記事のポイント Twitterはかつてスーパーボウルキャンペーンにおいて重要な役割を果たしていたが、買収後は脇役として扱われるようになり、広告業界での存在感を失いつつある。 リンダ・ヤッカリーノ氏がCEOに就任したことで […]
- Twitterはかつてスーパーボウルキャンペーンにおいて重要な役割を果たしていたが、買収後は脇役として扱われるようになり、広告業界での存在感を失いつつある。
- リンダ・ヤッカリーノ氏がCEOに就任したことで業界内には期待感が高まったが、広告主のTwitterへの支出は以前に比べてほんの一部にとどまっており、「ヤッカリーノ・バウンス」と呼ばれる急激な回復は見られなかった。
- イーロン・マスクの公然とした批判や罵倒により、広告主は最低限の支出に留める傾向。NYTの報告によると2023年4月から5月にかけての広告収益は前年比で59%減少している。
かつては多くのスーパーボウル・キャンペーンの中核をなすソーシャルプラットフォームのひとつだったTwitterだが、今では脇役のような存在になっている。そしてその状態は、2023年5月にNBCユニバーサル(NBCU)出身のリンダ・ヤッカリーノ氏がTwitterのCEOに着任するまで続いた。
すると、マーケターたちは希望を抱き始めた。当時DIGIDAYが報じたように、ようやく「われわれを理解してくれる人が現れた」と考えたのだ。
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メディアエージェンシー大手のグループエム(Group M)は、Twitterのリーダー交代について非常に楽観的で、自社の広告主たちにTwitterへの支出はもはや大きなリスクではないと勧め始めた。だがこれほど派手に宣伝したにも関わらず、実際にTwitterへの支出に大きな増加がみられることはなかった。多くの人が期待していたような「ヤッカリーノ・バウンス」で急回復する動きは実現しなかった。
実際、この1年間に多くのTwitterの広告主と交渉をしてきたある広告企業幹部によれば、広告主は確かにTwitterに戻ってきてはいるものの、買収以前と比べればほんの一部の金額しか費やしていないことが確認できたという。さらに、広告主の多くはマスク氏からネット上で公然と名指しされたり罵られたりするのを嫌って、最低限の支出しかしていない。
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数字が語るもの
そして、数字はうそをつかない。
ニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)が報じた2023年6月の内部プレゼンテーション資料によると、4月1日から5月第1週までのTwitterの米国での広告収益は8800万ドル(約132億円)で、前年比59%減であった。
同文書によると、毎週の売上予測を継続的に下回っており、ときには30%も下回ることがあったという。そしてこの報告は、ガイドライン(Guideline)が最近実施した追跡調査における広告収益の数字とも一致している。それによると、5月にヤッカリーノ氏への交代があったにもかかわらず、Twitterの広告収益は平均で前年比55%の減少を記録しており、5月から8月に限れば前年比61%減と、減少幅はさらに拡大していたという。
要するに、広告をマスク氏による買収以前のレベルに戻すというのは、とてつもなく高いハードルなのだ。仮にどうにか到達できたとしても、十分とはいえないかもしれない。
実はマーケターたちは、マスク氏の登場以前からTwitterへの大規模投資に熱心だったわけではない。このプラットフォームの現状を考えれば、大きな投資を呼びかけたところで、今の広告業界ではそれがもっとも困難な課題のひとつであることは否めない。
マスク氏には物議をかもす発言を繰り返す癖があるため、この難題はヤッカリーノ氏にとってさらに複雑なものになっている。マーケターがヤッカリーノ氏の言葉を信用しづらくなっているのだ。それに加えて、CNBCやフィナンシャル・タイムズ紙(The Financial Times)、そしてコード・カンファレンス(Code Conference)での最近のインタビューからもわかるように、高名なメディア界の大物であったはずのヤッカリーノ氏が、まるでマスク氏の行動を説明するただの使いのようにみえてしまうのだ。
