プログラマティック広告のスタンダードはウォーターフォールからヘッダービディングへと変わりつつある。入札方法や価格決定まで従来とはまったく異なるヘッダービディングに、バイヤーやパブリッシャーはどう対応すべきなのか。米大手SSP、ルビコンプロジェクトのCTO、トム・カーショー氏に話を聞いた。
プログラマティック広告のあり方が大きく変わりはじめた。
ヘッダービディング(ヘッダー入札)が、ディスプレイ広告のメインストリームとなりつつある。アメリカではすでに、モバイルアプリや動画広告のインプレッションも80%以上がヘッダービディングで賄われていると話すのは、大手サプライサイドプラットフォーム(SSP)、ルビコンプロジェクト(Rubicon Project)のCTOであるトム・カーショー氏だ。
「変化はここ1年で起きている。ヘッダービディングは、従来のプログラマティック広告で主流だったウォーターフォールとまったく異なる。入札回数やインプレッションの販売価格の決定方法も変わってしまう。昨日購入したインプレッションが、翌日には3倍になっているという変動も起きている」とカーショー氏は続ける。
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ルビコンプロジェクトのトム・カーショーCTO
「混乱も起きているが、この動きを止めることはできない。大きな変化に対してバイヤーやデマンドサイドプラットフォーム(DSP)、パブリッシャー、すべての立場が対応していかなければいけない状況になっている」。
バイサイド、サプライサイド両者がヘッダービディングにおいて、どのような点に留意すべきなのか。カーショー氏に、ヘッダービディングの現状と同社の取り組み、今後の展望についても併せて話を聞いた。
国内でもヘッダービディングが伸長
「数年前まではヘッダービディングはアメリカに限定され、日本ではウォーターフォールが主流だった。しかし、いまや日本でもヘッダービディングは一般的なものとして語れる状況だ。日本において2017年のアドリクエストは16%がヘッダービディングだったが、2018年は72%にまで成長している。これまでヘッダービディングのソリューションをもっていなかったGoogleが、Exchange Biddingを提供しはじめたことで普及が進んだと考えられる。まだ日は浅いが、認知され普及するフェーズは越えたと感じている。2019年を見据えると、アメリカのようにディスプレイからモバイル、動画まで波及していくと思われ、興味深い状況だ」。
ソリューションは2択の状況
「昨年までは各SSPが提供する複数のヘッダービディング・ソリューションが存在したが、現在は2つに集約されつつある。ひとつは、先述したGoogleのExchange Bidding。もうひとつは、ルビコン・プロジェクトも設立メンバーとなっているオープンソースのPrebid.orgだ。日本ではGoogleのシェアが大きい状態だが、よりヘッダービディングが一般化していけば、パブリッシャーとしては1社のソリューションに依存せず、ある程度の独立性や選択肢を持ちたいと考えるだろう。そうなったとき、また大きな市場の変化が起きるのではないかと思う」。
ファーストプライスオークションがスタンダード
「これまでのプログラマティック広告では、2番目の値をつけた入札者によってインプレッションの販売価格が決まるセカンドプライスオークションが基本で、ウォーターフォールでは現在も採用されている。しかし、ヘッダービディングでは最高値の入札者によってインプレッションに払う額が決まるファーストプライスオークションが100%採用されている。その要因は、セカンドプライスオークションの入札価格上昇にある。入札で勝ちたいというバイヤーの意図などからダイナミックプライシングが生じ、結果として各SSPはファーストプライスオークションへと移行した」。
バイサイドはSPOがポイント
「バイヤーやDSPを含めたバイサイドにとって重要になるのは、サプライパス最適化(Supply-Path Optimization:SPO)だ。ウォーターフォールでは、上流にいれば有利で、価格は1万円で入札しても100円になるかもしれないセカンドプライスオークションと、バイサイドの負担が少なかった。しかし、ヘッダービディングはファーストプライスオークション。さらに、SSP内での入札に加え、各SSPから配信する広告を決める入札もあり、入札回数も2回になった。作業ボリュームや取引規模が拡大しており、サプライチェーンを最適化し、オークションで勝てる機会がもっとも大きい入札を選び出していかなければ、コストが増大する懸念もある」。
SSPとしてバイサイドをサポート
「こうした状況から、ルビコンプロジェクトとしてもパブリッシャーとの関係性だけでなく、バイサイドへのサポートも強化する必要があると考えている。その一つがEMR(Estimate Market Rate)だ。各DSPが提供しているビットシェーディングと同じものだが、EMRはルビコンが無償で提供するもので、使用するか否かは各DSPの自由だ。入札時のプライシングを最適化しつつ優位性を高める機能となっており、過去のインプレッションを参考に、予想される適正な入札価格をアルゴリズムで導き出す。さらに、入札を回避すべきインプレッションを特定しコストを調整する機能や、パブリッシャーのユーザー構成にデータセットをかけ合わせ、どの程度のリーチが可能かを算出できるツールなども提供している」。
サプライサイドはインベントリの価値向上を
「サプライサイドとしては利益を上げることが最大の目的となるので、入札を増やすことはもちろん、入札価格を上げる必要もある。ヘッダービディングだけでなくPMPも利用し、インベントリの活用を見極めなければいけないだろう。もっとも重要なのは、自分たちのインベントリの価値を向上させることだ。そのための方法は3つあると考えられる。まず、バイヤーのリクエストに対応できるよう自分たちのユーザーを把握する。ユーザーが特定できているインベントリの価値は70%上がると言われている。さらに、動画や音声など、対応する広告フォーマットの柔軟性も不可欠だ。インタラクティブな広告はユーザーの興味を引く。当然ながら、広告のビューアビリティも意識しなければいけない」。
広告取引の主流となるか
「ルビコンプロジェクトとしては、すべてのプログラマティック広告の取引がヘッダービディングを通じて実施されることを目指している。やがて、あらゆる種類の広告がヘッダービディングになる可能性もあるだろう。たとえば、TVCFなどはインベントリの絶対量が少ないので当面はPMPで取引されると思うが、いずれプログラマティック広告になりヘッダービディングも浸透するだろう。OOHなども、デジタルデータの活用によってオーディエンスを正確に把握でき、ヘッダービディングが普及する余地が十分にある。大きなチャレンジではあるが、面白い変化が起きるのではないかと考えている」。
Written by 分島翔平