パブリッシャーのコンテンツをプラットフォームに取り込むという、Amazonの最近の試みは新参者にとって有望なものだ。だが、すでにコマースに注力いているパブリッシャーにとって、さらに研ぎ澄まされた両刃の剣となっている。
パブリッシャーのコンテンツをプラットフォームに取り込むという、Amazonの最近の試みは新参者にとって有望なものであり、コマースに注力するパブリッシャーにとっては、さらに研ぎ澄まされた両刃の剣となっている。
昨年ローンチされた、この招待者限定プログラムは、オンサイトアソシエイツ(Onsite Associates)と呼ばれている。ユーザーがAmazonで特定のアイテムの「Best」を検索したときに、その検索結果でパブリッシャーが作成したプロダクトガイド(たとえば、最良のエアフライヤーの一覧)が表示されるものだ。ユーザーが1回検索するごとにAmazonはガイドを1つだけ表示し、ユーザーが自身のカートにガイドに挙げられているアイテムの1つを追加すると、そのパブリッシャーは自社のサイトで公開されたコンテンツに追加されたアフィリエイトリンクの場合と同じように、アフィリエイト手数料を手にする(オンサイトアソシエイツでは、アフィリエイト手数料は顧客のショッピングカートの中身すべてではなく、購入された特定のアイテムに対してのみ支払われる。つまり、パブリッシャーは通常のアフィリエイトリンクでクレジットを受け取るというものだ)。通常のアフィリエイトリンクと同様に、コミッションは商品の種類によって異なる。
米DIGIDAYは、そのオンサイトアソシエイツに参加している、5つのパブリッシャーと話をした。その5社は、ローンチからまだ数カ月しか経っていないのにもかかわらず、同プログラムからの幅広い収益を得ているという。1社のニュースパブリッシャーの情報筋は、平均月間収益は6桁であるといい、2社目のライフスタイルパブリッシャーの情報筋は、平均月間収益は通常4桁の前半から半ばであると述べた。
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オンサイトアソシエイツの実情
オンサイトアソシエイツは、コマース関連コンテンツで収益の多様化を模索するパブリッシャーにとって、難しい選択肢になっている。一方で、Amazonはアメリカのeコマースを支配しており、商品検索の大部分は現在、GoogleではなくAmazonからはじまっている。
「我々にとってそれは朝飯前のことだ」と、ピュアウォウ(PureWow)のブランドが今年初頭から数十のガイドを提供しているギャラリー・メディア・グループ(Gallery Media Group)のバイスプレジデント、エミリー・カー氏は語る。カー氏は、ギャラリー・メディア・グループがオンサイトアソシエイツからどれだけ収益を上げているかについての情報を明らかにしていない。
「いずれにしても、それは我々が作成しているコンテンツであり、Amazonが取り込めるようにテンプレートを微調整するだけだった。コンテキスト的にもっとも関連性のある環境が存在しているということだ」と、カー氏は加えた。
しかし、ほかのパブリッシャーらは、オンサイトアソシエイツをパブリッシャー向けサイトではなく、Amazonからレコメンデーションを受けることに顧客を慣れさせるよう仕組んだ危険な道への一歩と見なしている。Amazonが最終的に顧客にアドバイスと商品を提供するのであれば、このプラットフォームは手数料をたやすく引き下げる、または、適切であるとみなす推奨パブリッシャーを切り替えることができるという考えに向かう。
収益の多様化と新しいオーディエンス獲得に熱心なパブリッシャーたちが、自らの独立性とレバレッジを失うという長期的なリスクに対して、短期的に収益を確実に上げることを定期的に検討することを余儀なくされるなか、こうした種類のトレードオフは21世紀のメディアにおいて避けられない現実となっている。たとえば、この春Amazonはプライムビデオを利用している動画クリエイターたちに渡すロイヤリティを一切の説明なしに33%削減している。
「Amazon内でエディトリアルレコメンデーションを獲得することは、長期的な問題の原因になるかもしれない」と、オンサイトアソシエイツへの参加を検討しているあるパブリッシャーの情報筋はいう。
