Snapchatは、5月第4週に開いた会合において、昨年から一部ブランドだけに利用させていたアプリストアをすべての企業に開放すると発表した。これで、どの企業もショッパブル(購入可能)な商品カタログおよびARフィルターを設けられ、いずれの顧客もSnapchatアプリを離れることなく、商品を注文できるようになる。
Snapchatがeコマースに本腰を入れている。
Snapchatの運営企業スナップ(Snap)は、5月第4週に開いた会合、パートナー・サミット(Partner Summit)において、昨年から一部ブランドだけに利用させていたアプリストアをすべての企業に開放すると発表した。これで、どの企業もショッパブル(購入可能)な商品カタログおよびARフィルターを設けられ、いずれの顧客もSnapchatアプリを離れることなく、商品を注文できるようになる。この発表により、ショッピング(Shop)機能を導入したインスタグラムと同じく、eコマースマーケットプレイス化を目指すSnapchatの姿勢が浮き彫りになった。
Snapchatは遅くとも2018年以来、リテーラーを誘致してきた。手始めに、よりダイナミックな広告ユニットを導入し、続いてブランド別のARフィルターを開発、顧客が試着した際に現れる購入リンクを付けた。昨年(2020年)夏には、企業にも公開プロフィールの作成を認め、Snapchatを商品発見のハブにするための第一歩を踏み出した。企業の公開プロフィールである「パブリック・プロフィールズ・フォー・ビジネス(Public Profiles for Businesses)」の全米規模での導入は、Snapchatがリテーラー勢にとっての重要な販売チャネル化に向けて、着々と準備を進めている証にほかならない。
Advertisement
eコマース化を積極的に推進するソーシャルプラットフォームは無論、Snapchatだけではない。たとえばFacebookの一連のアプリでは、顧客は商品をカートに入れ、そのままチェックアウトできるし、TikTokとピンタレスト(Pinterest)も同様の機能を試験導入している。昨年、ソーシャルプラットフォーム勢は総じて、実入りの良い新収益源として、アプリ内購入を促進した。そんななか、Snapchatはインスタグラムといったライバルとの差異化を図っている。ARとeコマースを融合し、ほかのソーシャルチャネルよりも購入プロセスを体験型にする(そして、返品率を下げる可能性を高める)ことで、競合他社との違いを打ち出す狙いだ。
Snapchatがベールを剥いだもの
パブリック・プロフィールズ・フォー・ビジネスに加えて、Snapchatはさまざまなアプリ内ショッピング機能の導入も発表した。そのひとつが、レンズ(Lense)と呼ばれるARフィルターを購入プロセスの中心として活用する試みだ。企業のSnapchatページを訪れた顧客は、カタログ内のどの商品もレンズで試着し、Snapchat内で購入できる。同社はさらに、新たなAPIツールを利用して、レンズと商品在庫を連動させていくとも発表している。新商品が入荷したら、レンズがSnapchat上に現れ、在庫が切れたら、レンズも消える、という仕組みだ。
また、音声機能をARフィルターに取り入れ、ユーザーのコマンドに応じて商品を表示するシステムも構築中だ。このツールはeコマースサイト、ファーフェッチ(Farfetch)がいち早く利用を始めている。先述のサミットにおけるSnapchatの説明では、たとえば、ファーフェッチのカタログをレンズでブラウジングしているユーザーが「ウィンドブレーカーを見せて」「できれば柄入りの」などと言うと、そのコマンドに応じた商品がSnapchat上に表示されるという。
加えて、Snapchatはレンズ機能の拡充も図っている。いまのところ、既存のショッパブルレンズの利用法はメイクや衣類の試着が主だが、前述のサミットにおける発表によれば、手首や目にも使えるツールをすでに開発しており、時計ブランドや眼鏡ブランドも商品試着用のARフィルターを設けられるという。「正確なサイジングが必須となる」と、SnapchatのAR部門でプロダクトマーケティングを率いるキャロライナ・アーギレス・ナヴァス氏は同サミットで語った。
ARを活用したeコマース戦略が本格化している理由
