データとブロックチェーンはシェアリングエコノミーの重要な要素になりつつある。国内唯一のユニコーンで、日本のシェアリングエコノミーの代表であるメルカリ。CEOの山田進太郎氏は自社サービスへのビットコイン / ブロックチェーンの採用は長期的にはありうると語った。将来的にはAI、マシンラーニングを採用していく。
データとブロックチェーンはシェアリングエコノミーの重要な要素になりつつある。国内唯一のユニコーン(評価額1000億円以上のスタートアップ)で、日本のシェアリングエコノミーの代表格であるメルカリ。CEOの山田進太郎氏はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、自社サービスへのビットコイン / ブロックチェーンの採用は長期的にはありうると語った。データを活用したマッチングの最適化のため、将来的にはAI、マシンラーニングを採用していくと語っている。
「ビットコイン / ブロックチェーンに関しても情報を追っている。現実的には事業に活用できるかはまだわからない」と山田氏。ビットコイン自体は2008年のサトシ・ナカモト論文以来、さまざまな試行錯誤を経て、約100億ドル(約1兆円)相当が動いている(9月9日19時時点)。
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メルカリの山田氏はデータの活用にも触れた。ひとつが画像認識だ。「これはルイヴィトン、これはアディダスとタグが付く機能を検討している」。2015年にMicrosoftとGoogleが画像認識で人間の平均的な精度を超えた。自動的に画像にキャプションを付与したり、瞬間的にそれが何かを認識する即時物体認識などの技術も精度を向上させている。
米国展開について語るメルカリCEOの山田進太郎 撮影:吉田拓史
画像認識は人工知能の認識分野での大きなブレイクスルーであり、特に近年注目を浴びるディープラーニングがこの分野の前進に貢献した。
「取引データが蓄積され、ユーザーに対し価格のサジェスト、出品のサジェストがされる。これにより出品完了率が上がる。データを分析することでマッチングの精度が高まることになる。AI、マシンラーニングの本格的な採用に関しては中期的に考えたい」。
ブロックチェーンとシェアの相性
現状、ブロックチェーンにはセキュリティの不安がある。5月の非中央集権ファンド「TheDAO」へのクラッキングにより数十億円相当のデジタル通貨が一時的に抜き取られた。MITメディアラボ所長の伊藤譲一氏はブロックチェーンに莫大な投資がされているにもかかわらず、技術インフラを支える人材が乏しいと指摘している。
しかし、ブロックチェーンはシェアリングエコノミーに大きな価値を提供する可能性がある。
デジタルマネーがブロックチェーン活用法のひとつだ。シェアリングエコノミーには少額決済が多いが、決済額が小さくなればなるほどクレカなど既存の決済手段の手数料が重たくなる。ここではビットコインを例に取るが、ビットコイン決済はクレジットカード決済より決済手数料が安くなる。
ただし、このビットコイン決済には課題がある。ひとつはトランザクションのどこをもって取引の確定とするかということ(ファイナリティ)で議論がある。またトランザクションの速度だ。ビットコインが一秒間でさばけるトランザクション数はVISAの最大能力の8000分の1に過ぎない。これはスケーラビリティ(拡張性)を損ねている。
さらに、ビットコインのボラティリティ(価格変動率)が高いのもリスクだ。現状のビットコイン決済はサービス提供者がこれらのリスクをカバーする形で成り立っている。これらの課題がクリアされた時初めて、シェアリングエコノミーのプラットフォーム上でマイクロペイメントを含めた「なめらかな決済」が実現する。
評判システムの分散化
もうひとつのブロックチェーンの活用方法がレピュテーションシステム(評判システム)だ。Airbnb(エアビーアンドビー)は今年4月にスタートアップ・チェンジコイン(ChangeCoin)の7人のビットコイン / ブロックチェーン関連の専門家を雇い入れた。チェンジコインはビットコインを利用した少額決済による「チップ」を扱っていたため、Airbnbはビットコイン決済を検討すると考えられていた。
しかし、評判システムへのブロックチェーンの応用を検討しているとわかった。Airbnb共同創業者のネイサン・ブレチャージクは「City.A.M」に対し、こう語っている。「Airbnbのなかでは『評判』がすべてで、将来的にはもっとそうなるだろう。その人の評判によってアクセスできる家の種類も変わるかもしれない。課題はシェアリングエコノミーモデルを繁栄させるため、どうやってある場所で確立した評判を(サービスの)外部に持ち出し、誰もがアクセスできるようにするかが重要だ」。
シェアリングエコノミーは取引が終わるごとに互いを評価する。それによって確立された「評判」がある種の「通貨的意味合い」をもつことになる。分散型台帳の非改ざん性によりセキュアで、なおかつ自動更新されていく評判をネットワーク上に置ける可能性がある(参考1、参考2)。これらはプラットフォーム横断的に活用されるのが好ましい。人々に繰り返しゼロから評判を構築するロスを迫らないし、評判システムを通じてシェアにまつわる各種のリスクを最小化できる。
課題は、人間による評価には大小さまざまなバイアスがかかる。これを調整し、公平な評判を築くための優れたアルゴリズムや仕組みが必要になりそうだ。
身分証明と評判システムのオープン化
アイデンティフィケーション(身分証明)もブロックチェーンで管理できないかという議論がある。オープンな身分証明は、FacebookやGoogleのアカウントでさまざまなサービスにログインできるようになることで、部分的に達成している。しかし、FacebookやGoogleという1か所に依存するため、改ざん可能性があるのと、プラットフォーム間の縄張り争いに自身の身分証明が左右される。分散化されたIDとそれに付与した評判システムにより「信頼(trustee)」を簡易に立証できれば、シェアリングエコノミーはとてもユーザーフレンドリーなものになる。
Text by 吉田拓史
Photo by Thinkstock