RETAIL REVOLUTION

デリバリーサービスの普及で強まる、ギグワーカーの権利活動 :「労働者としての正当な権利を勝ち取る」

ターゲット(Target)傘下のデリバリーサービス、シップト(Shipt)の賃金形態変更が話題となっている。シップトはユーザーが専用アプリで注文した商品を、登録スタッフ(ショッパー)が代行で購入し、宅配するサービスだ。ショッパーのひとりであるウィリー・ソリス氏は、「いきなり不透明なアルゴリズムを前提とした、不安定なギグワークになった」と不満を述べる。

昨年2月、同社は社内でV2と呼ばれる「柔軟性」が特徴の賃金支払いシステムを導入した。同社はこの新システムについて、「各オーダー処理における対価の内訳をより効果的に表示するものだ」と発表している。

だがソリス氏のようなショッパーは口々に、アルゴリズムがブラックボックスとなっており、オーダー受注時に対価として受け取れる額の計算が以前より難しくなったと非難している。ソリス氏の場合、この新システムによって夜間の宅配における収入がおよそ3割近くも減少したという。

シップトは透明性を主張

ソリス氏をはじめとするショッパーは全米に何千人と拡がるギグワーカーと連携し、シップトに対してNGOを通じて訴えることとなった。ソリス氏らは2月にギグワーカーのNGO、ギグワーカー・コレクティブ(GIG Workers Collective、以下GWC)にどういった形で結束する必要があるか相談を持ちかけた。そしてGWCのアドバイスを受け、同氏らは「シップトリスト(The SHIpT list)」というFacebookのプライベートグループを立ち上げ、情報交換と組織化を進めてきた。現在、同グループは全米でおよそ3000人という規模にまで成長している。

一方、シップトの広報担当は、「病気になった際の資金援助や、(感染症対策の)個人用防護具の提供といった新たなショッパー向けのサービスをおこなっていると」述べている。また新たな賃金体系については、「この困難な時期にサービスを提供しているショッパーの皆様へ、多大な感謝を示すためのボーナスとして取り入れた」と回答した。同社は最近、ショッパーを新たに10万人増やしている。これについて広報担当は、クリスマスシーズンに向けて「需要の急増に対応するため」と回答し、「コロナ禍のなか、シップトは食料品や生活必需品を全米の家庭に届けるショッパーの保護に努めてきた」と主張している。

また、新システムの導入については、「買い物のピーク時間や運転時間、商品数といったデータに基づいて、注文を処理する労力をより適切に考慮するため」と述べた。広報担当は「ショッパーには注文ごとに透明性のある情報を提供している。最低保障支払額や配送先住所、購入商品のリストなどだ。そしてショッパーはこれに基づいて、注文を受けるかどうかを選択できる」と指摘し、次のように述べている。「当社はショッパーからのフィードバックに常に耳を傾けており、システムが変更されてもショッパーへの支払いが不安定になっていないことを確認している」。

現在、シップトリストのメンバーとGWCは、数カ月かけてシップットに働きかけており、今後の積極的な変化を期待しているという。ソリス氏は「GWCとの連携で、我々の取り組みは大きく前進した」と語る。GWCは、ショッパーが「迅速かつシンプルに」戦略を策定できるような独自のスキルセットの導入を支援している。

デリバリーサービスは急成長

そもそもGWCは、ギグワーカーが抱える業務関連の不満を解消するための支援と、一般企業のサポートや指針をギグワーカーにも提供することを目的とした団体である。現在、報酬や福利厚生、全体的な透明性の向上を求めて声を上げるギグワーカーが世界中で拡がっている。こうした動きは米国でも例外ではなく、パンデミック下においてエリザベス・ウォーレン氏をはじめとする上院議員4名が、食料品配送サービスであるインスタカート(Instacart)のチップに関するプロセスについて、米連邦取引委員会(FTC)の調査を求めている(そしてその結果、注文完了後にチップ額を変更する「チップバイト(tip bait)」をおこなうユーザーアカウント凍結といった取り組みが実際に開始されている)。

