米ヤフー(Yahoo!)はベライゾン(Verizon)に吸収され、CEOだったマリッサ・メイヤー氏は、同サイトを苦境から立て直せないまま職を辞した。2013年5月、同氏がTumblrを11億ドル(約1200億円)で買収したのは、最大かつ起死回生の一手だったが、その買収もいまや米ヤフーの失策のひとつに数えられる。
米ヤフー(Yahoo!)はベライゾン(Verizon)に吸収され、CEOだったマリッサ・メイヤー氏は、同サイトを苦境から立て直せないまま職を辞した。2013年5月、同氏がTumblrを11億ドル(約1200億円)で買収したのは、最大かつ起死回生の一手だったが、その買収もいまや米ヤフーの失策のひとつに数えられ、評価額の引き下げは不可避だ。
投資銀行デシルバ・アンド・フィリップス(DeSilva+Phillips)のマネージングディレクター、ジョン・マシューズ氏は、次のように説明する。「米ヤフーは、将来的な売上を期待して危険な賭けに出ようとしていた。理屈のうえでは、ミレニアル世代のオーディエンスといち早くつながりを築くことで得られるはずの売上だ。だが、創業者デビッド・カープ氏は、そもそもTumblerを広告から収益を上げるプラットフォームとして設計していなかった」。
Tumblrがつまづいた大きな理由は、膨大なユーザー基盤を広告収入に転化する方法を見いだせなかったことだ。Tumblrは画期的な広告プロダクトを生み出せず、インスタグラムやSnapchatの後塵を拝し、経営方針をめぐって米ヤフーと衝突し、ここ数年で何度も営業部門を再編した。広告事業において、Tumblrの方針はいつもどっちつかずだった。創業者兼CEOのカープ氏は、米ヤフーによる買収以前は広告嫌いで有名だったのだから、無理もない。
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最近Tumblrを離れた元幹部は、「デビッド(・カープ氏)が広告のことを果たしてまともに気にかけたことがあるのかどうか、私にはわからない。米ヤフーが11億ドルの投資の見返りを求めたから、彼も考えざるを得なくはなったが」と言う。「米ヤフーの誰一人として、なぜTumblrを買収したのか、そもそもTumblrとは何なのかを理解していない。この本質的な問題が、あらゆる問題の核心だ。理解していないものを、どうやって売り込むというんだ?」。
イノベーションの欠如は「広告嫌い」の社内カルチャーに起因
メイヤー氏は、Tumblrが広告収入のドル箱になることを期待した。だが、Tumblrの社風と方針の根底にはカープ氏の広告嫌いがあり、広告イノベーションが同社の主要課題に上がることは、米ヤフーに押し付けられるまでは決してなかった。
「(Tumblrでの)私の経験から言えば、広告プロダクトの開発に関わっているのはいつも、おそらくひとりだけだった。だが、私が辞めたあとTumblrはもっと人を雇ったと聞いた」と、前述の元幹部は言う。「米ヤフーはTumblrに広告プロダクト改革の時間を与えず、サポートもしなかった。Tumblrが開発競争で大きく遅れを取っていると米ヤフーが気づいたときには、すでに手遅れだった」。
Tumblrのダイレクト広告のフォーマットには、スポンサー付き投稿、スポンサー付き動画、スポンサードデイ(トップページをスポンサーが使用する)、カルーセルユニットがある。いずれもSnapchatのスポンサー付きレンズなどに比べれば、革新的とはいえない。
「デジタルプラットフォームへの広告掲載を検討する際、ほとんどの広告主がTumblrを候補の筆頭や2番手とは考えていないのは明らかだ」と、エージェンシーのRPAでデジタル戦略アソシエイトディレクターを務めるマイク・ドセット氏は言う。「革新的な広告プロダクトの質も種類も、ターゲティング能力も、主要プラットフォームの水準に達していない」。
Tumblrがイノベーションを起こせなかったのは、社内カルチャーとの不調和と、米ヤフーの管理不行き届きの結果だ。Tumblrの元従業員によれば、米ヤフーとの提携はまるで「いまどきのティーンエージャー集団がおじいちゃんたちと一緒に時間つぶしをしている」ようだったという。一方、米ヤフー社員からは、メイヤー氏は買収後もあまりに長いあいだTumblrとカープ氏に自由にやらせすぎたし、その後任命した責任者も適任ではなかったという声が上がっていると報じられている。
Tumblr元幹部は言う。「メイヤー氏は我々とほとんど話さなかった。私はTumblrにいた数年のあいだ、1度しか話していない。メイヤー氏には解決すべきもっと大きな問題があった」。
営業部門の統合が凋落の引き金に
米ヤフーがTumblrを買収した際の、「めちゃくちゃにはしない」というメイヤー氏の約束は有名だ。当初、約束はおおむね守られていた。2015年1月、Tumblrの営業部門が米ヤフーの営業部門と統合され、米ヤフーの最高売上責任者リサ・アッツシュナイダー氏がトップに就任するまでは。これに伴い、Tumblrのブランドパートナーシップ部門を率いていたリー・ブラウン氏は同社を去った(現在はBuzzFeedの最高売上責任者を務める)。社内事情に詳しい情報筋によると、ブラウン氏が退職したあと、Tumblrの営業部門から離職者が続出したという。
