SNS史をまとめたら、「スロー」なネットの必要性を知った:夢に見たウェブの進化の果て

本記事は、東京経済大学コミュニケーション学部で「ソーシャルメディアの収益モデル史および社会史/情報環境と利用者の相互作用」を研究している、『ソーシャルメディア四半世紀』(日本経済新聞出版社)の著者、佐々木裕一教授による寄稿です。

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先月リリースされたAppleのiOS12で最大の変化はなんだと思いますか? 個人的には、スクリーンタイム機能の導入に注目しています。この機能により、自分のスマートフォン利用時間、1時間あたりの持ち上げ回数や通知回数、アプリごとの利用時間を把握し、アプリごとの利用時間制限もかけられるようになりました。週末にはレポートも送られてきます。

Appleがわざわざこんな機能を設けた背景には、大人から子供たちに渡る、スマホの使いすぎやソーシャルメディアの見すぎへの批判があることは言うまでもありません。スクリーンタイム機能では日々の利用状況が確認できるため、意識すれば、スマホやアプリとの関係を変えることも可能になります。

四半世紀の歴史から見えること

スマホと切り離せない関係にあるソーシャルメディア。まだ、その呼び名すらなかった時代からその源流となるユーザー参加型サイト/サービスを追ってきた私ですが、先頃、『ソーシャルメディア四半世紀』(日本経済新聞出版社)という本を上梓しました。

この本は四半世紀にわたり、日本のソーシャルメディア関連企業の起業家たちにインタビューを重ねて、その変遷をまとめたものですが、簡単に言えば、そこからは、次の3つのことが見えてきました。

  1. 結局は、広告収益モデルありきだった
  2. ユーザーコンテンツは、広告記事化してしまった
  3. パブリックな発信から身内のおしゃべりの場へ

1の「広告収益モデルありき」とは文字どおりです。2000年前後からの数年間は、ネット広告が未発達で、どのサイトもユーザーコンテンツが貯まれば貯まるほど管理コストがかかっていました。当時は、広告で得られる収益も小さく、各サイトとも集客力ではなくコンテンツそのもので収益を上げようと努力していたのです。

ところが、Googleの検索連動広告の登場があり、2005年前後からネット広告が産業化し、ソーシャルメディア隆盛の今も各サイトの収益源は広告中心の状態が続いています。

2の「ユーザーコンテンツの広告記事化」とは、アフィリエイトブログを想像してみるとわかりやすいかもしれません。2007年頃までのブログは、ブロガーが専門的情報を自発的に投稿し、「お金はいらないよ」というケースが主体でしたが、2010年代になり、状況は変わりました。ネット利用がパソコン主体であった時代からスマホ時代へと移るにつれてじわじわとこの流れは進んでいったのです。

学生に「人はなぜオープンウェブにコンテンツを公開するのかな?」と尋ねると、2010年ごろまでは「他の誰かのためになるから」といった答えが多かったのですが、10年代半ば以降は「広告などで儲けたいからでしょ」という答えが多くなっていきました。2016年に少なからずの“キューレションサイト”が閉鎖された事件でも、安い経済的見返りで投稿者がいいかげんなコンテンツを作っていたことは周知のとおりです。

3の「パブリックな情報から身内のおしゃべりへ」という変化は、2014年以降の話です。その頃、LINEを含むSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のスマホでの利用者が4000万人を超えるようになり、ネットでの投稿は、ひとまず「友達」に届くものが普通になったのです。

SNSでやり取りされる内容は、あまり推敲されず、いわば電話での会話のように私的なものが中心です。「いいね!」や「リツイート」も含めて、手軽な投稿や応答を可能にすることで利用頻度を上げようというサービス利用者側の思惑もありました。

しかも自分で何らかのコンテンツを作らずとも、「いいね!」や「リツイート」ボタンを1回タップするだけで、広い意味での投稿が可能な情報技術が整ったので、拡散されることを投稿者も狙うようになった。そして広まる情報は、おしゃべりのネタになる「オモシロ」情報へと変わっていったのです。

スマートフォンとSNSアプリで起きたこと

いまや私たちは、小さな画面に視線を釘付けにさせられるスマホ端末を「ちょっと暇になったな」と思えば手に取り、リアルな人間関係をベースにしたSNSやメッセージングサービスを利用しています。つまり私たちは、そういった情報技術によって強い影響を受ける時代のとば口に立つようになったのです。

その影響力がもたらした変化は2014年以降、顕在化してきました。具体的には、次のようなことを身近に感じる人も少なくないでしょう。

  • 娯楽偏重の情報流通
  • フェイクニュースとアドフラウド(広告詐欺)の増加
  • 情報流通の分極化とそれに付随する排他主義
  • 情報過多にインタラクション過多といった心理的負担
  • 私たちの「何もしていない時間」の減少・喪失

そして、これらの事柄に強い危惧を覚える人たちが様々な声を上げるようになってきたことにもお気づきでしょう。

恥ずかしながら、今回の書籍に連なる研究をスタートした頃には、スマホ(当時はありませんでした)などの情報技術が、私たちの日常や思考にここまでの影響を及ぼすことを予見できませんでした。もう少しポジティブで人が情報技術を操る可能性に夢を持っていたのです。

