アンルーリー 売却、低すぎる評価に「アドテク市場」が動揺

ニューズ・コープ(News Corp)は1月6日、動画アドテク企業のアンルーリー(Unruly)をトレマー(Tremor)に売却した。

2015年の買収時から比べれば、はるかに小さな金額となる1500万ポンド(約21億円)での売却で、ニューズ・コープはトレマーの株式の7%を取得する。またトレマーは契約上、今後3年間にわたりニューズ・コープに3000万ポンド(約43億円)の収益を保証し、ニューズ・コープのタイトルにおけるアウトストリーム動画広告の独占販売権を有することとなるようだ(アウトストリーム広告は記事内に表示されるが、パブリッシャーの動画プレイヤー内では再生されない)。

ニューズ・コープはわずか4年前に5800万ドル(約83億円)でアンルーリーをキャッシュで買収しており、今回の額はそれを大きく下回る。ニューズ・コープはまた、業績に応じたアーンアウトを追加で5600万ポンド(約80億円)設定しているとされる。だが具体的な支払い額がいくらになるかは不透明だ。

赤字続きのアンルーリーは、ニューズ・コープに完全に統合されることはついになく、引き続きほかのパブリッシャーを相手に動画広告の売り手と買い手をつなぐマーケットプレイスを提供していた。主要なライバルのTeads(ティーズ)もまた、2017年にオランダの通信会社アルティス(Altice)に買収されている。一方、ニュースUK(News UK)のデジタル広告部門はニュースIQ(News IQ:ニュースUKのデータプラットフォーム)のオーディエンスデータ事業や、パブリッシャー複数社が共同販売を行うオゾンプロジェクト(Ozone Project)への参加を行っている。

アンルーリーのこれから

アンルーリーは6月30日までの12カ月間で、4350万ポンド(約62億円)の収益を上げた。そこから利息、税、減価償却費880万ポンド(約13億円)が発生している。トレマーは1月6日の発表のなかで、2021年までにアンルーリーの「EBITDAを好転させる」としており、人員整理が行われる可能性が高い。アンルーリーには現在およそ350名の社員がいる。

同社のCEOノーム・ジョンストン氏は、ニュースUKのCEOレベッカ・ブルックス氏とともにトレマーの役員に就任する。同氏はアンルーリーとトレマーのあいだには「シナジー」が起き、成長のチャンスがあるとしている。

同氏は「この業界は非常に競争が激しく、統合が進んでいる。そんななかで、今回(の売却)によって当社はこれからもオーガニックに成長を続けられ、大躍進につながりうる」と語る。「より多彩な広告形式を提供できるようになり、規模とデータを拡大させられる。今回の取引がなければ、これらを実現するのにより時間がかかったはずだ」。

買収したトレマーの狙い

トレマーはイスラエルに本社を構えており、ロンドン証券取引所に上場している。同社の歴史は独特だ。2007年、同社はマリメディア(Marimedia)として創業された。その後、2014年にタプティカ(Taptica)という社名の企業を買収し、この名前で知られるようになる。2019年にタプティカはアドテク企業のリズムワン(RhythmOne、前身はブリンクス[Blinkx])と合併し、同年のうちに社名をトレマー・インターナショナル(Tremor International)へと再度改めている。2017年に買収したトレマー・ビデオ(Tremor Video)のDSP部門を由来とする名称だ。

トレマーの株式は現在、ロンドン株式市場の平均PERを遥かに下回る株価で取引されている。トレマーの株式は、1月6日に177.50ペニー(約254円)の値をつけた。同社のCEO、オファー・ドリューカー氏はトレマーが米国の基準で見ても、業績と比べて「非常に安値で取引されている」と語る。だがアンルーリーの買収およびニューズ・コープとの結びつきによって、同社の戦略が市場によりはっきりと伝わるのではないかとしている。

「当社はただ資産として買収したのではなく、パートナーを獲得したのだ」とドリューカー氏は語る。

悲喜こもごものアドテク業界

いまアドテク業界は、新たなデータ規制、広告主による透明性の要求、GoogleとFacebookによる支配など、さまざまな課題に悩まされている。なかには株式上場したトレードデスク(The Trade Desk)のように突出した企業もあるが、ここ数カ月で規模を縮小したり、破産申告したり、消え去ったりした企業は枚挙にいとまがない。ベンチャー投資家からの投資も大幅に冷え込んでおり、ここ数年、アドテク企業のIPOは登場していない。

メディアアナリストのアレックス・デグルート氏は、今回のアンルーリーとトレマーの件についても「アドテク業界に対する評価の高さを示すものではない」と語る。「現在のアドテク業界では、勝者から敗者まで置かれている状況はさまざまだ」。

ニューズ・コープは、今回の売却について事業をシンプル化するための戦略の一貫としている。昨年、同社はニューズ・アメリカ・マーケティング(News America Marketing)についても戦略上の選択肢を見直しているとしている。

顧問会社リザルトインターナショナル(Results International)のディレクターを務めるポール・ジョルジュピコ氏は「今回の売却はニューズ・コープにとって打撃とも考えられるが、アーンアウト条項があることで、ニューズ・コープは少なくとも短期的にはアンルーリーの事業統合が成功していた場合に得られたであろうリターンの一部を受け取れる」と語り、次のように締めくくった。「同社は今回、この条件を設定できたという意味で良い契約を結べたといえるだろう」。

Lara O’Reilly(原文 / 訳:SI Japan)