昨年、新型コロナウイルス感染症のパンデミック勃発にともない、多くのギャラリーや美術館が閉鎖を余儀なくされた。にもかかわらず、美術品の売上は急増し、これまでの記録を塗り替えるようなケースも出ている。美術品売買のマーケットプレイスを運営する、アーツィ(Artsy)の盛況は良い例だ。
昨年、新型コロナウイルス感染症のパンデミック勃発にともない、多くのギャラリーや美術館が閉鎖を余儀なくされた。にもかかわらず、美術品の売上は急増し、これまでの記録を塗り替えるようなケースも出ている。
美術品売買の仲介プラットフォームを運営する、アーツィ(Artsy)の盛況は良い例だ。2009年に創業した同社は、バンクシーやキース・ヘリングの作品を手がける一方、新進アーティストによる入札開始価格が数百ドル(数万円)程度の作品も扱っている。また現在は、独立系や老舗のギャラリーと連携することで、彼らが自社の在庫を自分たちで表示または管理して、消費者と直接取引を行えるようになっている。そんな同社のオンライン販売の流通取引総額(GMV)は、新型コロナウイルス感染症が米国本土に上陸して以降、300%伸長。同様に、アーツィが進行役を務めるオークションの件数も、2021年1月は前年比で300%増加した。
このトレンドは、コロナ禍を背景とした家庭用インテリア製品が活況にあることの延長線上にある。住環境への投資に積極的な消費者が増えているのだ。パンデミックが発生した当初、新興のブルックリネン(Brooklinen)やウィリアムズ-ソノマ(Williams-Sonoma)をはじめ、このカテゴリーの商品を扱う老舗小売企業が、軒並み売上を大きく伸ばした。活況の中心を占めるのは家具や装飾品だが、美術品のようなニッチなカテゴリーにも、eコマースの好調ぶりが現れている。
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作品展示のオンライン化
アーツィの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるエバレット・テイラー氏が、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Reatil)に語ったところによると、物理的な会場で行われるオークションやフェアの大半が、いまも一時中断の状態が続くなか、オンラインでの美術品販売が、この1年でようやく軌道に乗りはじめたという。
同社がギャラリーオーナーを対象に行った最近の調査を見るかぎり、作品展示のオンライン化によって、バイヤーの裾野が広がり、若いコレクターも増えている。実際、2020年には、同社のプラットフォームを利用する18歳から35歳のバイヤーは倍増した。しかも、アーツィと提携するギャラリーのうち、ネットオンリーの販売手法を採用するものがかつてないほど増えており、先の調査でも、回答者の35%が物理的な拠点を持たずに営業していると報告している。
また、アーツィのアプリのダウンロード数は100万件を超えたばかりだが、モバイルによる取引が増えていることも興味深い。
室内装飾品のニーズ増加
アーツィだけではない。オークションハウスのサザビーズ(Sotheby’s)、クリスティーズ(Christie’s)、フィリップ(Phillip)も、年間の売上高としては下落傾向にあるものの、いずれもネットオークション機能の導入には積極的だ。サザビーズのオンライン売上の総額は、2020年の最初の7カ月間で2億8500万ドル(約299億円)に達し、その結果、売上全体に占めるオンラインの比率は2桁台にまで伸びた。同社はオンライン販売への移行がはやかったため、競合他社より良い業績を上げている。一方、クリスティーズの昨年下半期のオンライン売上高は、8100万ドル(約85億円)だった。さらに、アプロキシメトリーブルー(Approximately Blue)など、独立系のオンライン美術商も、美術品収集の若者層への広がりから恩恵を受けている。
アーツィのテイラー氏によると、室内装飾を目的とした美術品の購入が全般的に増えており、これが若いアートコレクターの増加に貢献しているという。美術品をオンラインで購入する際、その最大のハードルとなるのが作品の真贋だと同氏は話す。アーツィでは、「顧客が購入を決める前に、出品者にいくらでも質問できるようなツールの構築に注力している」という。そこには、ZoomやFaceTimeを活用したコンサルティング機能なども含まれている。また、テイラー氏によると、価格設定の透明性も、若いコレクターを惹きつける一因となっているようだ。また、アーツィのプラットフォームでは、各作品の市場価値を段階評価で示す「見積もり」機能を提供されている。「我々は、美術品売買の世界ではほとんど前例のないような、返品規定も設けている」。
また、コロナ禍を契機に、アーツィは「いますぐ購入」や、「いますぐ入札」ボタンを設置するかを選択できるようにするなど、出品者向けのeコマース機能を追加してきた。マーケティングの側面では、昨年8月に「鑑賞室」を作り、出品するギャラリーが自社のコレクションやプログラムに関するコンテンツを提供できるようにした。
業界における大きな変化
美術品のオンライン販売の台頭は、業界における大きな変化といえる。歴史的に、個人収集家による取引は、ディーラーやアドバイザーを雇って代行させるのが一般的だ。一方、デジタルマーケットプレイスでは、買い手は入札前に作品を鑑賞したり、下調べしたり、あるいは売り手と直接話をすることができる。
コンサルティング会社のコンドラットリテール(Kondrat Retail)を創業した、レベッカ・コンドラット氏によると、富裕層向けの娯楽や投資機会を、広く一般に開放するような新しいプラットフォームの活用が、若い世代に普及しはじめているという。同氏は、美術品のオンラインマーケットプレイスの台頭も、このようなトレンドの一環であると見ている。「一般的な消費者にとって、アートギャラリーは少々敷居が高い。美術品売買の大衆化は、市場拡大に貢献している」。
この新しい顧客層に関するかぎり、美術品の収集は、ロビンフッド(Robinhood)やラリー(Rally)など、株式投資アプリの急成長とも密接に関連すると、コンドラット氏は指摘する。これらのアプリでは、美術品を含むさまざまな収集品への投資も可能だ。「このようなアプリのおかげで、若い人々も、ちょっとした贅沢品に容易に手が届くようになった」。
[原文:Online art-selling platforms like Artsy are seeing record sales]
GABRIELA BARKHO(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)