スポーツ専門ストリーミング大手のDAZNが、メディアの世界でよく見られる大きなマイルストーンに到達した。つまり、プログラマティック広告による収入を本格化させている。 ここまで18カ月かかったが、今や同社にとってもっとも成 […]
スポーツ専門ストリーミング大手のDAZNが、メディアの世界でよく見られる大きなマイルストーンに到達した。つまり、プログラマティック広告による収入を本格化させている。
ここまで18カ月かかったが、今や同社にとってもっとも成熟した市場(ドイツ)では、広告収入の3分の1以上(35%)がプログラマティック広告収入だ。ただし、そのインベントリは、プログラマティックギャランティードまたは1対1のPMPを通してしか手に入れることができない。
ライブ番組の合間に入れる広告の販売が従来の純広告よりもっと自動化されて、はるかに多くの(顧客)データをからませたもの、と考えるといい。
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より多くの広告主からより多くの広告収入を集める
ここからさらに歩を進め、リアルタイムのオークションで料金が決まるオープンマーケットの世界に足を踏み入れてしまうと、DAZNは広告収入に対するコントロールを一部失うことになるだろう。DAZNの営業幹部側としては、少なくとも今は、そこまでしようという気はない。特に、TVからは純広告収入が流れ込み、アドテクからはデジタル収益が転がり込んでくるという順風満帆な広告事業の状況を考えればなおさらだ。
実際的な面を考えても、DAZNの営業チームが広告を事前に売っているのは賢い選択だ。そうすることで、試合の視聴を邪魔するタイムラグやバッファリングが放送中に生じる可能性を回避できるからだ。
DAZNの広告・メディアセールス担当EVPのピーター・バロウズ氏は次のように語る。「当社はどの市場に対しても担当営業チームがあり、同じコンテンツがリニアチャンネルで提供されていたとしたらもっと多額を投じていたはずのエンデミックブランドから、うまく予算を引き出してくれている。だが今後は、売れないインベントリーからも収益を上げていかなくてはならない」。
つまりは、従来型の広告でも億ドル単位の売上があり、かなり儲かってはいるが、もっと稼ぐ必要がある、という話だ。巨大ストリーミング企業を運営していくには、とてつもない費用がかかるため、常に収益を増やしていくことが求められる。その飽くなき求めに応じる手段のひとつが、DAZNの広告事業を拡大し、より多くの広告主からより多くの広告収入を集める、プログラマティック広告というわけである。
「ライブストリーミングのインベントリーをオープンオークションで提供していないのは、それがうまくいくにはかなりの手間がかかるからだ。たとえばCMのスケジューリング。CM内にギャップが生じないように放送時間を管理しなければならない」とバロウズ氏はいう。「何かで埋めなければならないCMの時間は予定されてはいるが、それはディスプレイ広告やオンライン動画の世界のようなオープン入札と相性のよいものではない」。
売れないインベントリをいかにまとめるか
ライブストリーミングではないコンテンツの広告インベントリとなると、話は全く別だ。
試合中に予測不可能なタイミングで短時間のCMが入るライブコンテンツとは異なり、ライブではないコンテンツの場合は特定の間隔で広告が予定される。これは、広告主がオープンオークション形式で買い付けを行う方法と相性がいい。日単位、週単位、月単位という長い単位で広告キャンペーンを計画するのに適しているからだ。バロウズ氏は次のように続けた。「単純に、ライブ環境での供給の仕組みがまだ整っていない」。
バロウズ氏はDAZNのインフラだけを指してこう話しているのではない。ブロードキャスターも同じだ。プログラマティック市場に向けるインベントリーを増やし、バイヤーがオープンオークションでライブストリーミングのインベントリーを買い付けるメリットを感じ始められるようにしなければならない。「そうすれば、DAZN、スカイ(Sky)、ESPNなどでCM枠の買い付けが計画できるため、広告インベントリーを1日で使い切ることにはならず、一度に700万人を達成できるということになるだろう」。
デバイスの普及についても同じことがいえる。少なくとも今はまだ、リアルタイムのプログラマティック広告を大規模に展開していけるだけのデバイスが家庭にないのだ。