「それは新しいゲームのよう」
いくつかの点においてオンサイトアソシエイツ・プログラムはパブリッシャーにとって手軽だ。一部の参加者はオンサイトアソシエイト向けにコンテンツを作成することを検討しているが、大半は、単に既存の記事を取り上げてフォーマットを変えているだけだ。
場合によっては、参加パブリッシャーらは簡単な編集を行ったガイドを提供する。複数の情報源によると、Amazonは参加パブリッシャーにコンテンツのベストプラクティスと要件の短い一覧を渡しているという。たとえば、ガイドには、さまざまな種類の消費者ニーズと合わせ多くの選択肢とともに、最低3つの商品が含まれている必要があり、見出しのなかでAmazonについてはっきりと言及しないようにパブリッシャーたちに勧めている。
しかし、Amazonがプログラムに関して参加パブリッシャーに説明していないケースが多数存在している。一部の製品カテゴリーでは、Amazonは選択できるパブリッシャーガイドを数十用意しており、結果でフィーチャーされるパブリッシャーガイドは頻繁に入れ替わる。Amazonがどのガイドをフィーチャーするのか、どれが毎日変更になるのかを決定する方法について、Amazonから何のガイダンスも提供されていないとパブリッシャーらは語る。
「それは新しいゲームのようなものだ。どのキーワードを使用すれば検索結果に表示され、見つけられやすくなるのかを見つけなければならない」とある情報筋はいう。
不足しているさまざまなもの
参加サイトのうち3社の情報筋は、Amazonが提供するデータも十分ではないと述べた。たとえば、人々が各投稿を読むのにどれだけの時間を費やしたかをパブリッシャーが確認する方法はないため、Amazonのオーディエンス向けにコンテンツをさらに最適化することは困難だと、それらの情報筋は語る。
Amazonがパートナーたちに不十分な、または、不適切でさえあるデータを提供しているという不満は、メディアだけでなくeコマースでも共通のものだ。Amazonは顧客から収集したデータを使用して独自の戦略を策定している一方で、ベンダーやセラーが簡単には同じことができないようにしていることで知られている。
「彼らはそれを乱雑な状態のままにして楽しんでいるのは明らかだ」と2番目のパブリッシャーの情報筋はいう。
一部の参加パブリッシャーは、Amazonが参加を勧めたサイトの種類について懸念を表明する。「最終的に飽和状態になる」という競争に関する懸念に加えて、選ばれたパブリッシャーたちの一部で利益相反の可能性があると述べる者もいると語るパブリッシャーもある。たとえば、Amazonで「ベストマットレス(best mattress)」を検索すると、マットレスブランドのキャスパー(Casper)が所有するサイト、スリープオポリス(Sleepopolis)のガイドが確実に表れる(キャスパーはスリープオポリスのガイドに記載されている商品のなかには含まれていない)。ある参加者は、このプログラムでスリープオポリスのことを「卑劣な」選択肢呼ばわりをした。
Amazonはパブリッシャーのコンテンツをそのサイトのさまざまな領域に組み込もうとしてたくさんの試みを行っている。2015年、Amazonはクリスマスプレゼントガイドを作成するためにワイヤーカッター(Wirecutter)やアリュア(Allure)などのサイトを手に入れた。2017年、オー・ザ・オプラマガジン(O、The Oprah Magazine)は、オプラ・ウィンフリー氏が推薦するキュレートされたビューティープロダクトを購入できるページを作成した。2017年には、デジタルトレンズ(Digital Trends)やイーハウ(eHow)などのパブリッシャーの小さなコレクションにお金を払って、製品ページに埋め込む商品デモ動画を作成した。
「試みのなかで最大の事例」
オンサイトアソシエイツ・プログラムは、すでにこの試みのなかで最大の事例となっている。まだ初期段階だが、一部の参加パブリッシャーは、パブリッシャーらとAmazonの共通の利益が、このプログラムを双方にとって、継続的に有益なものにすることを望んでいる。
「我々は、ユーザーのために最善を尽くす。そうすれば、長期的に見れば整理されてくるだろう」と、4番目の参加パブリッシャーは述べた。