2020年のホリデーシーズン、ストリーミングサービスが抱えるインベントリーは人気商品だった。メディア企業3社の幹部によれば、各社のストリーミングインベントリーは2020年11月の時点で年末分まで完売していたという。これは2020年初期と比べると劇的な変化だ。ある幹部はあまりの売れ行きに困惑したという。
2020年のホリデーシーズン、ストリーミングサービスが抱えるインベントリーは、マイクロソフト(Microsoft)やソニー(Sony)の新しいゲーム機と同じ状況になった。つまり、在庫を維持するのが難しい人気商品だったということだ。「2020年の第4四半期はインプレッションを見つけるのが難しかった」と、あるエージェンシー幹部は話す。
メディア企業3社の幹部によれば、各社のストリーミングインベントリーは感謝祭前(2020年11月)の時点で年末分まで完売していたという。いずれも独自のコネクテッドTVアプリを所有し、バイアコムCBS(ViacomCBS)のプルートTV(Pluto TV)、サムスンTVプラス(Samsung TV Plus)といったコネクテッドTVプラットフォームで年中無休のストリーミングチャンネルを運営するメディア企業だ。これは、2020年初期と比べると劇的な変化だ。あるメディア幹部は「4月を振り返ると、ほかのサービスと同じく半分売れ残っていた。それが年末には売れすぎて困惑した」と語り、広告主の需要の増加がストリーミングのCPMを押し上げ、最高で「平均の2倍に達した」と補足した。
予想以上の需要
広告の売り手、買い手ともに、2020年はストリーミングインベントリーが供給不足に陥ると予想していた。2020年3月の外出禁止令をきっかけに、各ストリーミングサービスの視聴者数の伸びが全体的に加速し、さらに一部の広告主の事業がパンデミックから回復に転じ、第4四半期には抑圧された需要が解き放たれると見込まれていたためだ。その結果、従来型のテレビ広告の市場が圧迫され、ストリーミング市場にもその影響が及んだ。別のエージェンシー幹部は「従来型テレビやケーブルテレビだけでなく、テレビのような動画が存在するすべての場所で供給不足が発生していた」と話す。
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さらに、別のメディア幹部はオンラインショッピングが拡大したことを受け、広告主がホリデーシーズンの予算をシーズン前半に集中させたため、「我々も前倒しを余儀なくされた」と述べている。この幹部が働くメディア企業は当初、通常より高値で販売可能なインベントリーを駆け込みで購入する広告主のために取っておこうと考えていた。しかし、あまりに多くの広告主が視聴者数保証付きの購入を望んだため、結局、11月中旬に予備のインベントリーを放出することになった。「余裕を持たせたつもりだったが、それでも感謝祭まで持ちこたえられなかった」。
最初のメディア幹部は「我々は(広告主に)『御社のニーズに確実に応えられる方法はありません。注文は承りますが、1カ月の視聴者数が十分伸びれば受注するという形になります』と伝えなければならなかった」と振り返る。
当然ながら、完売という言葉は一種の交渉術だと捉えている広告バイヤーもいる。かつて放送されていた人気のモキュメンタリーコメディ番組「オフィス(The Office)」のなかで敏腕セールスマンのドワイト・シュルートは、子供に人気の玩具であるプリンセス・ユニコーン(Princess Unicorn)人形を買い占め、パニックに陥った親たちに大幅な高値で販売していた。それと同じように、追加のインベントリーが魔法のように現れ、高値で購入可能になったと広告主に伝えるため、メディア企業が「完売」という言葉を使うこともあり得る。3人目のエージェンシー幹部は「メディア各社は(2020年のアップフロント[広告枠先行販売]市場でストリーミングインベントリーに)付けた値段が安すぎたと考え、『売り切れました』と叫ぶことでCPMを引き上げようとしているのではないだろうか」と話す。
売れ残っている在庫も
しかし、価格の吊り上げを意図していたかどうかは別にして、実際のところストリーミングインベントリーは決して完売していない。
エージェンシー幹部とメディア幹部の話を総合すると、ディズニー(Disney)のHulu(フールー)など、メディア企業が直接購入するテレビ品質の番組のストリーミング広告が特に不足しているようだ。最初のエージェンシー幹部は「Huluが完売したのは(この2~3年で)初めてかもしれない」と述べ、Huluのオーディエンスはここ数年で大幅に拡大したため、供給不足は解消されていたと説明した。
対照的に、小規模なストリーミングサービスから集められた低品質なインベントリーは購入しやすいとメディア幹部は口をそろえる。コネクテッドTVプラットフォーム、無料の広告付きストリーミングテレビプラットフォームといったストリーミング広告のアグリゲーターからインベントリーが完売したメディア企業に、売れ残っているインベントリーの販売を支援してほしいという依頼が来ることもあるという。3人目のメディア幹部は「インベントリーの販売があまりに順調で、パートナーから販売支援を頼まれるほどだ」と話している。
TIM PETERSON(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島 翔平)