これまでの他のメディアオーナーたちと同様、DAZNも、売れない広告インベントリをまとめ、アドテクを通して、通常であればスポーツ関連コンテンツで広告を展開していくだけの財力のない広告主に提供している。
バロウズ氏は次のように説明する。「広告主がUEFA欧州選手権のハーフタイムのスロットを買おうとすると、ヨーロッパのどの市場でも10万ポンド(約1800万円)から20万ポンド(約3600万円)はするだろう。これだけの金額が出せるブランドは100社か、せいぜい200社だ。また、出せたとしても予算には限りがあるため、ブロードキャスターがプレミアムな大型スポーツイベントで稼げる額には上限があるということになる」。
そこで、DAZNは考えた。最大手クラスのテック企業、いわゆるSSPを引き込んだのだ。マグナイト(Magnite)はドイツやイタリアなど多くの国でDAZNのローンチパートナーだったが、DAZNはパブマティック(PubMatic)やフリーホイール(FreeWheel)を通しても広告インベントリーを販売している。将来的にはインベントリー販売に利用するSSPの数は少なくなっていく可能性はあるが、現時点では分散的なアプローチを維持していく計画だ。そうすることで、DAZNが広告インベントリーをすべてさばく可能性を高められると同時に、各アドテクベンダーの強みや弱みも把握できる。そこで初めて、手放すパートナーを決めればいい。
複数のベンダーとのパートナシップにはリスクも
今はまだ、パートナーシップを組んでから日が浅い。DAZNはこれらのアドテクベンダーに大きく頼ってはいないが、それは主にプログラマティック収益のほとんどがプログラマティックギャランティードから来ているからだ。
「今は特定のパートナーに限定しているわけではないが、今後最終的にどうなるかは、実際にやってみないとわからない」とバロウズ氏は話す。「複数のSSPとの関係を続けるかもしれないし、ある種の自然淘汰を通して1、2社に絞り、インベントリーを広く提供することはやめるかもしれない」。
いずれにせよ、DAZNのパートナーの数が今より大幅に増えることは考えにくい。現在DAZNは広告販売で14社のアドテク企業と提携している。直販もあれば、認定リセラーとしてDAZNのインベントリーを販売する企業もある。パートナーの数が増えれば、ライブストリーミング中に何かしらのトラブルが発生する確率も高くなる。今後を決める重要なサッカーの試合の決定的な瞬間に、アドテクスタックのちょっとした異常で中継が途絶えたら、と想像してみてほしい。視聴者と広告主の双方の側にかなりの不満が生じることは間違いない。
バロウズ氏はこの点をさらに詳しく説明してくれた。「プレミアムなブロードキャスターとして当社が避けたいのは、実質的に同じものを提供するといっている27社のアドテクベンダーを相手に、27の異なる統合作業を行うことだ」。
こうした話のすべても、コンテンツに対する需要が供給をはるかに上回るという、極めて重要な問題にDAZNとCTV業界全体が取り組まない限り、意味のないものになってしまいかねない。だが、本格的に取り組む前に、先に解決すべき技術的な課題がある。たとえば、さまざまな市場にわたってCM時のターゲット広告を同時表示するために必要な技術を装備したTVがもっと増えなければならない。加えて、効果測定という積年の問題も残る。広告が効果を発揮している確信がなければ、広告主が広告費を増やすことはない。
Netflixとの違い
「DAZNはかなり前から広告(プログラマティックを含む)を販売しており、それは戦略的にも完全に理にかなっている」と語るのはエンダース・アナリシス(Enders Analysis)のTV担当ディレクターのジル・ハインド氏だ。「Netflix独自の大きなセールスポイントのひとつは、競合と違い広告がないことだったが、スポーツ関連ビジネスの場合、独自のセールスポイントは明らかにそのスポーツの放映権だ」。
問題はDAZNがどれだけ供給できるかだ、とハインド氏は続けた。「有料テレビプラットフォーム(英国のスカイなど)との配信契約がその答えを出す助けになるだろうし、放映権を蓄積していくにつれて、かなりのオポチュニティが期待できるだろう」。
Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)