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「 メタバース の実現までには、まだ長い道のりがある 」: メタバースの生みの親、 SF作家 ニール・スティーヴンスン 氏

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Facebookが社名をメタ(Meta)に変更したことで、メタバースの概念が世間に紹介され、広まった。それにより、10月28日の社名変更発表後にはメタバースのGoogle検索数が急増。しかし、メタバースという考え方が生まれたのは実は1992年のことで、SF作家のニール・スティーヴンスン氏が小説『スノークラッシュ(Snow Crash)』でこの用語を作り出したときだった。

それ以来、スティーヴンスン氏はテクノロジーの預言者としての評判を築いてきた。彼の1999年の小説『クリプトノミコン(Cryptonomicon)』には、デジタル通貨の初期の様子が描かれ、これが後のビットコインに影響を与えたと指摘する声もある。

最新刊『ターミネーションショック(Termination Shock:直訳すると「終結の衝撃」の意)』では、スティーヴンスン氏はメタバースを離れ、文字通り、より緑の草地へと向かった。この小説は、気候変動に対する声高な注意喚起であり、世界の先進工業国が二酸化炭素を大気中に排出し続けている近未来を予想している(物語の舞台は2030年代あたりに設定されているが、「その正確な時期については意図的に曖昧にした」とスティーヴンスン氏は後述している)。複数の主人公のうちのひとりはオランダの女王で、地球温暖化を逆転させることを目的とした、世界を変える賛否両論のジオエンジニアリング(地球温暖化を抑えるために、地球の自然なサイクルを変えることができるとするテクノロジー:参考)プロジェクトに巻き込まれる。

『ターミネーションショック』はウィリアムモロー社から11月16日に出版される。米DIGIDAYはスティーヴンスン氏に、この新作小説について、そしてFacebookのメタバース押しと真正な仮想世界を構築するための継続的な取り組みについて、考えを聞いた。

このインタビューは、わかりやすくするために少し編集および要約されている。

◆ ◆ ◆

――『ターミネーションショック』はジオエンジニアリングを穏やかに支持していると私は解釈した。あなたはジオエンジニアリングに賛成なのか?

私がやろうとしていたのは、それを会話の場にもっていくことだった。今はそういうことが話題になることはない。気候や地球物理学に精通している人は皆これを知っており、プライベートでは話をするかもしれないが、一種のタブーとなっているため、真剣な提案として議論することには一般的に抵抗がある。そして、それは健全な状況ではないと私は思う。なぜなら、最終的には誰かがそれを行う可能性がかなり高いと思うからだ。誰かがそれをしない限り、それは私たちが話し合ってきたもの、つまり人々が意識しているものでなければならない。人々はそれで何ができて何ができないかを知る必要があり、そして彼らは将来起こるであろう会話のためのボキャブラリーと判断基準を持っている必要がある。

私の認識では、自分は非常に環境に配慮し、気候変動を強く意識していると自認している人々でさえ、大気中のCO2濃度上昇がどこまで進んでいるかを完全には理解していない。そして、私たちが毎年大気にどれほど大量のCO2を追加し続けているという事実を。少なくともこれから40年間で、CO2の除去を開始することは言うまでもなく、おそらくゼロエミッションに到達することすらないだろう。環境に配慮している人々でも、CO2排出量削減プログラムで実際に問題が解決できると考える傾向が見られるが、これは正しくないと思う。だから、少なくとも、ジオエンジニアリングのような極端な対策について話し合うことは、人々に問題の深刻さを痛感させる方法になるかもしれないと思う。

――『ターミネーションショック』でジオエンジニアリングを政治的に実行可能なものに見せるために、近未来の標準的なディストピア小説的設定は、どれほど必要だったのか?

それは重要な質問だ。ここで話しているのは、一種のならず者的ジオエンジニアリング事件だ。そして、それはふたつの方法で起こりうる。ひとつはとにかくやると決めたらやる「ならず者国家」によるものであり、もうひとつは私がこの本で描いている手段を選ばない「ならず者」によるものだ。そして、後者のシナリオでは、そのならず者がどうやってそれをうまくやってのけるかを説明しなければならない。地方自治体が介入してそれを阻止しないのはなぜか? これに関しては、現在米国ではすべてのことが中央集権化しているという現状を利用できた。中央集権化された権威は一種の権限委譲であり、そして人々は言語道断な違憲行為を行っても、明らかに罰せられることなく逃げおおせてしまう。

――多くの人がブロックチェーンテクノロジーを気候変動の潜在的な主要な推進力と見なしているが、この本ではそれについての言及がない。これを無視したことは意図的なものだったのか、それともただあなたは主題に関連しているとは思わなかったのか?

CO2を大気中に放出しているのはあらゆる種類の人間の活動であり、現在私の頭のなかには、ブロックチェーンがどれほど大きく関与しているかについての統計はない。しかし、ブロックチェーンがなくても、深刻な問題が発生するだろう。だから、大気中に高濃度のCO2が存在するという架空のシナリオを回すのにブロックチェーンは必要ないと思う。詳細に分析して、特定の汚染源を非難することが、ストーリーテリングに必要なことだとは感じなかった。

私は心から願う。詳しく研究してはいないが、あまり炭素集約型でないほかの形式の暗号通貨に人々が取り組んでいる兆候が、いくつか見られている。

――メタバースの概念には、非常に強い気候変動的側面もある。現実の世界がより住みにくいものになるにつれて、人々が仮想空間に移動することは理にかなっている。『ターミネーションショック』はAR(拡張現実)テクノロジーを際立たせているが、VR(仮想現実)は登場しない。これは意図的な選択だったのか? 気候変動からの脱出法としての仮想世界というアイデアを探求しなかったのはなぜか?