Snapchatのeコマース戦略のカギは、ARツールが握っている。同社は以前からさまざまなレンズでの試着機能は提供してきたが、購入リンクの追加など、レンズ上でのブランドとのコラボを始めたのは最近のことだ。eコマース化を押し進めるSnapchatにとって、レンズはTikTok、インスタグラム、そしてFacebookという、ユーザー数では足元にも及ばないライバルとの差異化に欠かせない存在となっている。
5月前半、同社CEOのエヴァン・シュピーゲル氏は、取引のあるリテーラーは皆、「近い将来、ARによる返品減少に大きな期待を寄せている」と発言した。近年、同社は買収に積極的で、まずはフィット・アナリティクス(Fit Analytics)(ARを介した衣類のフィッティング画像技術を提供)を、続いてスクリーンショップ(Screenshop)(スクリーンショットに基づいた類似商品の同定技術を提供)を手に入れた。
ARを利用したリテールの未来に賭けているのは、Snapchatだけではない。5月第3週、米小売大手ウォルマート(Walmart)はバーチャル試着アプリ企業ジーキット(Zeekit)を買収しており、これはARを介したショッピング体制の強化が目的と思われる。「バーチャル試着やARソリューションに対する関心は、昨年と比べて、それこそ桁違いに高まっている気がする」と、AR試着技術に特化した企業パーフィットリー(Perfitly)の共同創業者/CEOのラグハヴ・シャーマ氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(MODERN RETAIL)に語った。
ただ、Snapchatとウォルマートによる最近の発表で明らかなとおり、両者のARへの取り組みは大きく異なる。ウォルマートなど、一部リテーラーはAR試着を自社ウェブサイトのショッピング体験に取り入れている一方、Snapchatやピンタレストといったソーシャルプラットフォームは、さまざまなブランドのARフィルターを1カ所にまとめている。
とはいえ、どちらもAR試着エコシステム内で機能できると、シャーマ氏は語る。Snapchatなどのプラットフォームは発見ツールとして効力を発揮する一方、ウェブサイトは顧客エンゲージメントおよび保持の手段になるという。「プラットフォームでは、そうした諸々[Snapchatなど]は発見ツールとして、そしてコンバージョン率増に繋がるツールとして、重宝されることになると思う」。ただ、ユーザーが注文を行なう場合、「購入したらそれで終わりで、その人はすぐにSnapchatに戻る」。そのため、「[そのブランドに関する]さらなる発見はないし、ほかの商品を見つけることにも繋がらない」。ウォルマートをはじめとするリテーラーが――Snapchatといったプラットフォームでの販売の可能性を探るだけでなく――ARを自社ウェブサイトに組み込んでいるのは、顧客データと顧客ロイヤルティを手に入れたいからだ。
Snapchatは一方、ARを利用することで、少なくともeコマースに投資しているほかのソーシャルプラットフォームよりはブランドへの訴求力を高めたいと考えている。ソーシャルメディアの性質上、プラットフォームでの購入は衝動買いの場合が多く、そのため返品数が増える可能性もある。だがARが返品率を下げることを示すデータがあり(シャーマ氏いわく「我々が取引しているブランド勢の返品率は64%下がっている」)、Snapchatでのバーチャル試着は衝動買いの回避に役立つ可能性もある。
もっとも、ARフィルターが実際、どの程度購入に繋がるのかは依然、不透明だ。たとえば、グッチ(Gucci)の靴を試着した写真を友だちに送ったからといって、その人がその靴を本気で購入しようと考えているとは限らない――実際、多くのユーザーはレンズを遊び目的で使用している(Snapchat自身も、ARに「エンターテイメントバリュー」を認める人は74%に上ると、報告している)。
「ARとリテールの融合をSnapchatは今後も押し進めていくと思う」とシャーマ氏。「ARはSnapchatがブランド勢に提供するサービスの核になるだろうし、同社の中核的アプリに欠かせない存在になるだろう」。ただし、と氏は言い添える。「ARが実際、売上にどの程度貢献できるのかは疑問だ。単なる遊びで終わらせることなく、そうしたブランドの購入に繋げられるのか? 現時点では何とも言えない」。
[原文:Snapchat is doubling down on commerce features]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)