中国を中心に隆盛を見せるライブコマースだが、このトレンドに注目しているのがSnapchatだ。すでに具体的な事例も登場しており、ライブコマースプラットフォームのNTWRKはSnapchatでの番組配信によって、数時間で1000万円を超える商品売り上げを記録したという。
「メディア(やそのコンテンツ)はSNSで利益をあげられない」という意見は根強い。だが、ライブコマースプラットフォームのNTWRKはSnapchatへの投稿を通じて24時間以内に400の商品を販売し、10万ドル(約1040万円)を超える売上を達成した。
販売したのは、セレブ御用達のヒップホップジュエリーデザイナー、ベン・ボーラー氏が手がけた250ドル(約2万6000円)のプラチナ製マネーカウンターだ。
NTWRKはモバイルファーストのプラットフォームで、アプリで配信されるセレブによる商品紹介を視聴しながら購入することができる。消費者が求めているのは、セレブたちが取り上げるNTWRK限定のレアなスニーカーやストリートウェアだ。今後、NTWRKはSnapchatをはじめとするSNSでもライブコマース配信を予定しているという。
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商品の希少性が視聴者を惹きつける
今のところNTWRKはアプリ配信の焼き直しではなく、Snapchatオリジナルで「アート・オブ・ザ・ドロップ(The Art of the Drop)」という5分間の番組を10本配信済だ。毎週公開される番組ではボーラー氏のようなアーティストやクリエイターを対象に、まもなくアプリ上で販売される商品についてインタビューをおこなう。番組を通じてSnapchatは広告収益を、NTWRKは商品売上をそれぞれ確保するという仕組みだ。すでにSnapchatは番組内のさまざまな箇所で10秒間のCMを入れる契約を、ヒューレット・パッカード(Hewlett-Packard)と結んでいる。この契約の具体的な金額についてSnapchatは明かしていない。
NTWRKのプレジデント、モクシャ・フィッツギボンズ氏は「ライブ配信とコマースの組み合わせは中国では大人気となっているが、北米では大きな成功をおさめていない」と語る。
ボーラー氏のマネーカウンターは、Snapchatの初回放送から数時間で完売した。NTWRKもSnapchatも番組自体を宣伝したわけではなく、商品自体の希少性が視聴者を呼び込んだのだ。ただし、NTWRKはセレブやファッション業界のインフルエンサー、クリエイターなどのSNSアカウントを活用し、マネーカウンターそのものの宣伝をおこなっていた。その結果、商品紹介を見る前から購入希望者が続出したのだ。
「ショッパブルな番組」
インフルエンサープラットフォームであるヨーク・ネットワーク(Yoke Network)のCEO、ジャイド・マドゥアコ氏は「TikTokやSnapchatなど、SNSでは音声やネットミームがバズって商品になり、さらには文化にまでなるケースがある」と語る。「インフルエンサーによる商品への支持や希少性を活かすことで、NTWRKをはじめとする企業がコンテンツと通信販売を組み合わせた新たな『(テレビショッピングとは明確に異なる)通販番組』を立ち上げ、運営に成功している」。
一般的にパブリッシャーをはじめとするコンテンツホルダーがSnapchatのような技術プラットフォームが提携すると、条件面で折り合いがつかず契約内容で揉めるケースは少なくない。大抵の場合、パブリッシャーが不利な契約になるのが通例だ。だがNTWRKの場合、(少なくとも現時点では)そうなっていない。
フィッツギボンズ氏によれば、「バラーの番組が配信されてから24時間以内に、チャンネル登録者が4300人以上増えた」という。「圧倒的な数字ではないかもしれないが、かなりいい結果だ。もし次に配信する10本でもこの勢いを維持できれば、単なる通販番組ではなく、Snapchatユーザーが望むコンテンツを一貫して配信できるようになるかもしれない。我々は、Snapchatでエンタメとコマースの融合を成し遂げたい」と同氏は語る。
NTWRKが目指す「ショッパブルな番組」は、同社が掲げるさまざまなコンセプトを体現している。フィッツギボンズ氏は、「NTWRKのコマースシステムが自社アプリのエコシステム内だけでなく、ほかのプラットフォームにコンテンツを移行しても成立することを示したい」と述べている。「SnapchatやTikTokでは、NTWRKのショッパブルなショートコンテンツを毎週提供していく。一方、自社プラットフォームでは24時間複数の作り込まれた番組を配信していきたい」。
Z世代視聴が高いSnapchat
NTWRKのSnapchatにおけるショッパブルコンテンツは、時流に乗ったものといえるかもしれない。コマースの面ではSnapchatでAmazonほどの規模を達成することはできないだろうが、NTWRKのような企業がショッパブルコンテンツで収益をあげる余地は十分にある。Snapchatによれば、米国におけるZ世代人口の半数以上はSnapchatオリジナルコンテンツを少なくとも1本視聴しているという。SnapchatのCEOであるエバン・スピーゲル氏も、このデモグラフィックが注目を集めていることの価値を強調する。同氏は11月、株主に対して成長を続けるeコマースを同社の優先事項としていると語っている。今後本格的にコマース事業が展開されれば、NTWRKの番組は、Snapchat内で購入まで完結する初のショッパブル番組となる可能性が高い。そしてそれに続き、多数の番組を他メディアとも展開していくことが考えられる。
ワンダーマン・トンプソン・インテリジェンス(Wunderman Thompson Intelligence)でグローバルディレクターを務めるエマ・チウ氏は「Snapchatにとって、統合型ショッピング事業の推進は最優先事項のひとつだろう。コマース事業はFacebookやインスタグラムなど、ほかのSNSプラットフォームにおいても大きな成果を上げている。それゆえ、まずSnapchatはソーシャルコマースの最適化に取り組まねばならない。ただしSnapchatは、ユーザーが信頼性の高い親密なプライベートネットワークを構築できることで知られている。SnapchatのEC戦略もまた、この点を反映している。Facebookやインスタグラムとは別の切り口の成果を上げるはずだ」。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)