電動スケーターシェアリング、三つ巴の戦いの勝者は?:スピンのマーケティング術

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ニューヨークヒルトンミッドタウンのロビーでの打ち合わせにイーウィン・プーン氏は10分弱ほど遅れて現れた。彼はこのホテルで開催されるブロックチェーンカンファレンスのためにニューヨークに来ていた。どうして遅れたのか? このシリコンバレーの起業家は、ブライアント・パークからセントラル・パークへ向かうために、昼間道路が混雑するニューヨーク市でタクシーを利用していた。

「タクシーを使い慣れなくてね。キックスケーター生活に慣れてしまっていたものだから」と、彼は語った。

プーン氏は、電動キックスケーター競争でしのぎを削っているテックタートアップ、スピン(Spin)の共同設立者のひとりだ。サンフランシスコに戻れば、インターネットでつながったドックレスキックスケーターが通りを埋め尽くしている。通りにあふれかえるスピン、バード(Bird)、ライム(Lime)ブランドの電動キックスケーターは、それぞれ色がオレンジ、ブラック、グリーンと異なる以外にはほとんど違いはない。料金でさえ同じで、1分間の使用で1ドル15セントだ。実際、一部のハードウェアはまったく同じだ。「スピン」という名称と、そのオレンジという色だけが、プーン氏と共同創設者が消費者に愛用してもらい、都市に受け入れてもらい、さらにベンチャーキャピタルからの資本を獲得する手段となっている。

「ほぼ同じプロダクトを生み出している3社が参入しているこの非常に競争の激しい市場では、ブランディングが 我々にとって次の課題だ」と、プーン氏は述べる。「若い会社として、都市で非常に成功している企業の精神を具現化したい。都市こそが、我々にとって長期的なパートナーだ」。

バードは、そのマーケティング戦略についてコメントすることを拒否し、ライムバイク(LimeBike)はコメントを求めたが、すぐに回答は得られなかった。

利用者が広告塔になる

いまのところスピンは宣伝にお金をほとんどかけていない。同社はAppleのApp Storeの検索広告を購入している。「Spin(スピン)」は非常に一般的な名称なので、検索されたときに広告がヒットしやすいのだ、とプーン氏はいう。また、ブランド認知度の向上に、同社のキックスケーターが利用できるストリートにポスターを貼っている。

「我々のマーケターの仕事は本当に楽だ」と、プーン氏は冗談をいう。「スピンに乗ってくれる人が、文字通り我々のサービスを宣伝してくれる。巨大な宣伝ビルボードの利用は、あまり効果的ではない。アプリのダウンロードができても、キックスケーターを取り寄せることはできない。キックスケーターというハードウェア自体がもっと効果的な宣伝だ」。

どのキックスケーターサービスを選択するかについては、そのキックスケーターが利用可能かどうか自体に左右されるのも事実だ。また、「愛用者の心理」から、ほかを選ばず特定のキックスケーターを迷わず選択する者も少なくない。

競合の「愛用者」の声

「自分は誰よりも熱心に無償でバードの良さを宣伝している人間だと思う。自分はこのブランドを愛用しているし、バードは自分が試した最初のキックスケーターだからね」と、デジタルエンターテイメントネットワーク、ザ・バイラルフィーバー(The Viral Fever)のプロダクトに携わり、ベイエリアに住んでいるハンター・オーウェン氏は語る。

やけくそないときには最悪な方法を選んでしまうものさ。バードにそっくりだからって、ライムを使ったら最悪だったよ。

オーウェン氏にとって、バートの愛用は、Google HomeやSiriではなくてAmazonのAlexaを選んだ理由に似ている。Alexaは彼にとってシンプルに頼れる音声アシスタントだ。いま、電動キックスケーターの時代に、キックスケーター企業は、自社プロダクトの愛用ユーザーを見つけると同時に、顧客ケアや行政との関係といったトピックスについて、業界での地位を確立しようとしている。ユーザーにとっての葛藤は、ウーバー(Uber)とリフト(Lyft)またはシームレス(Seamless)とキャビア(Caviar)のように、2社間での選択に似ている。結局のところ、車、食事の宅配、またはキックスケーターは単なるひとつのサービスということだ。

スピンが注力してること

バードの「愛用者」という考え方に、スピンのプーン氏は動じることはない。

「バードは、単純に通りにより多くのスケーターを置いているだけて、マインドシェアをいくらか稼いでいるにすぎない」と、プーン氏は述べた。「我々がユーザーにインタビューしたところ、彼らはそういったことにはまったくとらわれていないということがわかっている。彼らはこういうだろう、携帯には3つのアプリが入っていれば、一番近くで利用できるサービスを利用すると。自分も同意見だ。近くのサービスを利用し、わざわざほかのサービスを利用することはない」。

そうした感覚は、ウーバーを利用するなら死んだほうがましだというリフトの共同設立者ジョン・ジマー氏のものとはかなり違う。電動キックスケータースタートアップは立ち上がったばかりであり、スピンは、ユーザーや都市との関係で強力なブランドを作りあげることに注力している。

なぜオレンジなのか?

もちろん、この電動キックスケーター3大企業の背後にいる人間もそれぞれだ。

「この業界にはウーバーの戦略を実行してきたトラビスという人物がいる」と、かつてウーバーに勤めていたバードのチーフエグゼクティブ、トラビス・バンダーザンデン氏を、プーン氏は引き合いに出した。「ベンチャーキャピタルが運営するライム。そして、我々がいる。我々は、スピンを運営し、ブロックチェーンをかき回している未熟なテック野郎ということだ」。

会社名を選択することになったとき、動詞としても使える、シンプルでキャッチーなものをチームは望んだとプーン氏は語った。

「社名をスピンバイクではなくスピンにしたのも理由がある」と、プーン氏は語った(ライムバイクは、2017年のはじめに自転車共有プログラムを発表し、今年はじめに電動キックスケーターに参入してきた)。

利用可能性、バッテリーの持ち、そして安定性を除き、3社のキックスケーターの数少ない違いのひとつが色だ。スピンがオレンジを選択したのは、人の目を引くような何かを作りたいというチームの願いに起因している。また、立ち上げ初期のスタートアップを支援するYコンビネータ(Y Combinator)にも配慮していると、プーン氏はいう。

健全な競争のために

勝者が独占する市場を想定しているわけではないと、プーン氏はいう。むしろ彼は、電動キックスケーターの将来をワイヤレスプロバイダとケーブル会社間の競争に関連付けた。

「すべての都市が数社のサービスを導入すれば、そこには良い、健全な競争が生じる。ユーザーは一つひとつ試してみるだろうから」と、プーン氏は述べた。

プーン氏と彼の共同設立者たちは、ひとつにはニューヨークのシティバイク(Citi Bike)からの影響だが、自転車からはじまり、やがてキックスケーターを手掛ける都市交通会社を立ち上げるつもりだったと、彼は述べた。現在、これらの企業の収益は、ユーザーからのものだが、将来的にはキックスケーターやバイクといった車両そのものに載せる広告から収益を得るかもしれない。すでにそれ自体が広告の役割を果たしているのだから、想像に硬くない。

Kerry Flynn(原文 / 訳:Conyac