SNSユーザーの気まぐれな行動を把握しマーケティング戦略を立てるには、オーディエンスの測定データが不可欠だ。しかし、現状それらのデータはサービスごとに分断され、お世辞にも信頼性が高いとはいえない。オーディエンスインサイトプラットフォームのDISQOによる最新の報告書では、その状況の問題が指摘されている。
ソーシャルメディアのユーザーのほとんどが、花から花へ飛び回るミツバチのように、つねに複数のSNSをまたにかけて利用している――ほかと比べて特に好みというSNSはあるにしても。こうしたユーザーの気まぐれな行動を把握してマーケティング戦略を立てる必要があるメディアプランナーは多くの場合、プラットフォーム各社に依頼してオーディエンスの測定データを入手する。ただしそのデータはそれぞれ独立した完全に別個のサイロ状態で関連づけが難しく、お世辞にもその信頼性が100%とはいえない。
アルメニアに本社をおくオーディエンス・インサイト・プラットフォームのディスコ(DISQO)が公表した最新の報告書は、個々のソーシャルメディア内に閉じた形で情報の流れを追っていると全体像がゆがめられ、広告キャンペーン効果の正しい理解がさまたげられると指摘している。
ディスコは今年2月から3月にかけて、16万6000人を超える米国の消費者から許可を得て、モバイルおよびデスクトップ端末からアクセスされたSNS上の行動を追跡する調査を実施した。対象のソーシャルメディアプラットフォームはFacebook、インスタグラム、LinkedIn(リンクトイン)、Twitter、Snapchat、TikTokの6つで、調査の結果、回答者の44%が1週間のあいだに複数のプラットフォームを利用していることがわかった。1カ月単位で見ると、複数プラットフォームの利用率は62%にのぼる。
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複数ソースの何が問題なのか?
ディスコは、マーケターとメディアプランナー向けキャンペーン最適化手法のベストプラクティスとして、同一対象者から多面的情報を収集するシングルソース測定ソリューションを推奨している。今回発表された報告書では、サイロ化した複数ソース測定から生じる問題が浮き彫りにされている。一部抜粋して紹介しよう。
- サイロ化した複数ソース測定は、複数のSNSプラットフォームで重複した情報を把握できないため、得られる知見が不正確である
- プラットフォームを横断した効果と活動の欠如によりメディア最適化が図れず、広告の費用対効果が低い
- メディアプランナーがSNSプラットフォーム提供のデータに頼らざるを得ず、情報の信頼性に欠ける
- 複数ソースのデータセットをとりまとめて分析しなければならないため、管理コストが余計にかかる
サードパーティCookieと広告識別子の懸念も解消
ディスコの報告書はまた、典型的なキャンペーン事例における仮説にもとづき問題の所在を明らかにしている。週に1度以上最適化をおこない1カ月以上経過したキャンペーンの効果を検証するため、少ないサンプル数ながら成人ユーザー8469人が3つのSNS上で示した行動パターンを調べた。その結果、ひとりのユーザーによる複数SNS利用を重複してカウントした場合、キャンペーン最適化の効果測定における信頼性が低下することが判明した。
報告書では「変異データ(mutant data)」という表現を使ってある種のオーディエンスの挙動を説明している。ひとつのSNSにおいてはあるブランドの広告に「接触していない」(つまり見ていない)が、別のSNSでは同じブランドの広告に接触した可能性があるユーザーがいる。ブランド効果を測定する際、この「未接触ユーザー」と「接触ユーザー」をSNS別に分類して計算しないと、ベースラインの数値が不自然に高くなってしまう。結果として、キャンペーンの高コスト化と収益機会の逸失を招く。
ゼロパーティデータ(顧客の同意を得て取得するファーストパーティデータ)も、シングルソースから収集して活用すれば、メディアプランニングの世界でいま最大の混乱を招いているサードパーティCookieと広告識別子の問題をめぐる懸念の払拭に役立つだろう。
実情とデータの乖離を防ぐ
独立系代理店メディア・トゥー・インタラクティブ(Media Two Interactive)のCEO、マイケル・ハバード氏は、ディスコの主張に大筋で賛同している。「もし広告会社がプラットフォームを横断してCookieの重複を排除できなければ、あるいは、フルファネルのアトリビューションモデルを適用できなければ、広告効果による売上やブランド認知などKPIへの貢献の関連づけが、どのプラットフォームでも可能になる」とハバード氏は指摘する。「たとえば、企業のアナリティクス、マーケティングシステムのダッシュボード上には広告閲覧が購買につながったとされるケースが20件という表示があるにもかかわらず、実際に計上される売上は1件のみ、という状況もありえる」。
ハバード氏は、ディスコが今後、調査の規模を拡大して幅広いメディアを扱うことを期待している。「Cookieの重複を排除するにはソーシャルメディアの調査だけでは不十分で、1件1件の売上にどのメディアがどれだけ貢献したか、正確なアトリビューションをおこなうためには、あらゆる種類のメディアを対象とした分析が必要だ」。
[原文:Single-source panel measurement is key to optimizing social media planning, says DISQO report]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)