スローなネットコミュニケーションを目指す社会へ

そんな私が四半世紀を振り返り、今強く感じるのは「人間同士の、そして人間とコンピュータ(機械)のコミュニケーションを今より低速化させ、ひとりひとりが内省の機会と深さを得られるような情報ネットワーク社会」の実現です。つまり、ネットコミュニケーションはもっとスローになるべき、なのです。

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のカーネマンは、自動で高速、努力はほぼ不要という直感的システムである「システム1」(Fast)と、集中力をもって頭脳を使う時に働く「システム2」(Slow)の2つを人間が持つと指摘しました。そして人間のすぐれている点は、間違うこともしばしばあるものの、努力がほぼ不要なシステム1で多くのことを処理できること。かつ、時としてシステム2を作動させ、2つのシステムの活用によって難しい課題に立ち向かえることだと説きました。

スマホでのSNSやメッセージングアプリ利用では、次々と送られてくる友達からの更新、広告やクーポン、そして主に軟らかいニュース、そしてたまに硬いニュースというように、雑多でコンテクストの異なる情報の直感的な処理を強いられます。だからそのニュースの真偽を考えずに、他人の関心をひくために転送するということが日常的になされ、それが時に社会的に大きな負のインパクトを持ちます。

怒りの感情のままにある投稿を転送することは反対意見の表明になりますが、場合によってはオリジナルな投稿の書き手が特定され、仮に若い者であってもその身元が晒されたりもします。またマーケティングの世界でも、共感は転送の源とされていますが、学術的に言うと2種類ある「情動的共感」と「認知的共感」のうち前者が特に重視されます。

これらはいずれも「システム1」の作動です。つまり、現在はあまりに大量で多様な情報やコミュニケーションを、頻繁に手に取りすぎてしまうスマホ端末で、言うなれば少しあわてて処理しているため、間違いも犯しがちな「システム1」頼りの悪い面が世を席巻している状況なのです。であるならば、もう少し「システム2」も動かしてスローにことをすすめるべきではないでしょうか? 

その時に欠かせないのは、「内省」です。ごく単純に「振り返り」と言っても良いでしょう。ノリだけで会話をするのもありですが、本当に大事なことは進んで後回しにするという理解でも良いでしょう。このような内省の機会を各人がもっと持てれば、少なくとも現在のような理性があまりにないがしろにされ、好き嫌いが渦巻く混沌とした社会から、少しは人間的な社会を取り戻せるのではないでしょうか。

ポジティブ・コンピューティング、そしてこれからのビジネス

冒頭のiOS12のスクリーンタイム機能もスローなインターネットに向けた実験と言えなくありません。このように、情報技術を人々がよりよく生きるために使おうという取り組みは「ポジティブ・コンピューティング」と呼ばれています。GoogleやFacebookなどにかつて在籍し、それらの企業で高頻度にサービスにアクセスさせることばかりが目指されていたことに絶望した人たちは、「人道的なテクノロジーの研究開発センター」を2018年2月には開設し、活動を活発化させています。

ビジネスということでは、これからはメディアよりも情報技術を活用した「仕組み」がビルトインされる社会へと向かい、「仕組み」領域でのイノベーションに軸足は移っていくことでしょう。ちなみに私が考える「仕組み」とは、利用者による情報やコミュニケーションの消費で完結するのではなく、その後の利用者のアクションがネットを通じて実現ないしは支援されるもの、です。つまりこれまでのその時どきの関心の奪い合いよりも、機能による価値提供がビジネスにおいてより大事になっていくわけです。

したがってネットメディアに関して言えば、そのビジネスプレイヤーが大きく減ることは考えにくいものの、一定期間運営されているにもかかわらずサブスクリプション(購読料)収入が十分に得られていないとすれば、そのメディアもそこで提供されるコンテンツにも価値がないと考えられる傾向は強まっていくはずです。

次の時代を切り開く人たちのために

もちろんここで述べてきたことはすべて仮説です。

さらに言えば、急激に変化する情報環境下においては、すべての人の人生が実験に巻き込まれていると言え、実は私がここで書いたようなマイナス面はあるにせよ、その先には明るい未来が開けていると楽観的に考えることも可能でしょう。

ただ、忘れないでほしいのは、今現在、メディア運営者もマーケターも家に帰れば、いち生活者であり、子どもがいれば彼らにこの複雑で厄介な情報環境とのつき合い方についてアドバイスをしたり、少なくとも考えさせねばならない年長者であるということです。そして確実なのは、あまりに頻繁なスマホ利用、さらに高速で、直感的で表層的な反応が促されるSNSやメッセージングアプリの利用により、私たちが内省の機会を奪われているということです。

ウェブの進化に夢を見た時代は、もはや昔語りとなり、スローなインターネットを模索する時代が幕を開けようとしている。次の時代を切り開こうという方には、そんな視点も持ちながら『ソーシャルメディア四半世紀』で描かれた日本のインターネットの歴史をお読みいただければと思っています。

【告知】 佐々木裕一教授が10月24日(水)にイベントへ登壇

価格.com、@cosme、はてな、食べログ、GREE、mixi、pixiv…著名ネット起業家の声から国内ソーシャルメディアの25年間を振り返り、この先を見通す書籍『ソーシャルメディア四半世紀』。この”いちばん新しいインターネットの歴史書”を著者とともに読み解きます。

 

ヤフー・宮澤 弦氏、日経・奥平和行氏も登壇するイベントの詳細は、こちらのリンクから。

Written by 佐々木裕一