これまではブランディングや若年層へのリーチの場として見られてきたTikTokだが、より多くの予算を確実に得るために、そのあり方を変えようとしている。フルファネルアプローチと、より明確なROIを求めるマーケターにアピールするために準備を進め、、大手広告主はもちろんパフォーマンス広告主の関心も集めているのだ。
TikTokはソーシャルネットワークではない――少なくとも従来の意味においては。人々は友人の投稿を見るためにアプリを開くことはない。クリエイターの作品を見るためにアプリを開くのだ。それなのに広告主たちは、TikTokをソーシャルネットワークと呼び続けている。
こうしたラベル付けは、結果として絶対的なメッセージを伝えるものになる。一度決めたら、そこから離れるのは難しい。そのせいでほかの分野での成長を妨げることにもなりかねない。
とはいえ、「ソーシャルネットワーク」というラベル付けがTikTokの広告ビジネスの阻害要因にはなっていないのは明白だ。むしろ、ソーシャルメディア広告予算における独自のシェア獲得に役立っているのではないだろうか。
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TikTokに流れ込むメディア予算
TikTokへの支出は急速に増え続けている。広告エージェンシーであるメカニズム(Mekanism)の場合、現在のソーシャルメディア向け広告費の10~20%をTikTokに投じている。TikTokを多用していないマーケターでさえ、いずれはTikTokでの広告予算をもっと増やすつもりでいるという。たとえば、ティヌイティ(Tinuiti)のソーシャル広告予算におけるTikTokのシェアはまだ一桁台だが、2022年3月までの1年間で同アプリへの支出は160%も増加している。
インフルエンサーマーケティングエージェンシーのファンバイツ(FanBytes)でコミュニケーション部門のディレクターを務めるジョー・ソウ氏は、「我々は通常、TikTok専門チームではなく、ソーシャルチームと共に仕事をすることが多く、彼らは独自の予算を持っている。そして、その予算は(TikTokに投じるために)確実に上昇傾向にある」と話す。
こうした状況に気を良くしているTikTokだが、より多くの収益を上げることもできるはずだ。パンデミック発生時のように、ほかの予算枠に完全に食い込むこともあり得る。当時、屋外広告や体験型広告のために用意されたメディア予算は、オンラインプラットフォームに移された。そしてそれ以来、ほとんどの予算はまだそこに留まったままだ。
TikTokの場合、そうした資金の多くは、テイクオーバー、ハッシュタグチャレンジ、ブランドエフェクトに使われた(そしていまも使われている)。つまりブランド広告主からもたらされたものだ。
TikTokがなぜ、これほどまでに広告主から予算を獲得できているのか、理解するのはたやすいことだ。TikTokがマーケターと共有しているデータによると、TikTokはFacebookの9倍のエンゲージメントを生み出している。さらに、TikTokの広告主は、Facebookやインスタグラム(Instagram)に比べて平均21倍のリーチを獲得している。また、フォロワー1人あたりのエンゲージメント率は、Facebookが0.09%、インスタグラムが1.6%であるのに対し、TikTokは平均8%となっている。
パフォーマンスにも貢献
TikTokのマーケティングには、フォローされなくても口コミで広がること以上の効果がある。eコマース、検索、そしてアプリのインストールだ。つまり、これはパフォーマンス広告だ。しかし、広告主にそれを理解させるのは、また別の話だ。広告主にとっては、TikTokがソーシャルネットワークなのか、それともまったく別のものなのか、要するによくわからない難問なのだ。
ある日用消費財メーカーのシニアマーケターは、プラットフォームとの関係性への悪影響を考慮して、匿名を条件に米DIGIDAYの取材に応えてこう話した。「TikTokの幹部は、ソーシャルネットワークと呼ばれることを嫌っている。次の成長段階へ進むなかで、彼らがそこから離れようとしていることを示しているのは明らかだ」
次の成長段階では、マーケティングファネルのさらに下部を目指すことになるだろう。2019年にTikTokがコマースとひとつにつながって以来、ずっとその計画が進んでいる。TikTokの幹部たちは当時、広告主にとって安上がりなリーチをもたらす新たな手段になってしまうことを警戒していた。
彼らはコマースが、TikTokがブランディングだけでなく、パフォーマンスにも貢献できることをマーケターに示す方法になると考えていた。しかし、この考えがマーケターの心に浸透し始めたのはここ半年ほどのことだ。それは、TikTokがその考えを彼らに叩き込んだからに他ならない。
