米小売大手のターゲット(Target)や米大手メキシコ料理レストランチェーン、チポトレ(Chipotle)といった有力企業が、TikTok Resumes(ティックトック・レジュメ)の新たな試みに賛同するなか、テクノロジ […]
米小売大手のターゲット(Target)や米大手メキシコ料理レストランチェーン、チポトレ(Chipotle)といった有力企業が、TikTok Resumes(ティックトック・レジュメ)の新たな試みに賛同するなか、テクノロジー、HR(人事)、社会的責任関連部門の幹部らは、同ツールが気づかぬうちに差別を助長しかねない雇用ツールだと、懸念をあらわにしている。
TikTokは7月初旬、同プラットフォームにおけるキャリア関連コンテンツの成長をさらに加速するための一手として、TikTok Resumesのパイロットプログラムをスタートした。
ハッシュタグ#TikTokResumes、および同社Webサイトを介し、求職者はパートナーブランドの求人情報を閲覧し、レジュメ/履歴書を送る代わりに履歴動画をアップロードできる。今回の履歴動画の受付は米国における求人限定で、7月31日までとなっている。
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年齢、人種、ジェンダーによる差別を助長しかねない
TikTok Resumesのパイロットプログラムがスタートしたことを受け、効果的なTikTok応募動画の作成法を指南するHow Toガイドがネット上に急増する一方、これはバイアス(偏見)を定着させかねないものであり、諸手を挙げて賛成はできない、と語る識者もいる。
「年齢、人種、ジェンダー、セクシャル/ジェンダーアイデンティティ、国籍といった領域が、意図的にせよ無意識にせよ、安易に差別の対象にされてしまう恐れがある。応募者側は、自分が面接の機会を与えられなかった理由を知り得ないとはいえ、これは問題ではないか」と、アトランタに拠点を置く環境/ソーシャル/ガバナンスコンサルティング企業ULのソーシャルメディアストラテジー/オペレーション部門のグローバルヘッド、ダグマー・エバ氏は疑問を呈する。
「レジュメ(動画)の段階でふるいにかけてしまうと、質の高い候補者を大勢除外してしまうことになる」。
「インフルエンサータイプばかりが得をする」
加えてTikTok Resumesの利用は、才能はあるが内向的な人材を見逃してしまう危険性を高めると、大手テック企業に務めるワルシャワ在住のプロダクトマネージャーは、匿名を状況に指摘する。
「このやり方だと、多くの人を誤った理由で排除してしまう。引っ込み思案で、自分を表現するのは上手くないけれど、ほかの面で優れた技能を持っているかもしれない人は、TikTok動画を作るのが苦手な可能性が十二分にある」と氏は指摘し、ソーシャルメディアにおけるコミュニケーションの形を考えると、「信じられないほど膨大な数の才能が見過ごされてしまう」と付け加える。
外交的人材の偏重と外見に基づく差別の促進は、雇用エンゲージメントソフトウェア企業、タイニーパルス(TINYpulse)のHRマネージャー、フェリシア・ダニエル氏がTikTok Resumesに懸念を抱く理由でもある。同氏によると、TikTok Resumesといったプラットフォームは、「自分を上手く演じられる」人ばかりが採用されるという現状を、さらに助長するのではないかと懸念し、内向的人材を採用する妨げに繋がるとする前出の意見に同意する。
「いわゆる『インフルエンサー』タイプばかりが得をするのではないかと思う。ソーシャルメディア上で自分の生活を堂々と共有している人は、そういうことをしたくない、私のような内向き志向の人とは性格がまるで違う」。
ただそれでも、コミュニケーション力や感情知能など、アフターコロナ時代に不可欠となる個々の能力を、動画を通じて応募者がアピールできるという点には価値があると、氏は認める。この件についてTikTokに質問を送ったが、即時の回答はなかった。
「才能を発見する手段」として期待する企業も
一方、TikTok Resumesをいちはやく利用するメディア/エンターテイメント業界の企業勢は、ソーシャルコンテンツの制作という、今後いっそう重要視される能力を明確に評価できる点や、手つかずの才能を発見する新たな手段として、これを大いに歓迎している。
たとえば、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのウワラー(Whalar)は、未経験者レベルから上級職まで、さまざまな人材を募る求人広告をTikTok Resumesに載せた。そして、この動画で応募してきたシエラ・リード氏を、クリエイティブ/ソーシャルストラテジー部門アソシエイトディレクターとして採用した。
「TikTok Resumesは、従来のチャネルでは我々の求人を見逃してしまうかもしれない優れた人材を発見する、極めて有効な手段になる可能性を秘めている」と、ウワラーの共同創業者ニール・ウォラー氏は語る。ウワラーはヨーロッパ、米国、オーストラリアにオフィスを構えており、これまでに携帯電話大手ボーダフォン(Vodafone)や米コスメブランドMACなどと仕事をしている。
「雇用ツールに関はこれまで、一般的にLinkedIn(リンクトイン)ほぼ一択だったが、職種によっては、LinkedInを使ったことがない層に多くの優秀人材が埋もれている可能性がある。才能を発見できる機会をくれるものならば何であれ、私は全面的に支持する」。
同様に、コンテンツエージェンシーATTNのCOOでTikTok Studioのトップを務めるタリン・クロウザーズ氏も、TikTokが牽引するこの手法を歓迎するという。
「レジュメ/履歴書といった慣習や雇用プロセスも、長いあいだ進化していない。だからこそ求職者、雇用担当者、企業には皆、新しいことを試す勇気を持って欲しい」と、クロウザーズ氏は語る。
新しいことを試したい人々にその機会を提供するという点において、TikTok Resumesは圧倒的な優位性を有すると、メディアエージェンシーであるゼニス(Zenith)のチーフタレントオフィサー、サンドラ・ラボンテ氏は断言する。同氏はまた、TikTok Resumesが偏見や差別を助長するのでは、との懸念を一蹴し、その理由として、応募者は動画に自身を映さなくてもよく、前職での成果に関するビジュアルだけを見せることもできる点を挙げる。
ゼニスは、eコマーススーパーバイザーやファイナンシャルアナリストといった職種の求人を掲載しており、結果については、イベントやアウトリーチといったほかの雇用チャンネルのそれと併せてモニターしていくという。「応募者が、未経験の分野に挑戦してみたいと思っている場合、TikTok Resumesは、その転職に有利となる技能をわかりやすく示すための良い手段になる。従来のレジュメでそれを実行するのは、非常に難しいからだ」と、ラボンテ氏は付け加える。
応募者からも歓迎の声
では、応募者側はどうか。ニューヨーク在住のボディイメージ/慢性疾患関係のインフルエンサー、ジジ・ロビンソン氏(22歳)はTikTok Resumesを介して、同社のコンテンツインターンの座を手に入れた。同氏は、TikTok Resumesが差別を助長するという批判を否定。同プログラムは、圧倒的なアクセシビリティを約束してくれると強調している。
「動画と音声という要素があることで、いわゆるカバーレターや1枚の履歴書だけでは絶対にできない、はるかに多くのコンテクストを企業に伝えられる。たとえば、自分のこれまでのキャリア以外にも、生い立ちを共有することも可能だ」。
[原文:Recruitment tool TikTok Resumes risks magnifying unconscious biases, execs warn]
MARYLOU COSTA(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU