U-NEXTが、2021年3月に米大手テレビネットーワークのHBOが展開するストリーミングサービス、HBO Maxと日本における独占契約を締結。4月よりコンテンツ配信を開始している。米大手TVネットワークとのパートナーシップの背景と国内ストリーミング市場での戦略について、代表取締役社長の堤天心氏に話を聞いた。
動画、電子書籍などを配信して、会員数200万人を超えるU-NEXT。NetflixやAmazonのプライムビデオ(Prime Video)など強力なライバルがひしめくストリーミング市場で、日本ブランドとして確かな存在感を示している。
そのU-NEXTが、2021年3月に米ワーナーメディアとSVODにおける独占パートナーシップ契約を締結。大手テレビネットワークのHBOと、ストリーミングサービスHBO Maxのオリジナルコンテンツを4月より配信している。ワーナーメディア傘下で豊富なコンテンツを有するHBOは、「セックス・アンド・ザ・シティ(Sex and the City)」などの作品が日本でも広く知られている。一方、(HBO Maxを含め)HBOというブランド名は決して日本で認知度は高くない。
U-NEXTはHBOというブランドとそのコンテンツにどのような価値を見出しているのか。その背景と国内ストリーミング市場での戦略について、代表取締役社長の堤天心氏に話を聞いた。
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ーー今回、日本におけるHBOのコンテンツディストリビューターになった背景は?
一般的に(ストリーミングサービスが)海外で展開しようとする場合、D2Cで展開するか、もしくはディストリビューターを探して展開するふたつの方法がある。ワーナーメディアは今回日本におけるディストリビューターをU-NEXTに決め、HBO及びHBO Maxオリジナルコンテンツの独占配信契約を結んだということだ。契約交渉の背景や詳細についてはコメントを控えたい。
ーーアメリカでは圧倒的な認知度を持つHBOだが、日本ではそこまで高いとは言えない。U-NEXTとしてHBOというブランドにどのような価値があると考えているのか?
確かに、一般的なHBOの認知度は日本においてそこまで高くない。一方で、日本人でもエンターテインメントコンテンツやアメリカのコンテンツに対する感度が高い人たちは、当然HBOを知っている。我々が今回HBOおよびHBO Maxオリジナルコンテンツの独占配信契約を締結した目的のひとつは、そのような層にリーチし、これらのコンテンツ群をきっかけにU-NEXTに加入していただきたいからだ。
エンターテインメントコンテンツに感度が高い人々は、インフルエンス力も強い。ネットを通じてU-NEXTのよさを広めてくれる可能性も高いのではないかと考えている。HBOもアジア圏ではケーブルテレビのHBO Asiaを展開して一定の認知度を得ているが、日本でのペネトレーションは低いと言われている。今回のパートナーシップによって、ブランド認知度の向上などが期待できると見ているはずだ。
ーーHBOを有するワーナーメディアの作品は、U-NEXT以外のストリーミングサービスでも視聴できる。差別化という点でどう考えているのか?
今回、U-NEXTが締結したのはあくまでもHBOおよびHBO Maxオリジナルの新作に関する独占契約であり、ワーナーメディアが手がけた映画は含まれていない。映画に関しては作品によって配給の方法が異なるためだが、HBO Maxのドラマやドキュメンタリーを国内で初めて提供するのはU-NEXTのみであり、そこが大きなポイントだ。
今回の契約はU-NEXTの独自性を強めるための差別化戦略の一環であり、そのひとつがHBOの有するドラマなどTVシリーズのラインナップ強化だ。アメリカドラマにおいてはそのクオリティ、スケール感を含めてNetflixとHBOが2大ブランドとなっている。さらに、ある調査ではオーディエンスの傾向として、ひとりあたり2サービス程度のストリーミングサービスを契約しており、今後さらに増えると推測している。つまり、日本でアメリカの動画コンテンツを視聴するならNetflixかU-NEXT、という選択肢を提供できるようになることが目的だ。
また、ワーナーメディアだけでなく、バイアコムCBS(ViacomCBS)やレジェンダリー・テレビジョン(Legendary Television)といった国外のプロバイダーとのパートナーシップも強化しており、日本のストリーミング市場で展開する際のディストリビューションパートナーのポジションを獲得していきたい。すべてのストリーミングサービスが、NetflixやDisney+のようにグローバルD2Cにはならないと思う。リージョンごとにパートナーを見つけて直接契約を結ぶ形は残ると予想している。
ーーNetflixやプライムビデオなど、市場において大きな位置を占めているサービスへの対抗策は?
