デジタルガレージ、カカクコム、クレディセゾンの3社が運営する研究開発組織「DG Lab」は音声や文字による対話型エージェントを構築していると発表した。ユーザーがチャット形式で地名や食べたい料理の種類、現在の気分などを渡すと、その内容に応じたレストラン情報を提供することを目指すという。
デジタルガレージ、カカクコム、クレディセゾンの3社が運営する研究開発組織「DG Lab」は音声や文字による対話型エージェントを構築していると発表した。ユーザーがチャット形式で地名や食べたい料理の種類、現在の気分などを渡すと、その内容に応じたレストラン情報を提供することを目指すという。
DG Lab CTO (人工知能)、カカクコム執行役員の宮島 壮洋氏はDIGIDAY[日本版]のインタビューに対し、以下のように主張した。
- パーソナルアシスタントがインターフェイスの主流になった時代を見据え、ユーザーとの接点をもてる食に特化したアシスタントを開発している
- タッチポイント自体はGoogle、Amazonのアシスタントが握ったとしても、垂直型のデータソースとして食べログのデータはとても有用。自然言語処理やデータサイエンスの活用により、蓄積したデータから独自の価値をつくりたい
- 自然言語処理を活用することで半ば自動的にお店の特徴を捉えると同時に、ユーザーがアシスタントに伝える情報・ニーズと組み合わせることで、その人が「いまその瞬間」に行きたい飲食店をオススメすることが可能かもしれない
アシスタントとの対話で情報を探す時代
今年のApple、Google、Facebookの開発者会議でアシスタントプラットフォームが紹介された。インターネットの新しいトレンドとしてアシスタントが生まれようとしている。Amazon Echo, Google Homeなどのスマートスピーカーが注目を浴びているが、重要なのはこれらを動かしているAmazon AlexaやGoogle Assistantなどのアシスタント / 音声認識プラットフォームだ。
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食べログはいまモバイルアプリとしてモバイルのスクリーンのなかで存在しており、同時に飲食店をめぐる検索結果の重要な供給者として存在している。モバイルと検索というふたつの要素にいま大きな変化が訪れようとしている。
「それが今後10年なのか、数年なのかはわからないが、ユーザーがいわゆる検索にキーワードを入れて探す世界から、会話で友だちに聞くような感じで『今度ここ行くのだけど、その周辺でおいしい店探してくれる』と聞くと返してくれる世界が主流になってくるのではないかと考えている。Googleの検索でいわゆるプル型みたいなのが、プッシュ型も含めてもっとインタラクティブに会話しながら探していける世界になる」。
「ただそういう世界でも食べログのようなユーザーに紐づいたデータソースは残ると思うので、ユーザーとの接点は検索エンジン、スマホの検索から、インタラクティブなメッセージングツール、会話ツールへと変わってくるが、いわゆる情報の引き出し先は食べログのようなところが残るだろう」。
「我々がそういった情報の接点におけるインタラクティブなエージェントみたいなところのプラットフォームになるかに関しては、熾烈な争いがあり結構大変かもしれない。GoogleやAmazonとうまく食べログが連携する形にするのが今回の戦略のひとつ」。
「たとえばエリアや食べたいジャンルを聞いた上である程度プロフィールの情報からエージェントが『ここら辺が人気ですよ』と提案する。それは従来の検索からインタラクティブ版に置き換わった形。そこが第1フェーズになる」。
食べログレビューを自然言語処理
このアシスタントプロジェクトには自然言語処理を応用するという。ひとつはユーザーがアシスタントに対して話した言葉を音声認識でテキストにし、言葉を塊ごとに切り分け、コンテクストを「理解」することだ。
もうひとつはより細やかなレビューの解析だ。皆がおいしいと言っていることはレビューの点数(星の数)から割り出せる。もしレビュワーが残す多量のコメントに自然言語処理を応用することで、より細かい特徴を抽出できれば、最終的にユーザーの好みに合ったレストランを紹介できる可能性がある。
「食べログのレビューを自然言語処理を用いてオーガナイズする。たとえば、現状はユーザーは『このAというレストランがどんなお店か』を多くのレビューを見たりして判断しなきゃいけない。自動的に解析してお店の特徴を把握することを目指している」。
「最近のトレンドがどうか、この人は過去にどんなところに行って、どんな好みがあって、どの店に合いそうなのを、ちゃんと返してくれるようなことは、データを分析することで出て来る。そこは特徴を抽出するっていう技術も必要ですし、過去の履歴からマッチングする技術も必要です。あとは時系列で、最近こんなところ流行っているなどをちゃんとお勧めできたり、そういうのをうまく組み合わせることで『いまこの瞬間』に、かつこの人こんなところに行きそうだなと推測できたりする可能性はある」。
「投稿されるレビューである程度食のトレンド、たとえば少し前で言えば『熟成肉』や『熟成寿司』が分かる。レビューをキーワードベースで並べていくと『熟成』が前より頻繁に出て来ている。Googlトレンドに似ている」。
食に特化したユニークなレビューデータ
「僕らは特に食に特化しているので、『こういうジャンルに関しては、こういう料理名がくっついてくる』『こういうジャンルだったらこのキーワードが出やすい』などのデータはどこよりも持っている。食べログのレビューデータは研究者の間でも非常に面白いデータ。我々はいまここにフォーカスしている。この部分で他社に少し先んじているはずだ」
IoTトレンド次第ではインターフェイスの多様化が進み、モバイルアプリやモバイルウェブが現在築いている優位性が弱まる。これらはやがていくつもあるタッチポイントのひとつになる。ともすれば、ユーザーの目線に入らなくなるかもしれない。「モバイルアプリの死」だ。
DG Lab CTO (人工知能)、カカクコム執行役員の宮島 壮洋氏
カカクコムグループにはほかにもカテゴリ別に国内最大級の「価格.com」「映画.com」「フォートラベル」がある。「もちろん家電の比較みたいなところでいえば、『今度カメラ買いたいけど、どんなカメラがいい?』という問には、もちろん価格.comの口コミをいちいち読まないで、エージェントがお勧めしてくれるということも検討している。タッチポイントは、AmazonやGoogleだったりするかもしれないが、裏のデータリソースというか、コンテンツプロバイダーとしては、カカクコムグループを使うのがひとつ描ける未来かと思う」。この場合、食べログはデータソースとして有用となり、ユーザーインターフェイスからある程度隠蔽された形になるかもしれない。
「オープンな仕組みにしたい。DGラボ単体でやるのも限界がある。さまざまな企業と連携し世の中へのタッチポイントを増やしてよりユーザーに使ってもらいたい。もちろん我々独自に技術を蓄積するというもう1個の方向性もある。バーティカルにデータをきちっと作って、ユーザーにとって快適なインタラクティブエージェントを目指したい」。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photo by GettyImage