く設定できる」。

番組編成(およびマーケティング)コストに伴う損失を広告収益で埋め合わせることができるか?

究極の問題は、バーチャルMVPDが黒字化するだけの広告収益を生み出せるかどうかだ。調査会社のSNLケーガン(SNL Kagan)のレポートによると、バーチャルMVPDの契約あたりの平均収益(ARPU)は37ドル。YouTube TV、ディレクTV ナウ、HuluのライブTV、ソニーのPSヴューなどバーチャルMVPDのサービスの大半は、基本バンドルが40ドルを超えている。

SNL-Kagan-vMVPD-ARPU

番組コストは、毎年数%ずつ増加する見込みで、これは有料テレビビジネスに共通している。

あるテレビネットワークのディストリビューション幹部は、「番組編成にはとても大きな額を投資しており、そうした投資は、オリジナル番組でもライセンスされる番組でもスポーツ中継でも引き続き増えていく」と語る。「こうしたコストが増加すれば回収する必要がある。(中略)しかし、最終的には交渉だ」。

ジ・インフォメーションによると、YouTubeはYouTube TVで独自広告の販売をはじめれば、契約者あたり15~16ドルになると見ている。YouTube TVをはじめとするバーチャルMVPDの場合、テレビチャンネルの1時間あたりの広告インベントリーが2分間しかないことから、とても無理だと思うかもしれない。

しかし、ディストリビューターはこうした数字を達成できるという根拠がある。コムキャストのケーブル事業は第2四半期、広告だけでテレビ契約者あたり約30.14ドルの売上だった。また、チャーター・コミュニケーションズ(Charter Communications)はテレビ契約者あたりの広告売上が20.94ドルだった。この2社はたしかに有料テレビの従来型ディストリビューターの米国における最大手だが、YouTubeが目ざしているのは両社のたかだか半分強だ。

「実際に、この分野は成長の余地が大きい」と、ガンドラー氏はいう。「(従来型の)ディストリビューターは何十年も広告を販売しており、実にうまくやってきたことは計算すればわかる。バーチャルMVPDのアドレサブル広告の価値はこれから大きく高まっていく」。

課題は規模

これをきちんとやっていくためには、バーチャルMVPDは契約数を600万件から大幅に増やすことが必要だ。SNLケーガンが6月に発表した別の調査は、バーチャルMVPDのサービスの契約数が2022年末には1530万件に増えると推計している。

「こうしたバーチャルMVPDがどこも持ち出しなのはすでにみんな知っている。論理的に、あんなわずかな額であんなにたくさんのネットワークを売ることはできない」と、コンサルティング企業のTVレブ(TVRev)のリードアナリスト、アラン・ウォルク氏は語る。「ああしているのは、オーディエンスの増加を目指しているからだ」。

バーチャルMVPDが何をもって従来のディストリビューターたちと肩を並べるだけの規模を達成するのか、業界筋の意見は分かれた。顧客を増やすためにチャンネルを増やす必要があるのだろうか。そうすると、バンドルが現在よりもますますスキニーではなくなってしまう。

「最終的には従来型(のディストリビューション)が崩壊するという考え方がある」と、先に登場したテレビとデジタルのベテラン幹部は話す。「それまでに規模の重要性は下がり、(従来型が)倒れた後始末をできるように、耐え忍んで長く生きながらえることが重要になる。問題は、それまでどれくらいかかるのか、そして、そのために必要な資本を集めることができるのかということだ」と、この幹部は語った。

Sahil Patel (原文 / 訳:ガリレオ)