Spotify(スポティファイ)のサブスクリプションビジネスは依然、世界各国で巨大な広告ビジネスを構築している。その一方で、多くのプラットフォームやパブリッシャーを悩ませる、広告支援に付きものの問題に直面もしている――そう、広告ブロック問題だ。
プレイリストやポッドキャストを広告に邪魔されたくない。そんなリスナーの声に対するSpotify(スポティファイ)の回答は、一貫してシンプルだ――「課金してください」。SoundCloud(サウンドクラウド)やPandora(パンドラ)、Appleと同じく、Spotifyはプレミアムプランを提供しており、この定額サービス(月会費約10ドル[980円])で、何百万ドルもの収入が見込める。
Appleを別にすれば、サブスクリプションビジネスは依然、世界各国で巨大な広告ビジネスを構築している。実際、SpotifyのCFOバリー・マッカーシー氏はこの3月、投資家に対し「広告支援サービスは、新規ユーザー獲得コストを相殺する、いわば助成金プログラムでもある」と語っている。ただ、その一方で、多くのプラットフォームやパブリッシャーを悩ませる、広告支援に付きものの問題に直面もしている――そう、広告ブロック問題だ。同社はIPOに先んじ、改造アプリやアカウントを介して広告をブロックするユーザーをおよそ200万人と発表した。これはSpotifyの月間総アクティブユーザー数の約1%、広告支援無料サービスの月間アクティブユーザー数の約2%に相当する。
Spotifyのスタンス
全ユーザーに占める割合こそ小さいが、Spotifyはこの不正利用の阻止にいっそう積極的に取り組む姿勢を見せている。先頃発表された第2四半期収益報告では、不正ユーザーも月間総アクティブユーザー数に組み入れていた。理由はサマリーにこう記されている――「弊社の会計報告は、こうしたユーザーに対するストリーミングコンテンツの全費用も含む」。マッカーシー氏は広告支援サービスを新規ユーザー獲得に欠かせない重要な存在とする一方、大きな代償も伴いかねないと認めている。新規無料会員がいずれ有料会員になった際、それまでのコスト回収に平均で約12カ月を要するという。
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そのため、長期にわたる「ただ乗り」を阻止するべく、Spotifyは以前から、不正がいつ行なわれたのかを突き止め、当該アカウントに対抗措置を取るための技術開発に勤しんでいる。
「弊社のストリーミングサービスに対する人為的操作を我々はきわめて深刻に受け止めている。そこで、複数の検知手段を設け、弊社サービスに対する消費をつねに監視し、不正行為の検知、調査、対処に尽力している。一連の過程のさらなる洗練に向けて今後も大いに注力し、検知および除去方法を改善するとともに、この許されざる行為が正当なクリエーター、権利保有者、広告主、弊社ユーザーに与える影響の軽減に注力する」と、Spotifyの広報担当は述べている。
広告ブロックへの対応
広告ブロックへの対応として、同社は不正ユーザーのアカウントを即時に凍結はしない。その代わり、 Spotify Communityでも語られているとおり、音楽をプレイできないようにし、たとえばAndroidユーザーならば、以下のようなメッセージをメールで送信する――「お客さまがお使いのアプリに対する異常行為を検知しましたので、これを使用不能といたしました。お客さまのSpotifyアカウントにアクセスするには、Spotifyの不正・改造バージョンをアンインストールし、Google Play Storeから正規のSpotifyアプリをインストールしてください」。
その後も問題が断続的に発生する場合、Spotifyは同様の方法でアカウントを削除する。同社は広告ブロック問題の存在をこの3月に公表したが、四半期収益報告を見るかぎり、解決を見ていないのは明らかだ。ちなみに、2017年5月、ロンドンのエージェンシー、グッド・リレーションズ(Good Relations)におけるプレゼンテーションにおいて、Spotifyは同社のモバイルアプリについて「広告ブロック・ゼロ」を謳っている。
Another important benefit of @spotify as a platform for brands: being an app, it isn't affected by Ad Blocking tools #GRAcademy pic.twitter.com/cXiL0jyg7c
— Good Relations (@goodrelations) 2017年5月25日
@spotify をブランドがプラットフォームとして利用する際の利点をもうひとつ:このアプリは広告ブロックツールの影響を受けない#GRAcademy
また、これとは別に、Spotifyは新フォーマット、Active Media(アクティブ・メディア)を試験的に導入している。非有料会員にオーディオおよび動画広告をスキップさせるサービスだ。同社広報は米DIGIDAYに対し、近い将来、よりパーソナライズされた広告を提供できるよう、ユーザーエンゲージメントを分析する計画があると語っている。この試験的サービスは今月、オーストラリア限定で開始された。
Pandoraの場合
一方、ライバルのPandoraは広告ブロックの阻止よりもむしろ、他の選択肢の提供に注力している。
「広告ブロックはモバイルアプリよりもウェブサイトで多発する発生する傾向があり、Pandoraユーザーの圧倒的多数は前者を利用している。そのため、弊社は広告ブロックの注視に終始するのではなく、リスナーに可能な限り最良の広告支援音楽体験を提供することで、この問題を解決できると考えている」と、Pandoraのアドイノベーションおよびストラテジー部門シニアバイスプレジデント、リジー・ウィドヘルム氏は語る。
Pandoraはオーディオ広告のパーソナライズを確実にするだけでなく、広告支援ユーザーが動画広告を視ることで広告に邪魔されず音楽を楽しめるようにする商品も提供している。Sponsored Listening(スポンサード・リスニング)では、ユーザーは動画、スワイプ可能なスライドギャラリー、あるいは360度没入型のスポットライトストーリーをひとつ見れば、1時間ないし4時間、広告なしで音楽を楽しめる。Video Plus(ビデオ・プラス)では、動画広告を視れば、より多くの曲のスキップやトラックのリプレイが可能なPremium(プレミアム)リスニング体験ができる。
「Pandoraの広告を、オーディオも動画も、なるべくユーザーの邪魔にならない、そして多くの場合、付加価値のあるものにしたい。そうすればきっと、誰も広告をブロックしたいと思わなくなる。それを実現する技術に弊社は投資をしている」と、ウィドヘルム氏。
広告ブロックとの未来
今後、広告ブロックが絶滅する日が来るとは思えない。だからこそ、ブロッカーの完全排除を目指すのではなく、広告スキップを可能にし、従来のものとは違う、より興味深い広告体験を創造していく、という決断は称賛に値すると、オーディオプログラマティック広告用プラットフォーム、ジェリー(Jelli)のマーケティング部門バイスプレジデント、モリー・グローヴァー・ギャラティン氏は語る。これはリスナーが心から求める、まさに待望の決断だと、氏は指摘する。
「広告をブロックするユーザーはもちろん、Spotifyのビジネスにとって理想的な存在ではない。けれど、そうしたユーザーの存在は、人々がコンテンツを邪魔されずに楽しみたいと思っていることの明らかな象徴でもある。デジタル広告業界は長らく、「ばらまくだけばらまいて、あとは神頼み(spray and pray)」という手法をとってきたが、いまや、消費者それぞれの声にしっかりと応え、できるかぎりパーソナライズすることが求められている」。
Kerry Flynn(原文 / 訳:SI Japan)