ユーザーがWebサイトを訪れてから24時間後以降の第三者によるトラッキングを防ぐため、Appleは2017年9月にSafariブラウザのアップデートを行った。それ以来、プログラマティックを採用するパブリッシャーの広告レートは打撃を受けている。
Appleは、Safariブラウザ経由での広告トラッキングに対して、厳しい取り締まりをはじめている。そして真っ先に痛手を受けているのは、プログラマティック広告に大きく依存しているパブリッシャーだ。
ユーザーがWebサイトを訪れてから24時間後以降の第三者によるトラッキングを防ぐため、Appleは2017年9月にSafariブラウザのアップデートを行った。それ以来、プログラマティックを採用するパブリッシャーの広告レートは打撃を受けている。Appleのこの動きは、ニッチな層のオーディエンスへのリーチにあたって広告主が依存している第三者機関からのデータを必要とするパブリッシャーを困らせている一方、自身でインベントリを直接販売しているようなパブリッシャーはその影響を受けてないという。
「さらに悪化するだろう」
「私たちの収益はすでに影響を受けている。Safariのアップデート率が増えるにつれ、さらに悪化するだろう」と、インプレッションの半数以上をプログラマティックで販売しているパブリッシャーのカフェメディア(CafeMedia)の共同設立者であるポール・バニスター氏は語る。「まだ、はじまって間もなく、そのほかの要因も絡んでいるために、最終的な数字を出すのはまだ難しいが、これはかなりの影響となるだろう」。
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ユーザーごとにパソコンのOSをアップデートする時期も異なり、Appleがこのアップデートを公開したのは四半期の終わりにさしかかったころ、つまり広告レートが比較的高くなる時期だったため、Safariブラウザのトラッキング対策による影響の計測は、月々のCPMを計測するほど単純なことではない。この件に関する取材依頼に対するAppleからの返答はなかった。
バニスター氏によると、第4四半期にさしかかっているいま、SafariブラウザでのCPMは予想よりも10%程度低い状態だという。Webトラフィックの調査機関のネットマーケットシェア(NetMarketShare)によると、カフェメディアのモバイルのトラフィックの1/3はSafariからのものだが、これは業界の平均と同等の割合だ。
ターゲティングに悪影響
デジタルメディア企業ランカー(Ranker)のCEO、クラーク・ベンソン氏は、このAppleの動きによって、広告収入が全体で1%から2%減少する可能性があると予測している。また同氏によると、ランカーの調査で、iOSと(Safariブラウザを採用していない)Androidからの収益は、Androidが8%上回ったという。このことは、オーディエンスのターゲティングに大きく頼っている広告主が、「Safariブラウザからの訪問者を対象からそらしはじめている」ことを示している。
グラナイト・メディア(Granite Media)のCEO、ダニー・カーティブ氏によると、アップデート以降、Safari上でのCPMは15%から20%減少しているという。また、教育関連のパブリッシャーであるスレーダー(Slader)の共同設立者のスコット・コルブ氏によると、Safariからのトラフィックに関連したインプレッションに対する入札数は、2017年9月と比べて15%減少したという。この2つのパブリッシャーは、Safariのアップデート以降はデータ内に不要なものが大量に混入しており、Appleの対策による影響と切り離して考えるのは非常に困難だ、と揃って強調した。
Safariの更新がプログラマティックのパブリッシャーに影響を与えている要因は、自動化そのものではなく、オーディエンスのターゲティングに関係している。
影響を受けないメディア
パブリッシャーのパーチ(Purch)のCTO、ジョン・ポッター氏によると、パーチのWebサイト、ライブ・サイエンス(Live Science)におけるSafariユーザーのCPMは、2017年9月と比べて15%減少しているという。だが、パーチのWebサイトのトップテン・レビュー(Top Ten Reviews)では、SafariユーザーのCPMの減少割合は5%以下だった。
ブラウザのアップデートの影響でCPMが多少下がることは、四半期の決算でも予測の範囲内であった。だが、ライブサイエンスは、オーディエンスのターゲティングを(プログラマティックに)頼っているために減少幅が大きかった。Appleによる第三者機関のトラッカーに対する新たな規制は、オーディエンスのターゲティングに影響を与えているのだ。トップテン・レビューで販売される広告は、オーディエンスではなくコンテンツに合致させるものだが、これこそが、このレビューサイトのCPMがそこまで大きな影響を受けていない理由だ、とポッター氏は語る。
ニューヨーク・マガジン(New York magazine)の代表やレメディー・ヘルス・メディア(Remedy Health Media)、そしてデジタル市場分析を行うコムスコア(comScore)の匿名希望のパブリッシャー2社によると、Safariのアップデートによる影響はまったく見受けられなかったという。これらすべてのパブリッシャーは、インベントリの大多数を直接販売しているため、リターゲティングに依存していない。
「コンテンツに注力すべし」
パブリッシャーがオーディエンスとの直接的な関係を築くことができれば、第三者機関のトラッカーへの依存をなくし、Safariのアップデートの影響を軽減できると、匿名希望のビジネスパブリッシャーのエンジニアは語る。だが、ユーザーから当事者データを取得するにあたり、ユーザーが新製品にサインアップしたりログイン情報を渡すのは長い期間を要し、即座に結果が出るものではないだろう。
「パブリッシャーは、Appleがソフトウェアをどのように変えるかに関わらず、独自性を磨くことに注力すべきだ」と、アドテク企業のメディアネット(Media.net)のCOOのナミット・マーチャント氏は語る。「この複占状態のなかで突出するためには、パブリッシャーはオーディエンスよりもコンテンツに目を向けるべきだと信じている」。