ソリス氏を含め数千人規模のショパーがSNSなどを通じて集い、何カ月も前から労働環境について話し合ってきた。そしてGWCとの連携により、ショッパーは組織化への第一歩を踏み出した。これは非常にいいタイミングだった。シップトやインスタカートといった宅配サービスは、昨年から大きな伸びを見せている。インスタカートは今年夏に2億ドル(約210億円)の資金調達に成功し、その時価総額は前年から2倍超の177億ドル(約1兆8500億円)にまで達した。一方、シップトも昨年第4四半期の収益が前年同期比で278%増となっている。

だが、今年はユーザーの需要が伸びたにもかかわらず、10月に労働環境改善署名サイトのCoworker.orgが「パンデミック下でショッパーの賃金が4割削減された」ことを報じている。シップトの今回の新システム導入前には、時間給の従業員のように、ショッパーが注文ごとの固定手数料を受け取る形態が採用されていたという。ショッパーたちは一様に、これはインスタカートやポストメイツ(Postmates)といったほかの宅配アプリと同じモデルだと指摘している(シップトの広報担当は、この調査について「ごくわずかの、自称ショッパーを名乗る者による報告に過ぎない」と真っ向から否定している)。

拡大を続けるギグワーカーの権利活動

GWCは、非営利団体としてパンデミックが始まった頃に正式に立ち上がった。ただし、同団体がギグワーカーの権利に関わる活動を始める以前から同様の活動は確認されている。そして複数アプリの(便宜上こう表現するが)従業員をひとつにまとめる動きの発端となったのが、インスタカートの従業員が立ち上げたFacebookのプライベートグループだ。同グループはメンバーの情報のやり取りをおこなう場として機能しており、やがてリフト(Lyft)やウーバー(Uber)、ポストメイツといった成長を続けるオンラインサービスの従業員も加わるようになっていった。

同組織は、ストライキやボイコットの計画などを主として活動をおこなっている。GWCの主任オーガナイザーを務めるバネッサ・ベイン氏は、コロナ禍に伴い数百万人の宅配に従事するギグワーカーがエッセンシャルワーカーとして指定されたことが、GWCのミッションを全米規模で推進することにつながったと語る。この数カ月間、GWCはインスタカートに対して個人用防護具の提供を公に求めてきた。GWCの活動の結果、インスタカートは個人用防護具に加え新型コロナウイルスに伴う支援金の提供にも同意した。

ベイン氏は、GWCが長年にわたりギグワーカーを大量に利用している企業に対して、各ギグワーカーの権利を訴えてきた結果、最終的には正社員として認めさせたケースもあり、個人としても勝利を獲得していけるはずだと語る。ギグワーカーにとっての勝利のひとつが、「AB5(Assembly Bill 5)法案」として知られるカリフォルニア州議会法案5号だ。同法案は、企業が労働者を社員ではなく独立請負人に分類するには、裁判所が設定する3種類のテストを通じ、労働者が合法的な契約労働者であることを証明する必要があると規定している。ベイン氏GWCの最終的な目標について、「企業側に正確な認識をさせ、労働者としての正当な権利を勝ち取ること」にあると語る。

立場の弱い小売業界の労働組合

だが、カリフォルニア州では住民立法案のプロポジション22(Proposition 22)が通過し、GWCの前には新たな困難も待ち受けている。同法案は、「アプリベースの輸送や配送企業」が従業員に福利厚生を提供しなくてもいいことを定めたものだ。これはギグワーカーを採用する企業にとっては大きな勝利となっており、ほかの州でも同様の法案を通すためロビー活動を続けていくことが考えられる。実際、11月にはリフトがイリノイ州の従業員への福利厚生を制限する同様の法案をサポートするスーパーPAC(特別政治行動委員会)を立ち上げている。同社はすでに120万ドル(約1億2500万円)をかけてダイレクトメールやメディアを利用して、あるいは州議会議員向けのパーティーといった手段を通じて、ロビー活動をおこなっていると公式に伝えられている。

プロポジション22は、ウーバーやインスタカートといった企業が、ギグワーカーを柔軟に活用するために推し進めたものだ。ソリス氏はこれらの企業が主張する、「働きたいときに好きなように働いて稼ぐことができる」ような柔軟なシフト制度は、現状では存在しないと強調する。シップトをはじめ、各社の「非常に過剰な雇用」により「現状では、ギグワーカーは働きたいときでも働くことはできない」と指摘している。