統合の一環として、米ヤフーは営業担当の従業員を、マンハッタンのフラットアイアン地区にあるTumblr本社からタイムズスクエアにある米ヤフーのオフィスへと移転させはじめた。
Tumblrのある元従業員は「誰も米ヤフーで働きたがらなかった。Tumblrには最高の社内カルチャーがあったからだ」という。「いまでも覚えているが、米ヤフーが統合を発表したころ、リサ・アッツシュナイダー氏が我々と話をしに来て、最初に『私はCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー:世界最大の家電見本市)から帰ってきたばかりなんだけど、誰かCESって何か知ってる?』と質問した。何の冗談だ、と我々は思った。我々にはまったく関係のない話だったからだ」。
前述のTumblr元幹部によれば、Tumblrの営業社員が辞めはじめたのは、メイヤー氏が公言した「2015年までに1億ドル(約100億円)」という売上目標も理由だったという。「これはまったく根拠のない数字だった。誰もどこから出てきた数字か知らなかったが、彼女はそれを持ち出した。狂気の沙汰だ。1億ドルという目標は、実現可能な数値からかけ離れていた」。
Tumblrは売上目標を達成できず、1年と経たないうちに、米ヤフーは営業部門の統合から手を引きはじめた。買収とトップ交代による相次ぐ再編で、Tumblrの営業社員はブランドがメディアプランやコンテンツプランにTumblrを含めるべき理由を、説得力をもって主張できなくなったというのが、メディアバイヤーの見方だ。
「原因は、営業の能力不足やTumblrの広告プロダクトの売上不振より、むしろ絶え間ない人の入れ替わりにある」と、あるエージェンシー幹部は匿名を条件に語った。「どんな営業部門であっても、大規模な人の入れ替わりが続いている状況で、あるブランドがどんな目標を達成しようとしているのか、どんなフォーマットや広告プロダクトに関心を持っているのかを正しく理解するのは難しい」。
この幹部は具体例として、ある時期にTumblrの新人営業社員が4、5人立て続けにエージェンシーを訪れ、以前に断った広告プロダクトを、これは絶好のチャンスだと繰り返し売り込んできたと話す。
「Tumblrの営業担当やマーケティング担当は、ほかに働き口があれば喜んで出て行くだろう。そう思っているのは私だけではないはずだ」と、このエージェンシー幹部は言う。「機能の面でもブランド認知の面でも市場の基準に達していない製品を売り込み続けるのが容易なはずはない。トップが何度も交代し、(米ヤフーの)将来が不確かなときなら、なおさらだ」。
ヤフージェミニという、もうひとつの問題
まだTumblrを使っている人なら、ニュースフィードに「ネイティブ」広告がたくさんあるのを目にしているだろう。これらの広告はコンテクスト駆動型ではないが、文面と画像はつねにシャッフルされ再構成されていて、なかにはまるで関連性のないものもある。たとえば、23歳のTumblrユーザーのフィードに表示された米銀行ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)の広告は、リタイア間近の世代をターゲットとしたもので、明らかに場違いだ。

ターゲティングされていない、ウェルズ・ファーゴの広告
こうした広告は、ヤフージェミニ(Yahoo Gemini)やFacebookオーディエンスネットワーク(モバイル版)などのプログラマティックネイティブネットワークを通じて表示され、Tumblrのユーザー体験を低下させている。Tumblr元幹部によれば、同社もこの問題を認識しているが、Tumblrにはブランドインベントリー(ブランド在庫)があり、米ヤフーはそこから多少なりとも売上を得たいと考えているのだという。
「米ヤフーはユーザー体験のことなど考えていなかった。Tumblrユーザーのティーンエージャーに生命保険の広告を出すなんて、まったく無意味だ」と、この幹部は言う。「Tumblrへの広告表示に関して、ジェミニは問題だらけだ。『モート(Moat)の認証とサードパーティータグを実装してくれたら、広告利用を考える』とクライアントに言われたことがあった。米ヤフーにその要望を伝えたが、何も解決してはもらえなかった」。
ある大手テックプロバイダーの幹部は、Tumblrの凋落のもうひとつの理由として、同社がコンテンツの安全性の管理を怠ったため、広告主が不信感を抱いたと指摘する。
「YouTubeの品質管理に対し、疑念が増している現在の状況と似ている」と、同幹部は述べた。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)