「ヤッカリーノ氏はNBCUではTwitterの大広告主だった」とパスカリス氏はいう。「彼女はTwitterとそれが持つ巨大な力について熟知していた。つまり、経験面での実践的知識がある。今は経営の面で学んでいるところだ。だが、彼女ほど優秀で、広告業界でお金を生み出すことに長けている人物はいないものの、多額の広告費を回復させる上でマスク氏が妨げになっている今の状況を、はたして彼女が克服できるかどうかはわからない」。
ますます距離を置かれているX
だがTwitter(あるいはXというべきか)は、いまやマスク氏の所有である。広告業界とは深いかかわりを持ちながらも、ますます距離を置くプラットフォームとなっている。
この12カ月でそれがもっとも明確に表れたのは、6月のカンヌライオンズだった。カンヌのJWマリオットホテルの1階にある豪華なバイスプレジデンシャル・スイート140は、68平方メートルのテラスと50平方メートルのラウンジを備え、80人を収容することができるが、そこには例年のような多人数の代表団の姿も、ビーチの占拠も、派手なパートナーシップもなかった。
かわりにいたのは、選ばれた10名ほどのXの幹部だった。クリス・リーディ氏(元グローバルセールス&マーケティング担当バイスプレジデント)、アレックス・ジョセフソン氏(ブランドクリエイティブ担当バイスプレジデント)、ティム・ペルジーク氏(マーケティング&リサーチ担当バイスプレジデント)らで構成されたこのチームの主な目的は2つあったと、現地で行われたフェスティバルの出席者は語る。
第1に、現在のパートナーや潜在的なパートナーとのコラボレーションを強化する一方で、ブランドセーフティ・ソリューションの領域にも積極的に踏み込むことである。そして2つめが、既存のクライアントだけでなく、マスク氏の登場により一時的に広告支出を停止していた広告主ともつながりを再構築するというミッションである。
南仏カンヌのクロワゼット大通りを眺めながら、リーディー氏をはじめとする代表団がマーケターたちと会談したが、その際にはっきりとわかったことがひとつある、と出席していた企業幹部のひとりが話してくれた。それはTwitterの代表団の面々は、同社の広告事業の現状に慌てふためいたりはしていなかった、ということである。むしろ、取引相手であるマーケターたちを前に、ほぼ通常通りのビジネスといってよいふるまいだった。この選りすぐりのチームは、その後実現したアドテク企業IASとのブランドセーフティに関するパートナーシップに向けた布石をうち、新たなパートナーに働きかけ、2022年11月以降に失った広告主からの信頼を回復するための仕事に着手したのだった。
ある意味、カンヌでのTwitterの存在は、特に7月に名称がXに変更されて以降、良くも悪くも、マーケターにとってビジネスがどれほど変化したのかを象徴していた。Twitterの元従業員たちは「#lovewhereyouworked」というハッシュタグを作ったが、人員配置や企業文化の面で過剰感があったと、マスク氏登場の前後にこのチームと仕事を共にしたというある広告企業幹部は語っている。現在、チームはより合理化され、より迅速なコミュニケーションが可能になり、仕事に対するより大きな緊張感を持てるようになったと、同氏は付け加えた。
ポジティブな変化は期待できるのか
マスク氏が440億ドル(約6兆4000億円)を投じてTwitterの買収を完了させてから、もうすぐ1年が経とうとしている。
2023年9月から、選ばれたマーケターたちがXの初めてのクライアント・カウンシル(9月20日に行われた)に出席し、同社の新しい動画広告の提案について検討し、サンフランシスコとニューヨークにあるXのオフィスで同社の広告チームと面会する機会を得た。新製品発表と一連のミーティングは、さまざまなかたちで、この1年間に起こった出来事の多くを映し出している。
マーケターたちはこれまで、これは同じことの繰り返しだ、まるで止められない力と動かすことのできないものとの間で延々と続く堂々巡りのようなものだと感じることが多かった。マーケターたちが不満を口にし、マスクと彼のチームがこれを聞いて、広告事業に調整を加える。マーケターからのフィードバックに合わせるときもあれば、あまり期待に沿わないこともある。おそらくXは――これは非常に重要な仮定の話ではあるが――2年目も同様の大きな変化、よりポジティブな潜在性を秘めた変化をもたらすことだろう。
この記事に対するXからのコメントは得られていない。
[原文:One year in: Inside X (formerly Twitter) and its complicated relationship with advertisers]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)