[ DIGIDAY+ 限定記事 ]アドテクに関して、戯言と本物のイノベーションを区別することは、パブリッシャーにとってもマーケターにとってもきわめて重要だ。アドテクの新語は毎年どっと湧いてくるが、たいていはデジタル広告取引における新たな要件を満たすためか、不正手段をブロックするためのものだ。直近のバズワードをまとめて解説する。
ドイツ・ケルンで開催された、世界最大級のアドテクカンファレンス「Dmexco(ドメキシコ)」を理解するのは簡単なことではない。9カ所の航空機格納庫を使用し、9月11日と12日の2日間に渡って行われたこの見本市では、あふれ返るアドテクベンダーのブースが、みな目新しい用語を喧伝し、周囲から頭ひとつ抜けようと大袈裟に売り込みをかけ、すぐに混沌と化してしまうからだ。
アドテクに関して、戯言と本物のイノベーションを区別することは、パブリッシャーにとってもマーケターにとってもきわめて重要だ。アドテクの新語は毎年どっと湧いてくるが、たいていはデジタル広告取引における新たな要件を満たすためか、不正手段をブロックするためのものだ。
今回のカンファレンスにおけるキーワードを以下に簡単に解説する。これから開催されるアドテクカンファレンスでも、ケルシュ(ケルン地方名物のビール)を片手に、まくしたてるといいだろう。
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【 Sellers.json 】
インタラクティブ広告評議会(Interactive Advertising Bureau:以下、IAB)テックラボは、派手に宣伝するタイプではない。そのことはads.txt、app-ads.txt、ads.certの例を見れば明らかだ。しかし今年、誰もが話題にしているのはSellers.jsonだ。この仕組みは、パブリッシャーインベントリー(在庫)の再販を許可されていない不審な業者に騙されていないという、バイヤーの安心を保証するためにつくられた。デジタル広告取引にはさまざまなプレイヤーが網の目のように複雑に関わっていて、誰が誰のインベントリーを再販しているかや、パブリッシャーと直接の関係にあるベンダーから承認を受けているかどうかを、すべてチェックするのは不可能に等しい。Sellers.jsonはこの問題への対応として、すべてのアドテクベンダーに承認済みのセラーパートナーの情報開示を義務づけるものだ。
【 サプライチェーンオブジェクト 】
IABテックラボがリリースしたツールパッケージの残り半分であり、Sellers.jsonとセットになっている。インプレッション売買に誰が関わっているかをバイヤーが正確に記録できるようにする仕組みだ。これにより、インプレッションを水増しして利益を吸い上げるような業者を排除し、きわめて透明性が高く、説明可能なプロセスを実現できる。
【 認証済み同意 】
今年のDmexcoで飛び交った言葉のひとつが「認証済み(authenticated)」であり、認証済みオーディエンス、認証済み同意、認証済みウェブといった形で話題になった。まったく新しい言葉という訳ではなく、パブリッシャーは以前から、ログイン済みのオーディエンスデータやサブスクリプションデータを「認証済み」と表現してきた。しかし、いまや一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)のおかげで、あらゆる場で耳にする。アドテクとパブリッシングテックベンダーは、データプライバシー規制の遵守のため、この種の認証済みデータを利用するのに役立つ、新たな機能やツールを開発している。
【 ファーストプライスオークション 】
Googleが全面展開を推進するいま、セカンドプライスオークションに代わって、ファーストプライスオークションが、まもなく主流になるだろう。ここ数年趨勢を占めていたセカンドプライスオークションでは、バイヤーが法外な入札価格でインプレッションを獲得しつつ、実際にはたいていはるかに安い、2番目の入札価格しか支払う必要がなかった。ファーストプライスオークションでは、この安全装置が取り払われるので、バイヤーは実際に支払い意思のある額で入札するしかない。つまり、バイヤーはインプレッションの評価や、何を入札するかに関して、もっと賢くなる必要があるのだ。
【 ビッドトランスレーション 】