「いまでは多くの広告主がいて、TikTokは主要なターゲットとなっている」と、メカニズムの最高ソーシャル責任者、ブレンダン・ガハン氏は述べる。
リーチが広告主の収益にどう貢献するのか
さらに、TikTokの幹部がマーケターに対して、このプラットフォームの若年層へのリーチを宣伝することに集中していた時代は過ぎ去ったという。現在では、そのリーチが企業の収益にどのような効果をもたらすかを示すことに焦点が置かれている。TikTokの詳細なトラッキングと最適化されたオーディエンスマッチングは、クリエイターを見ながら商品を購入するためのさまざまな方法と同様に、ブランドマーケターとの交渉においてみられる通常の機能だ。
ソーシャルテクノロジーエージェンシー、ゴースプーキー(Gospooky)の創設者、ティム・バン・ダー・ウィール氏は、「TikTokが自社の有する技術に行っているアップデートについて、より多くの情報が共有されている」と語る。「マーケティングへのフルファネルアプローチと、より明確なROIを求めるマーケターにアピールするために、より一層準備がなされているようだ」。
そうなればなるほど、TikTokへの支出は安定する。TikTok向けの支出が上昇傾向にあることは事実でも、TikTokはFacebookやインスタグラムほどブランディングやパフォーマンスのチャネルとして見られているわけではない。つまり、年間または四半期の予算を作成する際に、広告主は、Facebookと検索を比較するが、TikTokはほかのソーシャルネットワークと比較される。TikTokでのターゲティングや測定がFacebookほど明確でない以上、このギャップを埋めるのは容易ではない。
それでも、それは起こり始めている。より多くのパフォーマンス広告主がこのプラットフォームを試しているだけでなく、大手広告主はより多く支出するようになっている。
パフォーマンス広告主も興味を持ちつつある
ロレアル(L’Oreal)を例に挙げよう。ロレアルは2021年、TikTokでコマースをテストした。そして現在では、ユーザーがアプリをスクロールしながらクリエイターが推薦する商品セレクションボックスを購入できるようになっている。
ほかの多くの広告主についても同様で、ホリスター(Hollister)からデュオリンゴ(Duolingo)まで、TikTokでの広告掲載の実験を終え、次の段階へと進んでいる。実際、独立系エージェンシーでTikTokマーケティングパートナーのティヌイティのように、TikTokへの広告費が、メタ(Meta)所有以外でのチャネルのトップを占める例も増えてきている。
「今年は、マーケターが我々に、『ここにソーシャル向けの予算が入ったバケツがある。Facebookとインスタグラムをひとつの枠組みとして、この予算をどう分けるのか』と言い、そしてTikTokは別のものとして予算の割り振りを聞かれている」とティヌイティのペイドソーシャル担当バイスプレジデント、アビ・ベン=ツビ氏はいう。「我々はいま初めて、TikTokがソーシャルバケツから脱却するところを見始めている」。
そうしたマーケターたちは、TikTokへの広告出稿に盲目的に傾倒している。彼らはそこで広告が何をしているか、それがどのように上手く機能しているか、その全体像は得られないことは知っているが、特にターゲティングや測定が改善されるにつれて、そうした広告が最終的にビジネスにつながると信じるに足る情報を得てきた。
一切の妥協を許さないパフォーマンス広告主の一部は、当然ながらTikTokの曖昧さに苛立ちを感じているが、彼らでさえも(少なくとも部分的には)より日和見的な理由によるとはいえ、より多くの予算をTikTokに使うようになってきている。
単なるファネル下部の手段として捉えない
考えてみてほしい。パフォーマンスキャンペーンの成功とは、マーケターがトラフィックに対して支払う金額と、トラフィックが目的のサイトに到達したときの価値のバランスを取ることだ。最終的には、何よりも市場に影響される。TikTokにはパフォーマンス広告主があまりいないため、クリック単価が低く、パフォーマンスは良くも悪くもほかのチャネルより高くなる。まれにではあるが、この考え方が、長期的にうまくいくことがある。
「我々は、Facebookやインスタグラムで実施しているように、単にファネル下部での成果を上げるための手段のひとつとしてTikTokを捉えないよう、広告主を説得している」とベン=ツビ氏は語る。「ここは、非常に熱心なオーディエンスから前例のないリーチを得ることができ、そこから大量のエンゲージメントを生成することができるチャネルであり、それ自体が誰もが切望するユーザー属性においてマーケターのブランドを前進させ、長期的にはダイレクトレスポンスの取り組みをより効果的なものにするだろう」
Seb Joseph(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)