パブリッシャーたちによるコマースオペレーションは、成長を見せつつも、まだ初期段階にある。しかも、プラットフォームの新しい戦略やルールの影響を受けている。今回の仕掛け人はGoogleだ。同社の検索・ショッピング部門は、パブリッシャーのコマースコンテンツを、Googleのプロダクトテストに直接組み込みはじめている。
パブリッシャーたちによるコマースオペレーションは、成長を見せつつも、まだ初期段階にある。しかも、プラットフォームの新しい戦略やルールの影響を受けている。今回の仕掛け人はGoogleだ。パブリッシャーによるコマースオペレーションはアフィリエイトが中心となっており、Google経由のトラフィックに依存する傾向にある。自分たちのサイトで紹介するプロダクトのリンクをユーザーがクリックすれば、Amazonやその他のリテーラーのページへと飛ばされる、といった具合だ。
そんななか、Googleの検索・ショッピング部門はこういったパブリッシャーのコマースコンテンツを素材として活用し、Googleのプロダクトテストに直接組み込みはじめている。現時点ではまだ、パブリッシャーたちの収益に影響を与えるようなレベルではないが、このテストの結果、パブリッシャーのコマースページの収益が減ってしまうのではないか、という不安が広がっているようだ。
パブリッシャーたちの不安
今春Googleは、複数のパブリッシャーが記事のなかで紹介している「おすすめプロダクト」のリストを、抽出して一括してカルーセル形式で表示するというテストを開始した。このリストにはプロダクト画像に加えて、パブリッシャーが作成したページのヘッドラインが含まれる。クリックするとパブリッシャーのサイトへと飛ばされる、という仕組みになっている。モバイルのブラウザでは、カルーセルには記事の一部が引用表示されるが、スペース上の制約から1文全てが表示されることは少ない。
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たとえば、ユーザーが「一番良いドライヤー」と検索するとする。そうするとGoogleアンサーボックス、パブリッシャーの記事、Googleショッピングリンクが表示される。それに加えて、パブリッシャーたちが記事のなかでおすすめとして紹介したプロダクトの画像がカルーセル形式で生成されるのだ。そしてどのプロダクトをどのパブリッシャーが推薦したのかもテキストで表示される。このプロダクトのリンクをクリックすると、そのプロダクトに関するGoogle検索結果に飛ばされるが、そこではパブリッシャーのコンテンツは見つからない。Googleとしては、検索結果をもう一度表示することで広告収入につなげることができる、という具合だ。
プロダクト・リストのデスクトップ・スクリーンショット画像。商品をオススメするパブリッシャーの記事へのリンクが貼られている。
このテスト計画はローンチにあたり、パブリッシャーたちに事前に何の通知も行われなかった。その結果、パブリッシャーたちに不安が広がった。このカルーセル形式のプロダクトは不適切なコンテンツ利用である、もしくは非効率であると考えるパブリッシャーたちが存在する。本稿の取材に応じてくれた情報源のひとりは、パブリッシャーのサイトのトラフィックやコマース収益に目立った影響がなかったため気付かなかった、と語った。
「人のコンテンツを盗んでいる。これによって、我々は多様化せざるを得ない状況になっている」と、コマースパブリッシャーで勤務するエディターのひとりは語った。
常にテスト・実験している
ディスプレイ広告からビジネスを多様化しようと考えるパブリッシャーたちにとって、コマースオペレーションは希望の光となってきた。たった数年のあいだで、BuzzFeedは24人ほどのライターからなるコマース部門を築き、GoogleだけでなくFacebookにも最適化されたギフト関連のガイドコンテンツを生み出してきた。より小規模なパブリッシャーたちも、今後の成長の鍵を握る分野だと捉えている。ベンチャーからの支援を受けるパブリッシャー、オーバータイム(Overtime)は高校スポーツにフォーカスを据えている。今後5年間でコマースアパレルにおいて1億ドル規模のビジネスを構築することを目標にしている。
コマースコンテンツ業界が成長するにつれて、Googleはこれらのコンテンツをフィーチャーする頻度を増やしてきている。記事から抽出されたサムネイル画像に記事の文章を組み合わせる形式だが、画像と文章のパブリッシャーが一致していないこと、さらには記事で言及されていないプロダクトがリンクされていることもある。この形式にフィーチャーされたことで検索トラフィックが大きく増えた、という証言もあれば、クリック数と収益が減り、全体的に見て負の影響の方が大きいという声もある。
最近では、Googleショッピング部門のスタッフがパブリッシャーたちとミーティングを行い、購入ボタンやその他のプロトタイプ運用について話し合いの場を持っている。Google広報担当者は、ユーザー体験を改善するための新しい方法を常にテスト・実験していると答えた。
Amazonに対する反応