私はVRベースの仮想環境のトピックについてこれ以上語るべきことはないと感じている。それは実際、この本のテーマではなかった。この本では、屋外で走り回る人々、現実の世界でいろいろな活動をする人々が描かれている。

過去数年間のXR(Extended Reality:現実世界と仮想世界を融合する技術を総称した言葉)業界とのコンタクトは、VR側よりも、AR側の方が多く、また個人的にもARのほうがより興味深い。だから、『ターミネーションショック』の内容にVR、そして一種のメタバースが含まれなかったことは、私の作家としてのチョイスにすぎない。

――あなたは、この時点でVRメタバースのアイデアにうんざりしているのではないか?

VRには動きに関していくつか固有の制限がある。そして、多くのシナリオで、内耳があなたに伝えることと網膜があなたに伝えることとのあいだに不一致があり、乗り物酔い状態になるという事実。人々はそれを改善する方法を見つけようとしてきたが、基本的に、複雑なVR体験をしているときは、なんとかしてその問題に取り組む必要がある。そうしないと、すべてのユーザーが病気になってしまうだろう。これに取り組むためにVR開発者が使用するさまざまな戦略がある。それは克服できない問題ではない。しかし、それは、ユーザーが基本的に座っているか立っているか、あるいは非常に小さな物理的範囲内で少し動き回るというアプリケーションにつながる傾向があると思う。

だからまだまだ改善の余地はたくさんある。しかし、私たち全員が惑星規模の環境で自由に動き回るという考えを実現するにはまだ長い道のりがある。

――Facebookのメタへの社名変更をどう思ったか? これは『ターミネーションショック』のお株を奪うことになるか? 最近あなたの名前をGoogle検索すると、ヒットするのはすべてメタバースに関する記事だ。

それほど驚きはしなかった。Facebookは長いあいだ、この言葉を非常に頻繁に使用しており、ほかの企業も同様だからだ。数カ月前のエピックゲームズ(Epic Games)対Apple訴訟では、素晴らしい瞬間があった。[エピックゲームズCEOの]ティム・スウィーニー氏が裁判官と法廷記者にメタバースとは何かを説明しなければならなかったのだ。だから、それが本の出版に悪影響を与えるとは思えないし、おそらく正味のプラス効果があるだろう。

――ちょうどエピックゲームズの名前が出たので訊くが、現時点では、ゲームとソーシャルメディアのセクターは「メタバースビルダー」になるために競争しているように感じる。あなたはどちらかが抜け出していると考えるか?

私は技術的な競走にはあまり興味がない。そこにある技術的な問題は非常に重要だが、解決できるものだからだ。私はそうした技術者に支払う賃金を提供するビジネスモデルのほうに興味がある。典型的なゲームビジネスモデルを見ると、ゲームから収益を生み出す方法は色々ある。ゲーム料金を前払するものもあれば、無料でプレイできるゲームもあるし、フリーミアムのゲームもある。つまり、隠れた収益モデルはなく、ゲームをしたいときに料金を支払うだけだ。

ソーシャルメディア企業の場合、ユーザーを商品化している。プラットフォームは無料で使用できるかもしれないが、無料なのには理由がある。だから、これらの異なるプラットフォーム間で競争が発生した場合、Facebookのような企業は、広告主から得た収益でハードウェアなどを助成できるため、価格面で有利になると思う。そして、巨大なソーシャルメディア帝国に属さない企業は、そのような贅沢ができないので、別の方法で資金源を見つける必要がある。

――気候変動の影響を感じるのは誰よりもまず、ごく普通の消費者であり、必ずしも王族や富裕層ではないだろう。オランダの女王という高貴な人の視点を一部使って、この本を書くことにした理由はなぜか?

私たち全員が王族ではないので、これは奇妙に聞こえるが、彼女のような立場にある人は、進行中の気候災害を見ているあらゆる種類の先進国の人々の代理人になれる。そうした災害は、生活水準を向上させるために何百年もかけて私たちがしてきた行為のつけだ。暖かい家に住んだり、飛行機などで世界を飛び回ったり。もちろん私たちは、気候を破壊するつもりなどなかった。しかし今、私たちはそうなってしまったことを理解しなければならない立場にあり、その状況をどうするかを考え出さなければならない。おかしなことに聞こえるかもしれないが、その観点において、彼女は代理人になれると思う。

――この本のもっとも素晴らしい要素のひとつは、インドと中国の支配領域を分ける境界線である実効支配線(後でそれが現実のものであることがわかったのだが)での戦闘だった。これはどのようにあなたのレーダーにひっかかったのか?

私はずっと昔にそこを訪れたことがあったので、かなり前からその全体像を漠然と認識していた。それは非常にシュールなもののひとつで、スペキュレイティブフィクション(Speculative Fiction:さまざまな点で現実世界と異なった世界を推測、追求して執筆された小説などの作品[参考])の作家が思いつくたぐいのものではないものだと思う。しかし、それが現実に存在し、実際に起こっていることを知ったら、使わずにはいられない。

私の知る限り、実際の戦闘はすべて正規の軍隊によるものであり、志願兵の関与はない。つまり、ここでのSF作家としての私の仕事は、ソーシャルメディア、YouTube、そして気候変動によって氷河が後退し、その境界に沿って新しい不動産が生まれてくるという事態を組み合わせたことだ。これなら、フィクションのスタイルで書くことができる。

[原文:‘Still a long way from being realized’: A Q&A with author and metaverse inventor Neal Stephenson

ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)