- イスラエルのBria AIは、Getty Imagesなどの許諾済コンテンツでトレーニングされたAIイメージジェネレーターを構築。生成されたビジュアルコンテンツの収益は、Bria AIとデータ所有者・コンテンツ生成者と均等に分配する。
- AI生成コンテンツに対する法律と規制の監視が厳しくなっており、特にプライバシーと著作権の侵害に関する問題が注目されている。米著作権局はAIの知的財産への影響に対する意見を求めており、法的な不確実性も増加している。
- これらのソリューションもアイデアや発想に対する適切な評価と報酬の問題は未解決。専門家は、AIモデルそのものよりも、アイデアや創造物をどのように評価し報酬を支払うかという根本的な問題に注目すべきだと指摘。
ジェネレーティブAIは依然、法的に宙ぶらり状態にあると言える。だが、あるスタートアップのプラットフォームはそんななか、AI生成ビジュアルコンテンツに関して、企業、アーティスト、リサーチャーが直面しているいくつかの主要問題の解決を図っている。
イスラエルが拠点のAIイメージジェネレーター、ブリアAI(Bria AI)はストックイメージ大手ゲッティイメージズ(Getty Images)や、アラミー(Alamy)、エンバト(Envato)といったコンテンツマーケットプレイスの使用許諾済コンテンツでトレーニングさせた、新たな基盤AIモデルを構築した。オープンAI(OpenAI)やGoogle、マイクロソフト(Microsoft)といった大手が各々のAIプラットフォームについて、許諾コンテンツで構築されているか否かを巡る法的闘争に直面させられるなか、ブリアは初めから許諾コンテンツだけを利用することで、「責任ある」姿勢で臨む、としている。
ゲッティイメージズは2022年秋、ブリアのマイノリティ投資主となり、ライセンス契約で提携したのだが、このAIモデルはあくまで、ブリアが自社の独自製品としてトレーニングしたものだという。このtext-to-imageプラットフォームやその他ツールによる収益は、ブリアとさまざまなデータ所有者、コンテンツ生成者、クリエーターとの間で均等に分配される。
著作権問題も説明可能性問題も解決できる?
9月8日に公開されたこの新基盤モデルとともに、ブリアはリサーチャーがデータセット――この場合は、特定の写真――がAIモデルに与える影響を知る一助となるアトリビューションモデルも開発した。さらに、同社は同じテクノロジーを利用して、自社AIプラットフォームがクリエーターの写真に基づいてイメージを生成した場合、そのクリエーターに補償を支払う計画も立てている。ブリアの共同創業者でCEOのヤー・アダト氏によれば、この支払モデルは、ストリーミングした音楽作品に対してアーティストに極小の補償を与えるSpotifyのそれに似ているという。氏はさらに、ブリアはデータセットにないイメージのユーザーによる生成をブロックし、それにより有害コンテンツを最小化するとも話す。
「このアトリビューションモデルはインパクトベースだ」とアダト氏は話す。「これで著作権問題も、説明可能性問題も解決される。AIと人間、それぞれが生成したイメージが背中合わせで表示されるからだ。プライバシー問題も解決される(中略)。それについては、我々は根本から解決した」。
アトリビューション・シミュレーターと呼ばれるこのモデルの有効性を証明するべく、アダト氏は米DIGIDAYに簡単な実演を見せてくれた。氏が「海、太陽(ocean sun)」とタイプすると、イメージが生成されるとともに、補償対象となる621のビジュアルが表示された。続いて、氏が「赤い薔薇(red rose)」と入力して薔薇のイメージを生成させると、さらに多くのトレーニングイメージ(AIがトレーニングに利用した素材)が表示されたが、「青い薔薇(blue rose)」と打つと、補償対象のイメージ数はわずか100に減った。
補償対象となるアーティストの具体的な人数については、アダト氏は言明しなかった。ただ、同社はこの仕組みをエージェントフリーシステムになぞらえ、[続きを読む]
- イスラエルのBria AIは、Getty Imagesなどの許諾済コンテンツでトレーニングされたAIイメージジェネレーターを構築。生成されたビジュアルコンテンツの収益は、Bria AIとデータ所有者・コンテンツ生成者と均等に分配する。