「より大きなスケールでeコマースにGoogleがどうやって参加できるかを探ろうとしている。リテーラーとの良いビジネス関係を構築したいま、そこから拡大する裾野が存在していると思う」と、高度なコマースオペレーションを抱えるパブリッシャーのエグゼクティブのひとりは語った。
Googleにとっては、プロダクト検索が検索のなかでももっとも収益を生みやすい分野になっている。検索エンジンの第2番手はAmazonであるということは、もちろんGoogleもよく認識している。多くの消費者にとってAmazonこそがプロダクト検索を最初に行う場所だ。いま、Googleが加えている変更が悪影響をもたらすと考えるパブリッシャーは多くない。だが、GoogleとAmazon(そして、その他のプラットフォーム)の優位を狙う熾烈な戦いによる、巻き添え被害を負うことを彼らは恐れている。
その一方で、Googleが最終的にはパブリッシャーたちにも分け前を与える形に移行することを期待している人たちもいる。Amazonの招待オンリーのプログラム、オンサイト・アソシエイツ(Onsite Associates)はその例だ。パブリッシャーのコンテンツをAmazon上に載せることを何年か実験的に試したあと、プロダクトに関するガイドやおすすめ情報を直接Amazonのサイト上に配信できるようなプログラムをはじめている。これはいくつかのパブリッシャーにとっては数千万円規模の収益に成長した。
前向きなパブリッシャーも
また、Googleのテスト群をブランド構築のチャンスとして捉えるポジティブ思考なパブリッシャーも存在する。自分たちに対するサポートと捉えているわけだ。しかし、必ずしもすべてのクリエーターやパブリッシャーが同等のサポートとトラフィックや収益を得られるわけではない。YouTube動画やピンタレスト(Pinterest)ボードへのリンクが前述のカルーセル形式のプロダクトに埋め込まれたとしても、個々のクリエーターからではなく、ただYouTubeやピンタレストから来た、としか特定されない。
こういったプロダクトに頻繁に組み込まれれば、消費者がプロダクト購入に際して調べ物をするときに読む記事のひとつに加えられる可能性も高まるだろう。
レビューサイトのレビューズ・ドットコム(Reviews.com)、エディトリアル・ディレクターであるピート・ペイチェル氏は「我々のことをあらゆる物の裁定者のように思って欲しいとは思っているものの、ユーザーは実際はレビューサイトを比較していることを我々は理解している。消費者はできるだけ多くの情報を吸収しようとしている」と語った。
リテーラーも検索戦略を再考
しかし、Googleによるこれらの実験により不安を抱えているパブリッシャーたちもいる。本稿の取材に応じたパブリッシャー関係者のなかでも、上記のカルーセル形式のプロダクトはコンテンツの窃盗行為のようであると、表現した人は複数存在した。潜在的なアフィリエイト収益を奪うだけではなく、ライセンシング収益も奪われると、彼らは述べる。多くのコマースパブリッシャーたちはコンテンツライセンシング業務へと参加している。ブランドによるマーケティングメッセージをパブリッシャーが公認することでブランドから報酬を得るというものだ。
これらのフラストレーションに加えて、Googleのカルーセル形式プロダクトからクリックが獲得できているのかを確認できない、という不満がある。パブリッシャーのなかには、社内のリソースを費やして自社コンテンツがボックスやカルーセルにフィーチャーされたか、されてないかをモニタリングしているところもある。それでも簡単な作業ではない。
Googleによるこういった変更は、ある意味ではAmazonに対する反応と捉えることができる。最近になり、Googleを越えて、Amazonがオンライン購入のプロダクト検索でもっとも多くのアメリカ人が最初に試みるプラットフォームとなった。
これらの変更の結果、リテーラーたちも検索戦略について再考することとなった。Googleの変更によってユーザーはより自社のサイトに留まるようになっているからだ。
「プロダクトのページを頭に浮かべるとする。そのときに、購入の判断を下す際に人々がもっとも参考にする重要な点は何かというと、何らかの公認、オススメ、といったラベルだ」と、SEO企業ランクセンス(RankSense)のCEOであるハムレット・バティスタ氏は言う。「いま、Amazonのプロダクトページに行ったときに、そこに載っている内容を、1年前のGoogleのページと比べてみると何が足りていなかったか、だ」。
悪い動きにはならないはず
さまざまな変更に踊らされつつも、長期的にはGoogleのフォーカスはユーザー問題を解決することにあり、それはサイト側のビジネスにとって悪い動きにはならないだろうと、希望的な観測を持っているようだ。
「隠されるよりは、見えてる状態で形作ってもらうほうが良い。エコシステムは非常に強力で動きも早い。抵抗することに時間を費やしすぎると、あとに取り残されるだろう」と、デジタルネイティブのパブリッシャーでコマースを担当しているエグゼクティブのひとりは語った。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)