前FTC議長代理を務めていたレベッカ・スローター氏は、「人々を操るデータ収集」を抑制する規定を望んでおり、今こそFTCにはその規定を設ける権限があると主張している。同氏は人々が自身のデータに関する選択と制御の権限を持つことが、データプライバシーや市場競争による被害の阻止につながらないと話す。
6月15日まで連邦取引委員会(FTC)議長代理を務めていたレベッカ・スローター氏は、「人々を操るデータ収集」を抑制する規定を望んでおり、今こそFTCにはその規定を設ける権限があると主張している。
スローター氏は、人々が自身のデータに関する選択と制御の権限を持つことが、データプライバシーや市場競争による被害の阻止につながらないと話す。むしろ、それが「通知疲れ」につながり、データ(デジタル市場の支配を可能にする貨幣)の収集に依存する企業がデータの追跡と収集についてユーザーの同意を得る際に、その企業側にダークパターンの活用といった操作的なアプローチを採用するインセンティブを与えてしまうと話している。
懸念はユーザーの「通知疲れ」
欧州経済に影響を与える問題の研究を行う非営利団体、経済政策研究センター(Centre for Economic Policy Research)が6月17日に開催したデータプライバシーポリシーに関する会議のなかで、スローター氏は「ユーザーによる制御に基づくアプローチについて注意喚起したい」と述べた。
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スローター氏は透明性と制御が重要だと考えていると述べる一方で、「マーケットやデータの使用に関わる作業を消費者が担う場合、消費者のデータを誰が保有し、それがどのように使用されているかを消費者自身がすべて把握して判断することになる」とも指摘する。「つまり、人々は通知疲れに陥り、判断疲れに陥り、判断を迫るダークパターンによって非常に乱暴に操られることになるだろう。したがって、制御を問題解決手法の基本原則とする考えに基づいて構築されたフレームワークについては非常に懸念している」。
むしろ、企業による過度のデータ収集や乱用を止める規定をFTCなどの政策立案者が作成するべきだとスローター氏は述べている。「繰り返し訴えたいのは、むしろ焦点を当てる必要があるのは、まず収集の制限や共有の禁止、データ乱用の禁止に関して、どこに企業が負担している要素があるか、という点だ。それこそが政策の観点から焦点を当てるべき部分だろう」。
「議会が動くのを待つ必要はない」
スローター氏は、今でもFTCにはデータ収集を制限する規定を作成する権限があると話す。「議会が動くのを待つ必要はない。FTCにはその規定を策定する権限があり、それを行使すべきなのだ」と同氏は述べている。
2018年からFTCの委員であるスローター氏は1月以降、6月15日に独占禁止法の「近代化」を積極的に支持するリナ・カーン氏がFTCの新議長に就任するまでのあいだ、FTCの議長代理を務めてきた。自身が指揮をとった期間中の3月に、スローター氏はFTCの法務部門内に規定作成チームを設置し、FTCが持つ規定作成権限を行使するための基礎を構築した。その目的は、FTCが「従来の規定を強化し、不公正または欺瞞的な慣行および不公正な競争手段を禁止するための新しい規定作成に着手する」のを可能にすることだった。
このチームの設置は、2020年にシカゴ大学ローレビュー(University of Chicago Law Review)に掲載された「『競争の不公正な手段』に関する規定作成の事例」という長い論文に書かれたカーン氏の主張が反映されたものだ。カーン氏はこの論文で、独占禁止の裁定を補完するためにFTCが規定を作成する権限を行使することを支持している。モリソン・フォースターの弁護士は5月に、もしカーン氏がFTCのメンバーになることが認められれば、「実際の規定作成に関して、スローター氏が味方を得ることは明らか」と書いている。
ダークパターン、データ収集、独占禁止という点を線でつなげる
議長代理を務めていた4月、スローター氏はダークパターンの使用に焦点を当てたFTCのワークショップも監督した。このイベントの開始にあたり、スローター氏は「今日のデジタルマーケットプレイスではデータが貨幣だということを私たちは理解している。そして、企業がダークパターンを使用して人々を操り、個人データを放棄させるケースが増えている。そのデータは販売、集約、分析されて、ターゲット広告や将来の購入の誘導に使われる」と指摘している。
続けてスローター氏は、「このような行為は、ダークパターンを通じて収集されたデータを使って市場支配力を強化する可能性のある大規模なプラットフォームによって仕組まれた場合に、特に有害となり得る」と、データ収集におけるダークパターンの乱用と独占禁止を結び付けてコメントした。
スローター氏はFTCがFacebookと係争中の独占禁止法訴訟に言及し、Facebook解体の可能性に加え、FTCはデータ収集の乱用の根本原因に対処する救済策を検討するべきだと提案した。「私個人としては、まずデータが収集され、保存、共有、そして使用される方法に関するガードレールを設置するという点に立ち返るべきだと考えている。これはプライバシーの保護、そして競争の保護にも役立つだろう。このふたつの点は完全につながっている」。
[原文:Recent FTC chair signals push for rules on data collection and dark patterns that sidestep Congress]
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)