- AI生成コンテンツに対する法律と規制の監視が厳しくなっており、特にプライバシーと著作権の侵害に関する問題が注目されている。米著作権局はAIの知的財産への影響に対する意見を求めており、法的な不確実性も増加している。
- これらのソリューションもアイデアや発想に対する適切な評価と報酬の問題は未解決。専門家は、AIモデルそのものよりも、アイデアや創造物をどのように評価し報酬を支払うかという根本的な問題に注目すべきだと指摘。
ジェネレーティブAIは依然、法的に宙ぶらり状態にあると言える。だが、あるスタートアップのプラットフォームはそんななか、AI生成ビジュアルコンテンツに関して、企業、アーティスト、リサーチャーが直面しているいくつかの主要問題の解決を図っている。
イスラエルが拠点のAIイメージジェネレーター、ブリアAI(Bria AI)はストックイメージ大手ゲッティイメージズ(Getty Images)や、アラミー(Alamy)、エンバト(Envato)といったコンテンツマーケットプレイスの使用許諾済コンテンツでトレーニングさせた、新たな基盤AIモデルを構築した。オープンAI(OpenAI)やGoogle、マイクロソフト(Microsoft)といった大手が各々のAIプラットフォームについて、許諾コンテンツで構築されているか否かを巡る法的闘争に直面させられるなか、ブリアは初めから許諾コンテンツだけを利用することで、「責任ある」姿勢で臨む、としている。
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ゲッティイメージズは2022年秋、ブリアのマイノリティ投資主となり、ライセンス契約で提携したのだが、このAIモデルはあくまで、ブリアが自社の独自製品としてトレーニングしたものだという。このtext-to-imageプラットフォームやその他ツールによる収益は、ブリアとさまざまなデータ所有者、コンテンツ生成者、クリエーターとの間で均等に分配される。
著作権問題も説明可能性問題も解決できる?
9月8日に公開されたこの新基盤モデルとともに、ブリアはリサーチャーがデータセット――この場合は、特定の写真――がAIモデルに与える影響を知る一助となるアトリビューションモデルも開発した。さらに、同社は同じテクノロジーを利用して、自社AIプラットフォームがクリエーターの写真に基づいてイメージを生成した場合、そのクリエーターに補償を支払う計画も立てている。ブリアの共同創業者でCEOのヤー・アダト氏によれば、この支払モデルは、ストリーミングした音楽作品に対してアーティストに極小の補償を与えるSpotifyのそれに似ているという。氏はさらに、ブリアはデータセットにないイメージのユーザーによる生成をブロックし、それにより有害コンテンツを最小化するとも話す。
「このアトリビューションモデルはインパクトベースだ」とアダト氏は話す。「これで著作権問題も、説明可能性問題も解決される。AIと人間、それぞれが生成したイメージが背中合わせで表示されるからだ。プライバシー問題も解決される(中略)。それについては、我々は根本から解決した」。
アトリビューション・シミュレーターと呼ばれるこのモデルの有効性を証明するべく、アダト氏は米DIGIDAYに簡単な実演を見せてくれた。氏が「海、太陽(ocean sun)」とタイプすると、イメージが生成されるとともに、補償対象となる621のビジュアルが表示された。続いて、氏が「赤い薔薇(red rose)」と入力して薔薇のイメージを生成させると、さらに多くのトレーニングイメージ(AIがトレーニングに利用した素材)が表示されたが、「青い薔薇(blue rose)」と打つと、補償対象のイメージ数はわずか100に減った。
補償対象となるアーティストの具体的な人数については、アダト氏は言明しなかった。ただ、同社はこの仕組みをエージェントフリーシステムになぞらえ、同AIモデルはプラットフォームを介したコンテンツクリエーターのエージェントのような働きをする、と話した。
「人々は無法地帯を望まない」
この新モデル登場の背景には、AI生成コンテンツに対して、法および規制による監視の目が厳しさを増している、という動きがある。9月5日火曜、オープンAIとマイクロソフトがプライバシー保護法を侵害したとして、両社に対して2つめのクラスアクション訴訟が起こされた。9月7日木曜、マイクロソフトは自社製品であるコパイロット(Copilot)の商用ユーザーが自社AIツールの利用に関連する著作権侵害で訴えられた場合、それらユーザーを法的に擁護する旨を発表した。
そして8月第4週、米著作権局は連邦官報に長文の勧告を載せ、知的財産に対するAIの影響への対応を望むすべての人のために民間意見調査期間を設ける旨を発表した。
こうした法的にグレーな部分のせいで、多くのマーケターがリスクを心配している一方、 アドビ(Adobe)やシャッターストック(Shutterstock)――両社ともに、新たなジェネレーティブAIツールの開発に勤しんでいる――は各々のプラットフォーム発信のコンテンツに関して訴訟を起こされたユーザーに補償を提供することで、不安の抑制に努めている。
ジェネレーティブAIを巡る国際法が急速に変わりつつあるという事実もまた、状況を複雑化している要因の一つだ。クラリス・ロー(Klaris Law)のマネージングパートナー、エドワード・クラリス氏は、ブリアのソリューションは「倫理的観点、法的観点、国際的観点、ビジネス的観点のいずれから見ても、理に適っている」と話す。
「人々はナップスター(Napster)後のAppleのようなものを、法に準拠したものを求めるだろうし、無法地帯のような状況は望まない」とクラリス氏は話す。
「真の問題はジェネレーティブAI云々ではない」
ブリアとゲッティイメージズとの提携が注目に値する理由はほかにもある。2月、ストックイメージの最大手である後者はスタビリティAI(Stability AI)――ステイブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)が背後に付いているスタートアップ――を、同社の人気AIプラットフォームが生成したイメージにゲッティイメージズの有名なウォーターマーク(いわゆる、透かし)が表示されていたとして訴えた。続いて6月、ゲッティイメージズはロンドンの高等法院に訴え、スタビリティAIによる同社プラットフォームの英国における販売の差し止め命令を求めた。
ブリアとの提携とジェネレーティブAI関連の他の訴訟について、DIGIDAYはゲッティイメージズに質問を送ったが、回答はなかった(ゲッティイメージズはブリアに対する総投資額も開示しなかった。ただ、2022年第3四半期の決算報告において、「マイノリティ投資の購入」額は200万ドル[約2億8000万円]とされていた)。
もっとも、ブリア、アドビ、シャッターストックがAI関連のコンテンツについてアーティストに報酬を支払う術を探っている一方、それとは別に、よりマクロレベルの解決すべき問題もある、とする声も上がっている――アイデア/発想という、評価が必ずしも容易ではないものに対する支払はどうするのか? DDB EMEAのチーフストラテジーオフィサーで、DDBのAI事業にも手を貸すジョージ・ストラクホフ氏も、この問題を提起する。ブリアの努力は「素晴らしい前進」と氏は話すが、あくまで「小さなくさび」でしかない、とも指摘する。
「一歩引いて見てみれば、真の問題は実のところ、AIモデル云々ではないことがわかる」とストラクホフ氏は話す。「たとえば、君がりんごを栽培している、あるいは音楽をライブ演奏しているのなら、話は簡単だ。私は君からそれを買えるし、それは君の手を離れる、取引は明快だ。しかし、君が何か素晴らしいことをして、人間またはAIがそれをいわば手に入れることができ、さらに君自身もそれを失わずに済むとなると、話は別であり、それに対して補償を与えるための優れたモデルは、現在、我々にはない」。
[原文:Startup debuts new AI models trained on Getty Images and other content as copyright concerns loom]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)