かつてFacebookの従業員だった人間たちは、こうした事態を予見していたのかもしれない。米国大統領選挙の期間中、Facebookには偽ニュースがあふれて制御できなくなるほどだった。しかし、一時期社内の人間だった26歳のシュレイダー氏にとって、それは衝撃でもなんでもなかったという。
かつてFacebookの従業員だった人間たちは、こうした事態を予見していたのかもしれない。
米国大統領選挙の期間中、Facebookには偽ニュースがあふれて制御できなくなるほどだった。しかし、一時期社内の人間だった26歳のシュレイダー氏にとって、それは衝撃でもなんでもなかったという。現在は廃止されているトレンドニュースチームの一員として、Facebook上で勢いを増している記事を監視し、それが正確なのか(あるいは少なくとも事実なのか)を調査し、Facebookが公開するトレンドニュースのフィード用に見出しを書いていた(※Facebookの「トレンド(Trending)」セクションは、Twitterの「トレンド」と似た、話題のニュースをアグリゲートする箇所。一部の国において、英語のみで利用可能となっている。日本では利用できない)。
ところが8月、おかしなことが起きた。Facebookがトレンドニュースのキュレーターを解雇し、人間をアルゴリズムに置き換えたのだ。ほどなく、Facebookには偽ニュースがあふれだし、それらを多くのユーザーが信頼できるものとして扱い、タイムラインでシェアした。あの分極化した2016年大統領選は、偽ニュースという猛獣の格好の餌になったのだ。
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「Facebookは偽ニュース問題を抱えているが、そのことを認識していないのだと思う」と、シュレイダー氏は語る。「事実を認めていないように思えるが、問題は蔓延しており、Facebookは対処する必要がある」。
大統領選をめぐる状況がまだ落ち着かず、誤った情報に腹を立てている投票者がたくさんいることを受け、Facebookは虚偽のニュースを報じたパブリッシャーをディスプレイ広告のネットワークから遮断した。しかし、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は同時に、Facebookは「自らが真実の仲裁者になることについて極めて慎重」でなければならないと語り、Facebookが偽ニュース記事の排除により積極的な役割を果たすことに難色を示した。
業界人に匿名で本音を語ってもらう米DIGIDAYの「告白」シリーズ。その最新記事のため、2016年8月まで4カ月間Facebookで働いたシュレイダー氏と、やはりトレンドニュースチームで2015年に働いていた、もうひとりの元スタッフ(匿名希望)に話を聞いた。
「きわめて残念」
この1年間、メーガン・ケリー氏の「FOXニュース(Fox News)」解雇や、法王のドナルド・トランプ氏支持など、虚偽の記事がFacebook上を駆けめぐり、ユーザーの多くが事実だと思い込んだ。
シュレイダー氏は、評判の悪い媒体からの偽記事がトレンドセクションに何度も掲載された事実は「懸念すべきことだ」と語る。
「なんら検証されていない大量の偽ニュースが今年、Facebook上でプッシュされ広まったのは、信じがたいことだ」と、匿名の元スタッフは語る。「きわめて残念だ。ウソの培養皿のような場所になってしまったのだから」。
ふたりが覚えているのは、スタッフが記事をレビューして、見出しと要約を書くためのトレンドツールに、日常的に偽記事が表示されていたことだ。ファクトチェックを行い、偽記事を除外するのは彼らの仕事だった。たとえば、ワシが子供をつかんで飛び立とうとする動画が話題になったが、これはのちに作り物だったことが判明した。
「こうしたことは毎日のように起きた」と、シュレイダー氏は振り返る。
「ジャーナリストは有効な防御策」
ふたりによると、Facebookが党派的に見られないよう用心深くなるのは理解できるとしながらも、その規模と影響からこの問題を深刻に受け止める必要があるという。
「シリコンバレーには『フリーマーケット』という心的傾向があり、ユーザーを過剰に保護することを好まない」と、匿名の元スタッフは語る。「しかし、いまや18億人のユーザーがいて、大勢がニュースを得るためにFacebookを利用している。そうした偽コンテンツがあふれていると、人々の考え方にきわめて悪い影響をおよぼす恐れがある」。
ふたりは、かつてFacebookのトレンドニュースチームを構成していたジャーナリストたちが非常に重要な役割を担っており、これが解散させられてから問題が悪化したと感じている。
「トレンドニュースチームは間違いなく、偽ニュースのトレンド入りを防ぐ防御壁だった。というのも、我々はアルゴリズムにはできない方法でファクトチェックを行い、何が事実で何が虚偽なのかを把握してニュースをジャッジできた」とシュレイダー氏。
「思うに、ジャーナリストは偽ニュースに対する有効な防御策だった」と、匿名の元スタッフ。「テクノロジーの観点からは、要約とファクトチェックに時間がかかるので非効率だと判断されたのだろうが、少なくとも、記事をモニターして不正確なものを却下していた」。
「現実から目を背けるメディア企業」
ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)とジョン・S・アンド・ ジェイムズ・L・ナイト財団(John S. and James L. Knight Foundation)が実施した調査によると、2016年米国の成人44%がFacebookでニュースを入手すると回答したという。この数字は、Twitterの9%や、ソーシャルブックマークであるReddit(レディット)の2%といった、ニュースに注力する、ほかのソーシャルメディアより大きいし、従来型の報道機関をも上回る。
「Facebookはメデイア企業そのものでありながら、そうした事実からずっと目を背けてきた」と、シュレイダー氏は指摘する。「メデイア企業を自認しないからといって、メディア企業としての責任を逃れられるわけではないのに」。
さらに、Facebookにはジャーナリストのニーズに応える製品がたくさんある。ライブ動画はその一例だ。「これはニュースツールだ。Facebookはジャーナリストがコンテンツを制作する対価を支払っている」と、シュレイダー氏。「これこそ、ニュースパブリッシャーだ」。
「トレンドのセクションが存在し、パブリッシャーが投稿を掲載できるようにしている点で、まさにニュース企業の領域に入っている」と、匿名の元スタッフは語る。「仮にそれがなければ、たしかに、ユーザーが間違った情報をシェアするのを検閲することはできない。しかし、トレンドと銘打ってコンテンツを取り上げることをはじめた時点で、何らかの責任を担う必要がある」。
シュレイダー氏が考えるFacebookの正しい対応は、何よりもまず偽ニュース問題の存在を認めることだ。そうすれば、ニュースパブリッシャーと協力して対処法を探せるようになる。掲載前にニュースをレビューするツールのようなものを用意するかもしれないし、事実関係が間違っている記事を消費者が報告できるようにするかもしれない。
「大手の媒体からシニア編集者を引き抜いてニュース編集室を作る必要がある。そして、ニュースフィード、トレンドニュース、イベント、編集機能がある各プロダクトなど、さまざまなプロダクトを監督させなければならない」と、シュレイダー氏は語った。
Tanya Dua (原文 / 訳:ガリレオ)