Googleは、昨年9月にフランスで、パブリッシャーのニュースコンテンツにライセンス料を支払う契約を結ぶことはないと述べたあと、方針を180度転向した。この転向の背後にある事情を理解するひとつの方法は、プロジェクトを実施している場所(および相手)、もしくは実施していない場所の規制に目を向けることだ。
Googleは、昨年9月にフランスで、パブリッシャーのニュースコンテンツにライセンス料を支払う契約を結ぶことはないと述べたあと、方針を180度転向し、ライセンス料を支払うことになった。この転向の背後にある事情を理解するひとつの方法は、プロジェクトを実施している場所(および相手)、もしくは実施していない場所の規制に目を向けることだ。
Googleは6月25日付のブログ投稿で、ニュースを表示する対価をパブリッシャーに支払うプログラムをオーストラリア、ドイツ、ブラジルの3カ国で開始することを明らかにしたが、なぜこの3カ国なのかは説明していない。Googleはほかに6カ国ほどのパブリッシャーと話し合っている。
オーストラリアでは、ニュースコンテンツの利用料として求めた年間6億ドル(約644億円)の支払いをGoogleとFacebookが拒否したあと、テックプラットフォームがニュースに支払いをする強制的な行動規範が財務大臣から出されている。ドイツは、パブリッシャーと規制当局が以前から米国のテックプラットフォームに対して好戦的だ。フランスでは、Googleとの話し合いがこの数カ月、静かになっており、交渉が継続なのか、暗礁に乗り上げているのか、まもなく発表があるのかのいずれかだろう。ブラジルは、消息筋は意外だったようだが、2012年にニュースパブリッシャーがGoogle Newsをボイコットしたことがある。
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消息筋によると、パブリッシャーにお金を出していないことに対し、規制当局からプレッシャーを感じている国でGoogleがパブリッシャーに小切手を切ることは、好意を買うことになる。Googleは、パブリッシャーに対して必要なことが十分にできていないことは認識しており、このプロジェクトはぜひ拡大したいが、詳細は明らかにできないとコメントした。
過去の争いによる警戒や不信
Googleの発表でこのプロジェクトをはじめて知った英国のパブリッシャー幹部は、「規制に先を越されないための試みではないか」と話す。
Googleがニュースにお金を出すのは、大まかに見て、パブリッシャーにとってよい展開だ。しかし、プラットフォームとパブリッシャーの関係には、それまでの争いによる警戒や不信が必ずある。
別のパブリッシャー幹部は、フランスとオーストラリアで規制当局のプレッシャーに直面しているさなかに発表されたこのタイミングと、Googleがすでに課しているアドテクの料金を先日、明らかにしたことについて、「私に言わせれば、市場をしっかり押さえて事実上の独占にあることをカモフラージュするため、Google側でまた目立つことをしているだけだ」と語った。Googleの不透明な料金については米国の規制当局も注目しており、透明性と意欲が見えるとGoogleも格好がつく。
いまのところ、オーストラリアのパブリッシャーグループであるソルスティス・メディア(Solstice Media)、ドイツのシュピーゲル・グループ(Spiegel Group)、ブラジルのメディア企業のディアリオス・アソシエイドス(Diarios Associados)などが当面の対象で、ほかのパートナーとも話し合いが進んでいる。
メディアの多様性が制限される?
最初がこの3社なのは意外だと業界の事情通は口をそろえる。オーストラリアで直接の交渉を重ねているルパート・マードック氏のニューズ・コープ(News Corp)が入っていない。メディアビジネスに、デジタルエコシステムでのコンテンツの利用についてより強い交渉力を与えるEU指令を強固に支持してきたドイツのメディアグループ、アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)の名前もない。
アクセル・シュプリンガーの関係者は、「Googleの現在の提案が、コンテンツをライセンスしてパブリッシャーを支援するものらしいのは確かだ」と語る。「しかし、よく見ると、どのパブリッシャーが協定に入るのかをGoogleがコントロールするため、メディアの多様性が制限される可能性がある。そのような力を、ドイツのモバイル検索市場のほぼ98%をもつ、明らかに独占的な企業が握るべきではない」。
欧州出版社評議会(European Publishers Council)のエグゼクティブディレクター、アンジェラ・ミルズ=ウェイド氏も、「このライセンスの枠組みがどこまで幅広いものになるのか、まだわからない。コンテンツをライセンスしたいすべてのパブリッシャーに開かれたものであるべきだ」と、同じ意見だ。同評議会は、ほかのパブリッシャー業界団体とともにEU指令のパブリッシャーの権利を支持している。
詳細はまだ詰めているところ
慎重に言葉を選んで詳細が欠けているGoogleの発表に、ブログ投稿の発表を読んだパブリッシャーや、このプログラムについてGoogleと交渉中のパブリッシャーがコメントしている。
Googleのブログ投稿には、「可能なところでは、パブリッシャーサイトのペイウォール内の記事をユーザーが読める自由なアクセスについても、Googleが対価の支払いを提案する」と、記載されている。
最初のパブリッシャー幹部は、GoogleのAMP(Accelerated Mobile Page)に触れつつ、「シニカルにはなるが、これはコンテンツはパブリッシャーのサイトにとどまるということなのだろうか、それとも、『コンテンツを渡してホスティングさせろ、これはシンジケーション取引だ』という話なのか」と語った。AMPは、パブリッシャーサイトの読み込みが速くなるとうたっているが、Googleのプラットフォーム上に構築されている。
また、Googleのブログ投稿には、「人々が複雑なストーリーに分け入り、多様な問題と関心の世界に触れて新しい情報を得られる、高度な伝え方を通じて、パブリッシャーがコンテンツをマネタイズできる」と書かれている。この件に詳しい人たちによると、詳細はまだ詰めているところだという。
最終的にGoogleの思惑どおりに
最終的に、この条件次第でパブリッシャーは喜んでGoogleと提携するのかもしれない。ブランドが弱く収益源の多角化が進んでいないところは、テックプラットフォームの支援強化を歓迎するだろう。Googleは規模と資金があり、月に240億回以上、ニュースサイトに人々を送り込んでいる。持続可能なニュースの未来を構築するプログラムを展開していくため、Googleは3億ドル(約322億円)の資金を確約している。
最初に登場したパブリッシャー幹部は、「Googleは自社に有利になるように競争の規則を利用する」と語った。「唯一の圧倒的な独占企業であり、諸条件についてパブリッシャーがお互いに話すことはできない。Googleにとってニュースにどれほどの価値があるのかを単純明快な数字で把握できれば、パブリッシャーがなんとしても知りたいものになるだろう」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)