Chrome の個人情報保護強化、失望するパブリッシャーたち

これまでGoogleは、自分たちはニュースビジネスの味方であるという姿勢を示そうと熱心に取り組んできた。だが、Chromeブラウザの機能変更が行われることとなり、この超大手テック企業Google内におけるニュース友好派の影響力について疑問の声が上がっている。

7月末に予定されているChromeのソフトウェアアップデートにより、サイト訪問者が「シークレットモード」で閲覧しているかどうかが、サイト側では検出できなくなる。この「シークレットモード」というのは、プライベートブラウジングを表すGoogleの用語だ。シークレットモードで閲覧されると、サイト側ではCookieの読み取りや書き込みが一時的にできなくなるので、訪問者がサイトのコンテンツをどれだけ消費したか、何度訪問したかがわからなくなり、ペイウォールが機能しなくなる。そのため、多くのパブリッシャーが、どのユーザーがシークレットモードで閲覧しているかを検出する方法を編み出し、そうしたユーザーがサイトに登録するかサブスクリプションを購入するまで、アクセスをブロックするようになっている。

Chromeの機能変更テストは4月下旬からはじまっているが、パブリッシャーらは、Chrome開発者が最初にテストの提案をした2月からずっとGoogleに対して不満を訴え続けている。

プライバシーを優先

米業界団体、ニュースメディアアライアンス(News Media Alliance)のある情報筋は、同団体がGoogleのニュースパートナーシップチームに苦言を呈した際、チームはテストの実施を把握していなかったようだと証言した。また、その後の会話からは、GoogleのニュースチームとChromeチームは連携していたこと、そしてGoogleはニュース業界の懸念よりも、消費者のプライバシーを優先する計画であったことが判明したという。

パブリッシャーらは、テスト開始後すぐに、自分たちが苦労して閉じようとしてきた抜け穴が、再び開きはじめたのに気がついた。これはGoogle側からして見れば、ユーザーのプライバシーを保護するために、バグの修正を完了させた、ということになる。

米DIGIDAYがGoogleにコメントを求めたところ、広報担当者はメールでの返信で、Cookieに永続性がない環境のなかでこうしたメーターを強いるのは、各種ブラウザが抱える課題であることを同社は理解しているとした。

この広報担当者が考えられる対策として提案したのは、Cookieなしで来訪したすべてのユーザーに登録をさせ、ログインしたら一定数の記事を無料で読めるようにするやり方であった。

縦割りなGoogle組織

かつて一部のパブリッシャーは、読者の購読料から収益を上げられるように支援してくれたとして、Googleを賞賛していたこともあった。何億ドルも費やすと約束し、新しいツールの開発だけでなく、ニュースパブリッシャー向けに新たなビジネスモデルを研究する資金の提供もしてくれたのだ。だが、シークレットモードの問題や、パブリッシャーのプログラマティック広告運用のアドテクを揺るがすような変更が強いられたこと、Chromeではデフォルトで特定の種類の広告をブロックする計画などを見ると、この検索最大手には、パブリッシャーを支援する取り組みよりもほかに、ビジネス上のより大きな優先事項があるのだとあらためて思い知らされた形だ。

「今回の動きには非常に失望している」と、匿名を条件に取材に応じてくれたあるニュースパブリッシャー幹部はいう。「これでわかったのが、Google内では、パブリッシャー部門、検索部門、広告部門がそれぞれ縦割りになっており、横の連携がないことだ。すべての部門が結びつく交差点はシニアエグゼクティブレベルにしかないのだが、そこまでいくと誰かの注意を引くのが難しくなる」。

「この縦割りが意図的なものなのか、偶然なのかはわからない。だが、そうは言っても、彼らが本当にパブリッシャー支援に関心を持っていれば、我々が話をできるもっと下のレベルに担当者を置けたはずだ」と、この幹部は補足した。

シークレットモードの性質

Chromeの機能変更がニュース業界にどれだけ大きなリスクをもたらすのかを正確に判断するのは困難だ。ただ、Chromeはブラウザ市場で圧倒的な強さを誇っており、スタットカウンター(Statcounter)のデータによれば、デスクトップでは69%、モバイルブラウザでは59%の世界市場シェアを持っている。プライベートブラウジングの普及率については、データの入手が困難だ。

プライバシー重視のブラウザを提供しているダックダックゴー(Duck Duck Go)が2017年に実施した調査では、プライベートブラウジングモードで1回以上インターネットを閲覧したことのあるネットユーザーは全体46%にのぼったが、毎週使用していると答えたユーザーは約11%にとどまっており、ほとんどが「恥ずかしい検索」をデバイスに残さないために利用していることがわかっている。

パブリッシャーが限られた法的手段しか取れない可能性もある。Chromeのシークレットモードは著作権侵害を助長するものであるとして、罪を着せようとするパブリッシャーが出てくることも考えられるだろう。だがその場合、ブラウザとしてのChromeは著作権を侵害するための手段として売り出されており、著作権侵害以外の商業的用途が限られている、あるいは、著作権侵害を可能にするという特別の目的をもって設計されたものであるという主張を通す必要がある。そう指摘するのは、ハーバード・ロースクールのサイバーロー・クリニック(Cyberlaw Clinic)でクリニカルインストラクターを務めるケンドラ・アルバート氏だ。

「人身売買防止法に違反していると訴えるために必要な基準のいずれかを、Chromeが満たしているとは考えにくい」と、アルバート氏はいう。「多くのニュースプロバイダーが今回の機能変更に反発するのは理解できるが、そもそものシークレットモードの性質に沿ったものなのではないか」。

オーディエンスへの影響

この変更が原因でパブリッシャーが失う可能性のあるオーディエンスにどれだけの価値があるのかについては、さまざまな意見がある。業界では、シークレットモードを使っている人たちは購読者にならない傾向が高いというのが通説になっているが、そうしたユーザーをブロックすることで効果が出ている実例もある。たとえば、ダラス・モーニングニュース(The Dallas Morning News)のデジタルマーケティングオペレーション担当ディレクター、マーク・フランシスカッティ氏よれば、同社のサイトにシークレットモードでアクセスしているのはユニークユーザーのうち7〜15%であった。このシークレットモードでのアクセスをブロックして、同社は「かなりの数」の購読者を集めたという。ただし、具体的な数については公表を控えるとした。

購読者からの収益を求めるパブリッシャーらのあいだで再びペイウォールが流行しているため、Firefoxブラウザの拡張機能として現れ始めたペイウォールブロッカーの到来に、身構えている企業もある。だが、オンラインパブリッシャー協会(Association of Online Publishers)が、アドブロックがパブリッシャーの収益を年間何億ドルも損ねているとしている一方で、パブリッシャーたちは、サブスクリプションの真髄にある価値の提案をすれば、ペイウォールブロッカー導入を阻めるのではないかと希望を抱いている。

「我々は、ジャーナリズムの支援がコミュニティにとって重要であるというメッセージの発信に、懸命に取り組んでいる」と、フランシスカッティ氏はいう。「(シークレットモードでのアクセスを)ブロックできないのであれば、別の対応策を見出さなければならない」。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)