GF2強構造のなかでデジタル広告のプレイヤーはどのような戦略をとればいいのか。米SSPパブマティック(PubMatic)のAPAC(アジア太平洋)担当バイスプレジデントのジェイソン・バーンズ氏にインタビュー。バーンズ氏は […]
GF2強構造のなかでデジタル広告のプレイヤーはどのような戦略をとればいいのか。米SSPパブマティック(PubMatic)のAPAC(アジア太平洋)担当バイスプレジデントのジェイソン・バーンズ氏にインタビュー。バーンズ氏は日本、アジア、欧米のデジタル広告市場に関して以下のように主張した。
- 日本市場のクリックを重視するディスプレイ広告のプライシング傾向は変わりつつある。一部のプレミアム媒体では高価格案件が生まれている
- 米国のデジタル広告市場はGoogleとFacebookのデュオポリー(複占)、欧州も同様。日本を含むアジアでも少数プレイヤーに寄る傾向がみられる。もしパブマティックなどをビッグプレイヤーと競合させればパブリッシャーはもっと収益化できる
- GoogleとFacebookの競争は均衡状態にあるが、アドテク能力を拡張する潜在性の高いAmazonがじわじわとGoogleの独占を削りにかかっている。パブマティックや同社とインテグレートする媒体社にとってヘッダー入札においてAmazonやFacebookとの協力が望ましい
「日本市場はとてもユニーク。広告代理店2社が高度に影響力を握っている。日本市場で何がされるべきかを決めることができるだろう。グローバルではWPPとその傘下のグループM(GroupM)は影響力が強く『市場を変えようとする』傾向があるが、2社が日本市場でもつ力には敵わないだろう。電通と博報堂はほかの海外市場がそうしたような速度でプログラマティックを導入してこなかった」。
しかし、状況は変わりつつあると考えているという。バーンズ氏は日本の大手代理店のプログラマティック担当者がシンガポールに移ると聞いた。「状況は変わった。シンガポールはグローバルアドテク企業の集積地で、代理店はアドテク界隈で何が起こっているかを知ろうとしている」。
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地域別に異なる寡占状況
「日本のデジタル広告市場はクリックに比重を置いている。ほかの市場はPMP(プライベートマーケットプレイス)やブランディングに力点をかけている。2015年のアドテック東京でのキーノート講演で、私は日本のeCPMはインドを下回る水準だと指摘した」。
「変化の兆しはみられる。ある大手新聞社はPMPでより高いCPMを付けることに成功しているし、J-PADに加入する大手出版社でも広告価格案件が入りはじめている」。
米国のデジタル広告市場はGoogleとFacebookのデュオポリー(複占)にさらされている。
「欧州では少し状況が違う。プレミアムパブリッシャーは『Googleに事業を潰されている』と考える傾向が強い。ただ彼らはGoogleのエコシステム(DFP、ADX、Google Analyticsなど)に依存していながら『彼らは我々のインベントリーから8割程度のマージンを得ている』と語っている」。欧州のパブリッシャーは「パンゲアアライアンス」など媒体社連合を組んでいる。欧州連合(EU)の欧州委員会は先月末、GoogleがEU競争法(独占禁止法)に違反したとして24億2000万ユーロ(約3000億円)の制裁金を払うよう命じている。
日本市場も一握りのプレイヤーに占拠されているが、ほかのアジア市場では2強以外のプレイヤーが活躍できるだろうか。現に2強を締め出した中国のインターネットではテンセントらがデジタル広告で莫大な収益を上げている。
東南アジア最大のインターネット経済であるインドネシアではどうだろうか。バーンズ氏は先日、同国最大級新聞社Kompasなどプレミアムパブリッシャーを訪問したが、プレミアムパブリッシャーはGoogleのエコシステムだけに依存していたという。「パブリッシャーの収益成長はなくフラットな一方、Googleのマージンだけが拡大している状況だった。だが、パブリッシャーは『Googleと仕事していてハッピーだ』と語っている。もしPubMaticのような競合を活用していれば、Googleももっとパブリッシャーにお金を渡すようになるだろう」。
Amazonによるヘッダー入札の衝撃
GoogleのWebの独占を破るために出てきたヘッダー入札だが、最近はこの分野にAmazonやFacebookが参入しており、興味深い競争がはじまりつつある。Amazonは昨年12月にヘッダー入札ソリューション「A9」をリリースしている。これはこれまでクライアントサイドで行ってきた入札をサーバーサイドで行おうとする野心的な試みを含んでいる。
「Amazonは『A9』をリリースして以降この半年、彼らがディスプレイ広告市場の第三極になるのではないかと問われている。Amazon自身が数億ドルの広告費を使っている。これはパブリッシャーがAmazonの広告費から稼げることを意味する。さらにAmazonは巨大なカスタマーベースに基いた膨大なデータ(主に購買に関するもの)を蓄積している。Amazonにとって日本はA9のセールスチームを置いたアジアで最初の国だ。Amazonはページにスクリプトを埋め込むようパブリッシャーと話し合いをしているだろう」。
「我々はAmazonとヘッダー入札で合意している。パブマティックがヘッダー入札、ラッパーソリューションを提供するパブリッシャーの在庫を、Amazonが買うことに関しても友好的な話し合いを進めている。日本でもAmazonに対する在庫を用意することを検討している」。
Google vs Facebook(+ Amazon)
Facebook Audience Network(FAN)ともパートナーシップを進めている。「FANの会議がシンガポールであり出席したが、FANは『すべてパブリッシャーのページにスクリプトを埋めてもらう時間がない』ということなので、我々のヘッダー入札ソリューションを介して在庫を買うことを検討している。Facebookもたくさんの需要を抱えているので、パブリッシャーにとって好ましい」。
米SSPパブマティック(PubMatic)のAPAC(アジア太平洋)担当バイスプレジデントのジェイソン・バーンズ氏
これらはGoogleの支配力を変えることになるのだろうか。「GoogleとFacebookの競争は均衡状態だが、Amazonは密かにGoogleの支配力を削ろうとしているようだ。これらはマーケットの大きな変化の要因になり、FacebookとAmazonがそれをもたらしている」。
Written by 吉田拓史
Photo by GettyImage