小売業界では、社員が長年にわたり組合活動をおこなってきたが、ギグワーカーはいまだそういった保護を受けられない状況にある。MITの研究者であり、ギグエコノミーにおける労働慣行について書かれた『ゴーストワーク(Ghost Work)』の共著者でもあるメアリー・グレー氏は、「これまで我々は労働争議について、従業員グループ対雇用主という関係性で捉えてきた。だが今や、従業員の分類にミスマッチが生じており、ギグワーカーの場合は前述のような構図にはならない」と指摘する。

小売業界の労働組合は、とりわけ法執行機関や教育業界などと比較して、歴史的に力が弱かった。米労働統計局によると、昨年時点で、国内の小売業および卸売業で組合員となっている労働者は全体の4.1%にすぎない。これは、ウォルマート(Walmart)やトレーダー・ジョーズ(Trader Joe’s)といった小売企業による社員の組合活動を抑制するための活動によるところが大きい。また、ターゲットでは今年まで地域の倉庫作業員による組合化が進んでこなかった。米国北東部で、同社の歴史の中で初めてLDFS(Laundry, Distribution and Food Services:クリーニング、流通、食品サービス)共同組合に参加しようと試みるグループがようやく登場した程度だ。ただしこれは明るいニュースであり、大きな前進である。

公式の組合がないことを逆手に取れば、宅配アプリの場合、従業員同士の協力により集合的な力を発揮することが可能だ。グレイ氏は「こういった関係を強固なものとするため、ショッパー間で協力する動きがすでに起こっている。これは、ターゲットのような大手企業にひとりで対抗するのは難しいからだ」と語り、次のように指摘している。「ギグワーカーは複数のアプリを掛け持ちするケースが多く、そうしたケースをまとめてカバーするような労働法を推進すべきだろう」。

将来を見据えて前進する

ベイン氏は、シップトにおける活動などは、一般消費者の宅配アプリに対する利用頻度が増えたことも引き金となっていると語る。コロナ禍でギグワーカーの活躍の場が広がり、それによって消費者にも彼らが直面している不安定な雇用状況について認識が広まったためだ。「我々エッセンシャルワーカーについて、人々が心配してくれているという状況を積極的に活用すべきだ」とベイン氏は語る。

もちろん、障害も多々残されている。プロポジション22はたしかに失望させられるような内容だった。だが、GWCは「ミッション遂行に全力を尽くし、戦い続ける」と声明を発表している。最新の記事でウーバーやリフトといった企業が2億ドル(約210億円)をロビー活動に費やしたことをミディアム(Midium)が報じている。これは同法案の成立に、デリバリーサービス各社が積極的に寄与していたと言って差し支えないだろう。

一方でソリス氏は、やや楽観的な見通しを持っている。「プロポジション22は、企業側が従業員の分類の問題に関し、法廷で勝つことができなかったため、苦肉の策として作り出した譲歩案に過ぎない。なぜなら、我々ギグワーカーは柔軟性を重んじるからだ」と同氏は主張する。サンフランシスコとシリコンバレーにおいて有権者の6割がプロポジション22にノーを突きつけており、ソリス氏は「大手企業のやり方に反対する大勢の有権者が送ったメッセージは非常に強力だ。そしてこれは同地域で、ギグワーカーたちが取り組んできた組織化の取り組みが実を結んだ証拠だ」と指摘する。

GWCは、大手企業の主張が法案を通すために使った「虚偽の説明を伴った戦略」であることを、一般消費者に訴え続ける方針だ。さらに将来的なロビー活動を防ぐため、議員や規制当局との協力を得るべく動いてもいる。活動を前進させるためには、活動自体が大きなものであり、成長していることを示さなければならない。「シップトは、大多数のショッパーは満足しており、我々のように不満をいだいているのは少数派だと主張している。しかし、最近の風潮は我々に勢いを与える明るい材料だ」。

「我々は間違いなく前進している。ただ時間がかかっているだけだ」。

[原文:Shipt shoppers are the latest entrants in the growing gig workers rights movement

Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)