日本郵政株式会社は2021年3月、約1500億円で楽天株式の8.32%を取得すると発表。日本郵政と楽天は、共同物流センターや共同集配所を構築することになった。楽天はさらに、全国500カ所以上の郵便局の屋上に楽天モバイル事業の基地局を設置し、カバー率の向上を図る。この提携がAmazonとの戦いにもたらす影響とは?
楽天(Rakuten)は長年、電子機器からテニスシューズまで、あらゆるものをオンラインで買いたいと考えている日本の買い物客にとって、信頼できるサードパーティのマーケットプレイスだった。
しかし、世界のほかの国々で動いている力学と同様、Amazonが日本に進出し、存在感を増すにつれ、楽天は守勢に立たされることになった。
いくつかの試算によると、いまでは楽天ではなく、Amazonが日本国内最大のeコマースサイトとなっている。ユーロモニター(Euromonitor)によると、Amazonは2020年の日本のeコマース売上の25.7%を占めていた。そして楽天は12.6%に過ぎなかった。2015年にはこの立場は異なっており、楽天とAmazonは、日本のeコマースのマーケットシェアという点ではほぼ互角だった。
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その結果、楽天は物流に加え、銀行や携帯電話サービスなどのeコマース以外のサービスにも投資し、Amazonに追いつこうとしている。この拡大の資金を得るために、楽天は新たな戦略的投資家を探している。日本郵政株式会社は2021年3月、約1500億円で楽天株式の8.32%を取得すると発表した。これにより、日本郵政と楽天は、共同物流センターや共同集配所を構築することになった。楽天はさらに、全国500カ所以上の郵便局の屋上に楽天モバイル事業の基地局を設置し、カバー率の向上を図る。
問題は、Amazonがeコマースでさらなるシェアを獲得するのを阻止するのに、これで十分かどうかだ。日本では、楽天は依然として強力なプレイヤーであり、2020年の売上高は前年比15.2%増の1兆4555億円だった。しかし、eコマースが楽天の将来にどれほど大きな役割を果たすかは、Amazonに奪われた市場シェアをどれだけ取り戻すことができるかにかかっている。
楽天とAmazonの違い
1997年に初めて公開された楽天のマーケットプレイスと、日本では2000年に開設されたAmazonのマーケットプレイスには、いくつかの重要な違いがある。
まず、楽天のマーケットプレイスは、すべてサードパーティの販売者で構成されており、自社のプライベートブランド商品を販売していない。第2に楽天では企業側がバーチャル店舗を自由にコントロールでき、画像の配置場所や製品ページのデザインなど、ブランドが楽天の店舗仕様に従わなければならない厳密なレイアウトはない。その結果として楽天は、ナイキ(Nike)、チャンピオン(Champion)、ネスレ(Nestle)などの大手ブランドを加盟店に迎えている。
楽天で販売するブランドはこれまで、注文の履行や発送も自分たちで行ってきた。しかし近年、楽天はブランド向けのフルフィルメントサービスを充実させ始めている。楽天は、「楽天スーパーロジスティクス」と呼ばれるフルフィルメントサービスを利用する企業の数を明らかにしていないが、利用する企業数が2018年8月から2020年8月のあいだに約9倍に増加していることだけは明らかにしている。また、楽天は2008年に翌日配送サービス「あす楽」も開始している。
一方、Amazonのエージェンシーで、世界的ブランドの日本での展開を支援しているライジングサン・コマース(Rising Sun Commerce)の創設者、ジョン・カント氏は、日本でのAmazonのブランドへの売りは設定の容易さだと話す。楽天で販売するためには、企業は、米国や英国など8の国と地域のいずれかに法人を設立するか、楽天が承認したサービスパートナーと契約を結ぶ必要がある。一方、Amazonにはそのような条件はない。
フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)によると、Amazonの日本でのeコマース売上は2018年に120億ドル(約1兆3100億円)に達し、当時の日本はAmazonにとってドイツに次ぐ2番目に大きな国際市場となっていた。しかし、それ以降、Amazonは日本での売上を公表していない。