ビッドトランスレーションという言葉を聞いても、騙されてはいけない。これはイノベーションではなく、本質的にはこれまで「ビッドシェーディング」と呼ばれていたテクニックの呼び名が変わっただけだ。ビッドシェーディングは、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)が生み出した、セカンドプライスオークションからファーストプライスオークションへのバイヤーの移行を支援する仕組みだ。過去の入札データに基づいた内部計算により、最高入札額と、それをかなり下回る2番目の入札額のあいだに位置する、適正価格をDSPが決定する。しかし、ビッドシェーディングは広告主のあいだでは不評で、彼らはツールの利用料の設定に警戒感を抱いていた。そこで今年のDmexcoでは、一部のアドエクスチェンジはビッドシェーディングに代わり、ビッドトランスレーションを推すだろう。以前の怪しげな慣行から距離をとるためだが、結局目指すところは同じだ。
【 ITP 】
この言葉はアドテク幹部にずいぶん持ち上げられているが、必要な文脈がいつも明確に添えられているわけではない。ITPと聞いたら、AppleとSafariを思い出そう。ITPはインターネットトラッキングプロトコル(Internet Tracking Protocol)の略で、Appleのトラッキング対策における「大きな悪いオオカミ」だ。ITPはSafariブラウザ上でサードパーティCookieをブロックするため、パブリッシャーはSafariを使うオーディエンスに対するトラッキング能力を失い、その結果プログラマティック広告売上が減少した。エージェンシーと広告主にとっても頭の痛い問題だ。これまで利益を生んできたiOSオーディエンスのターゲティングが不可能になったためである。
【 データクリーンルーム 】
これについては、貴重なファーストパーティデータのための安全な避難所と考えればいい。安価でも簡単でもないが、GDPRなどのデータプライバシー規制のプレッシャーが一因となり、現実的に検討されるようになってきた。データクリーンルームがあれば、広告主はデータ漏洩やプライバシー規制違反のリスクを犯すことなく、厳選したパートナーから得た異なるデータセットを統合し、分析することができる。たとえば、Google、Facebook、Amazonはクリーンルーム内で統合カスタマーデータを共有し、そこに一部の広告主も加わって自前のファーストパーティデータを提供する。こうすることで、広告主は別々のデータセットの対応状況、ふたつのデータで一貫しない部分を利用して、同じオーディエンスに広告を過剰に提示していないかをチェックできる。
【 パラレル入札 】
この言葉をよく聞くようになったのは、サプライサイドプラットフォーム(SSP)がアプリ内広告の出稿を促進しようと躍起になっているからだ。サードパーティCookieの終焉が近いと噂されるなか、一部のベンダーは広告主にアプリ内広告への出資を促している。そこでパラレル入札の出番だ。基本的にはヘッダー入札と同じで、単にモバイルアプリに特化しているというだけだ。
【 PECR 】
データ保護規制は時に恐ろしく複雑になる。とりわけ、複数の規制が重複している場合はそうだ。最近になって急浮上し、GDPRとの整合性が取り沙汰されているのが、英国の「プライバシーと電子コミュニケーションに関する規則(Privacy and Electronic Communications Regulations:以下、PECR)」だ。PECRは混乱を生み出しており、とりわけ北米からの参加者には理解しづらい。関心がある読者には、こちらの一問一答シリーズの記事もおすすめ。
【 OTT 】
Netflix(ネットフリックス)やAmazonプライム(Amazon Prime)といったインターネット配信(Over the top:以下、OTT)環境で提供される動画コンテンツのことで、従来の放送シグナルを利用するレガシー放送局と対比した言葉。現在、OTTがアドテク業界でホットな話題となっているのは、OTTコンテンツサービスの需要がうなぎのぼりで、独立アドテクベンダーは新たなドル箱を求めているからだ。すぐれたOTTアドテクサプライヤーは多いが、彼らがもともとはディスプレイ広告事業者で、一夜にして魔法のようにOTTビジネスに転換しただけであることには留意しておこう。
【 CTV 】
OTTの同義語として使われることが多いが、コネクテッドTV(Connected TV:以下、CTV)は本来、OTTシグナルを配信するハードウェアをさす言葉だ。つまり、OTTコンテンツ(Netflixなど)を視聴できるアプリを搭載したスマートTVや、同じ機能を果たすセットトップボックスがこれに該当する。新たな動画コンテンツプレイヤーが、従来型の放送局とのキャリッジディール(番組の大量購入)に頼ることなく、大スクリーンを支配するための、新たな手段というわけだ。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)