今年の下半期、パブリッシャーにとって光明となったのがSnapchatだ。コンテンツを配信しているメディア企業4社によれば第2四半期のPMは、前年比でも前期比でも増加を記録。オーディエンスも増加し続け、広告主からも熱い視線が寄せられている。この勢いでプラットフォームとしての地位を確立できるだろうか。
今年の下半期に、パブリッシャー各社にとっての光明となっているのがSnapchatだ。
Snapchatでコンテンツを配信しているメディア企業4社によれば、第2四半期にSnapchatのディスカバーにおける1000インプレッションあたりの収益(RPM)は、前年比でも前期比でも増加を記録したという。これはSnapchatのオーディエンスが増え続けていることを意味しており、広告主も増加するオーディエンスにリーチするための投資を惜しみなく続けている。
こうしたSnapchatの加速は、CPMの増加によるところが大きい。メディアエージェンシーのメディアハブ・グローバル(MediaHub Global)でペイドソーシャルメディア担当VP兼ディレクターを務めるエリカ・パトリック氏によると、第4四半期に入り同社では前年比で(Snapchatにおける)CPMが10%から20%の増加ペースで推移しているという。
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また、今年春にSnapchatがおこなったアップデートも後押ししている。具体的な一例を挙げれば、これまでは唯一のスキップ不可広告メニューだったコマーシャル(Commercials)の枠に、やや安価なメニューであるスナップアド(Snap Ads)が挿入できるようになり、コマーシャルで埋められなかったインベントリが埋められるようになったことなどだ。Snapchatのストーリー配信機能であるディスカバー(Discover)では、パブリッシャーからフィルレート(インベントリの埋まり具合)について不満の声があがっていたが、この機能拡張によりフィルレートが増加し、RPMもまた向上することになる。
CPM増加に期待するパブリッシャー
Snapchatは力強い成長を続けており、ディスカバー上ではパブリッシャー間の投稿競争が激化しているにもかかわらず、来年以降もSnapchatに関しては強気の見通しを立てているパブリッシャーは多い。その材料のひとつが、発表されたばかりながら注目を集めるSnapchatのTikTok的なサービス、「スポットライト(Spotlight)」だ。
前述のメディア企業の役員のひとりは、「視聴回数が多少減ったとしても、CPMが増えればそれで良い。そのほうが収益としては高くなる」と語る。また、既にSnapchatコンテンツのRPMが前年比で20%、2020年第2四半期と比べて35%の増加となっていることも明かした。
パブリッシャーもプラットフォーマーも、全体的に今年はオーディエンスが増加しているが、なかでもSnapchatの増加は著しい。10月に行われた同社の第3四半期の業績発表によれば、1日あたりの平均アクティブユーザー数は2億4900万人に達しており、前年同期比で18%の増加となっている。また、増加したユーザーのエンゲージメントも高く、平均投稿数は25%も増加している。
動画コンサルティング企業のバター・ワークス(Butter Works)のCEO、ポール・グリーンバーグ氏は「Snapchatのエンゲージメントは伸長し続けており、これまで一部で予想されていたような『終焉』を迎える様子は、いまだに見えない」と語る。
広告主も本腰を入れ始める
ユーザーが流入すれば、広告主もそれを追いかけるように入ってくる。今のところ、Snapchatには試験的な形で投資をおこなっている広告主が大半だ。だがメディアハブのパトリック氏は、7月に起きたFacebookのボイコットやSnapchatの広告ポートフォリオの改善といったいくつかの要因が重なって、今年はSnapchatでの広告投資により積極的な姿勢の企業が増えていると指摘する。
「Snapchatは機能が多彩になり、競争力がついた」と同氏は語る。「マーケティングファネルの初期段階にあり、購買に至るまで先の長い段階にあるブランドにとっては、Snapchatは非常に魅力的なプラットフォームとなっている」。
また、さまざまな面でSnapchatが進化してきたことで、広告主はより若いオーディエンスをターゲティングしやすくなっている。「試験運用の段階は終了し、すでにSnapchatを確固たるプラットフォームとみなしているクライアントも多い」とパトリック氏は語る。
Snapchatの株価は11月に45ドル(約4700円)を記録し、前年同月のおよそ15ドル(約1600円)からほぼ3倍にまで高騰している。これに伴いディスカバーにおける競争も激化している。ただしメディア企業の分析はマチマチで、競争激化によりSnapchatでパフォーマンスが不安定になっているコンテンツがあると判断する明かす役員もいれば、特にそういった不安定化は見られないと語る役員もいる。
あるメディア企業の役員は、「プラットフォーム上のコンテンツが大きく増えたため、合計の視聴数は減少した。だがSnapchatは非常にスマートに、かつ積極的に改善策に当たっているのも事実だ」と語る。
スポットライトの影響は不透明
勢いのあるSnapchatにスポットライトが加わることの影響は不透明で、見解も分かれている。スポットライトにはユーザーやクリエイター、パブリッシャーのコンテンツの登場が想定されるが、同機能はそもそもユーザー生成コンテンツにもっとも適した構成となっていると、アクシオス(Axios)は指摘している。
現時点ではパブリッシャーのコンテンツも広告もないが、一部のパブリッシャーのあいだではSnapchatユーザーのディスカバー視聴時間がスポットライトによって奪われるのではないかと懸念されている。両機能のユーザー体験とコンテンツ形式は合致しないものの、スポットライトはSnapchatのアプリ内で目立つ箇所に配置されている。「パブリッシャーのSnapchat上のコンテンツの価値が半減するのではないか」と、一部の関係者も危惧を漏らしている。
だが一方で、ユーザー体験が大きくかけ離れており、問題にはならないという楽観的な意見や、さらにはクリエイターのブランド確立に利用できるスポットライトという新たな可能性が開けたことを歓迎する声も多々ある。
5ミニッツ・クラフト(5 Minute Crafts)をはじめとする動画チャンネルを有するデジタルスタジオ、ザ・ソウル(TheSoul)でパートナーシップ担当バイスプレジデントを務めるビクター・ポトレル氏は、「オーディエンスにとって最適なコンテンツを選択するコンテンツ検出機能については心配していない」と語り、次のように述べた。「我々のブランドは、プラットフォームを利用するオーディエンスの共感をすでに得ている。だから新たな選択肢の追加は、オーディエンスと交流する新たな場として大いに歓迎だ」。
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)