楽天は近年、マーチャントが楽天のサイトに参入しやすくなるよう努めてきた。たとえば4月にはショッピファイ(Shopify)との新たなパートナーシップを発表し、米国のショッピファイのマーチャントがショッピファイの管理パネルから楽天に店舗を設置できるようにした。
楽天の拡大計画
「幸運にも楽天は、長いあいだeコマースを独占できる地位にいた」と語るのは、日本の菓子の定期購入サービス「ボックス(Bokksu)」の創業者であるダニー・タイング氏だ。タイング氏は2012年まで楽天で働いていた。「日本国内でのeコマース事業は、買収や新規事業、国際的な事業拡大のための巨大な資金源となっていた」。
2013年から2014年にかけて、楽天は18件の買収を発表した。そのなかには、メッセージングアプリ「バイバー(Viber)」や動画サービス「ビキ(Viki)」など、楽天が新たなサービスを展開するための買収もあれば、楽天の既存事業を強化するための買収もあった。たとえば、リベートサイトの「イーベイツ(Ebates)」を10億ドル(約1000億円)で買収し、最終的にはこれを楽天の人気ポイントプログラムに統合した。
これらの投資のすべてがうまくいったわけではない。国際展開は長年注力してきた分野で、2012年から2014年にかけては英国、スペイン、ブラジルなど数多くの国でマーケットプレイスを立ち上げた。2010年には楽天はバイ・コム(Buy.com)を買収し、最終的にはブランド名を「Rakuten U.S.」に変更して、米国でのプレゼンスを拡大した。
2016年、楽天の最高経営責任者(CEO)、三木谷浩史氏は新たなビジョンを打ち出し。「成長の可能性がもっとも高く、収益性の高い事業のみに集中する必要がある」と述べた。その結果、わずか数年前に立ち上げた海外マーケットプレイスの多くを閉鎖した。そして2020年、楽天は米国から撤退し、オンラインストアを閉鎖した。
eコマース以外での楽天の2大事業は、オンラインバンキングならびにクレジットカード事業と携帯電話事業だ。タイング氏によると、日本の銀行業務はほとんどがまだオフラインで行われており、楽天はオンラインバンキングをいち早く取り入れた企業だという。楽天カードの利用者は2100万人を超え、楽天で開設されたオンライン銀行の口座数は1000万を超えている。しかし、これは日本の総人口(1億2600万人)のなかでは、まだほんの一部に過ぎない。楽天によると、同社は日本の金融機関のなかで最初にこのマイルストーンを達成した会社だという。
一方、楽天の携帯電話事業は、ハードウェアと通信インフラの両方で構成され、急成長しているが、コストもかかっている。携帯電話部門は、2270億円の損失を計上したが、売上高は前年比34.4%増だった。楽天の携帯電話事業が黒字にならないのは、自社で携帯電話基地局(セルタワー)を設置するなど、独自のキャリアネットワークを構築するために多額の投資が必要なためだ。携帯電話部門は楽天のほかの部門の収益を押し下げ、事業全体では1158億円の赤字となった。
日本郵政との提携があれば、楽天は複数のゴールを目指せるようになる。第1に、日本郵政との提携によって携帯電話の基地局を新設することで、より収益性の高い携帯電話事業を展開することができる。第2に、日本郵政と共同で物流センターを建設することで、より多くの人々に迅速な配送を実現できる。広報担当者によると、楽天は、日本郵政と共同で建設する物流センターを通じて、遠隔地のより多くの顧客にリーチしたいと考えているという。
「(楽天は)追いつこうともがいているように感じる」とカント氏はいう。「彼らは、Amazonが自分たちからますます多くの市場シェアを奪っていることを認識しているのだ」。
[原文:Rakuten ramps up logistical investments in Japan to fend off Amazon]
ANNA HENSEL(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)