U-NEXTの戦略のベースにあるのは「量」だ。作品の量を増やし、デジタルマーケティングをテコに会員を増やしていく。Netflixやプライムビデオは、独自コンテンツに注力して「質」を追求している。しかし、U-NEXTは豊富なコンテンツ量で勝負する。たとえば我々がアメリカだけでなく、アジアのコンテンツを充実させているのも量を追求し、アジアコンテンツを視聴したいユーザーの選択肢になるためだ。
また、コンテンツの量を確保することで、会員の獲得とリテンションにもつながっていく。国内のユーザーは「視聴したいコンテンツがあるからサービスに加入する」という傾向が強く、獲得とリテンションの両面でコンテンツのラインナップは重要だ。質を追求したブランドの強化ももちろん重要だが、まずはコンテンツの量を訴求してきた。
もちろん、質の面からのアプローチも無視できない。これまでは量を重要視してきたが、競争が激化するなかで質にフォーカスする必要も生じている。これはあくまで個人的な認識だが、Netflixもかつては量を重視していたように感じている。しかし、サービスがある程度の規模へと成長し市場での存在感が高まるにつれ、一部スタジオからの作品供給が滞る事態になり、自社IPのオリジナルコンテンツ制作に舵を切った。それゆえに、Netflixは戦略だけでなく必然性もあり、オリジナルコンテンツに注力していると思う。当社もいずれ「質」を重視することになるだろう。
自社制作はまだ先だが、今回のワーナーメディアとの契約では、世界的ブランドの質の高いコンテンツを作品群として独占配信できた点で、質・量ともに満足できるものになっている。やはりブランドの看板となるコンテンツは必要で、我々も今後「U-NEXTでしか見られない」作品を強化し、ユーザーの選択肢に残っていきたい
ーーつまり、今後オーディエンスにとっての「メインサービス」となることを目標にしている?
最終的なゴールはそうなると考えているが、まずは先述しているようにあらゆるジャンルで「2番手以内」、つまり「このジャンルを楽しむなら、◯◯とU-NEXTだけで十分」というポジションを確立していく。
我々の会員獲得の方針をわかりやすく表すなら、1コンテンツで10万人に加入してもらうのではなく、1コンテンツで1人加入でもよいから獲得するというものだ。そのようなコンテンツが10万本揃えば、10万人の会員を得ることになる。ラインナップの幅に加えて、「ここでしか見られない」作品を強化し、この両輪でジャンルごとに「2番手以内」を目指していく。
この方針であれば、ビジネスのボラティリティが下がる。継続的で安定的な成長を見込め、実際、U-NEXTもそのようになっている。
ーー今後の国内ストリーミング市場はどのような動向をみせ、そのなかでU-NEXTはどのような戦略を取るのか?
個人的には、今後もレンタルビデオ市場やペイチャンネルのデジタル化はますます進むと予想している。映像業界の産業構造も変わりつつあり、今後2〜3年のスパンでますますデジタル化するのではないか。
また日本はコンテンツのジャンルが多様だ。アメリカはドラマと映画が主流だが、日本はアニメやアジアなどの海外コンテンツのニーズもある。さらに映像だけでなく、マンガを中心に電子書籍にお金を払う傾向もある。電子書籍は日本が世界で圧倒的なトップという報告もあり、こうした日本市場ならではの特性を踏まえて当社は電子書籍や音楽配信も始めた。動画というフォーマットにとらわれずコンテンツを提供して、多様なニーズに応えていきたい。
もちろん、Netflixもプライムビデオも日本独自のニーズを汲み取りつつ、ローカライズしている。しかし、この2社でストリーミングサービス市場が寡占されることはないと予想している。U-NEXTがどのようなポジションを獲るのか。今後、オリジナルコンテンツの配信なども見据えながらチャレンジしていきたい。
Written by 山田 雄一朗