直販ブランド革命の原動力、 Shopify が求められる理由:カイリー・ジェンナー氏も愛用

ついに今年、Shopify(ショッピファイ)が表舞台に躍り出た。

時価総額170億ドル(約1.9兆円)を誇るカナダの同社は長年、目立つことを避けてきた。カナダのザ・グローブ・アンド・メール(The Globe and Mail)は2014年、CEO・オブ・ジ・イヤーにShopifyの最高経営責任者(CEO)であるトビアス・ルケ氏の名を挙げ、同氏に関する記事に「本紙が選ぶカナダのCEO・オブ・ジ・イヤーは無名の人物」の見出しをつけた。状況が一変したのは2018年、ソーシャルメディアのスターであるファッションモデル/TVタレントのカイリー・ジェンナー氏に関するカバーストーリーがフォーブス(Forbes)に掲載されたときだった。

ジェンナー氏は8月、若くして一代で巨万の富を築こうとしている人物のひとりとして、同誌で大きく取り上げられた。この記事のなかに隠されていたのは、ジェンナー氏が企業評価額8億ドル(約915億円)のカイリー・コスメティクス(Kylie Cosmetics)の運営にShopifyを活用し、商品を販売しているという事実だった。

ある意味でこれは、Shopifyの名前がもっとも多くの人々に知られた瞬間だった。同社は、老舗ブランドを打ち負かす勢いの、成長著しい新手のDTC(Direct To Consumer:直販)ブランドにとってのコアプラットフォームとしての地位を比較的ひっそりと固めてきた。そのコンセプトはシンプルだ。「売りたいモノがあるなら、月額料金の支払いで、Shopifyが販売支援を」だ。

販売業者はショップのテンプレートやアナリティクス、在庫管理のためのさまざまな方法を提供してもらえる。またShopifyは、ほかのプラットフォームとの接続も強化している。たとえば直近では、インスタグラムストーリーズ(Instagram Stories)がそうだ。販売業者はこれらのプラットフォームを活用して顧客を誘導し、販売を完了することができる。直販という方法を選ぶ世界各地の「カイリー」たちにとって、Shopifyは市場に商品をいち早く販売ための有効な手段となっているのだ。

DTCブランド台頭の要因

「21世紀のブランドはDTCブランドだ」と、Shopifyの最高マーケティング責任者(CMO)であるジェフ・ワイザー氏は語る。「いくつかの要因がDTCの台頭を可能にしてきた。そのなかのひとつがサプライチェーンを外注できる能力だ」。

DTCに関するすべてに「愛着を持っている」と語るワイザー氏にとって、Shopifyの仕事は、販売から支払い、マーケティングに至るまで、この能力のすべての供給だ。「Shopifyは小売のオペレーティングシステムの全域をカバーしている」。たしかに同社はDTCブームの波に乗ってここまできた。DTCブームは自宅のキッチンで運営する小さな事業からはじまり、やがて高級品市場へと移行して、フォーチュン500企業にまで広がった。DTCが「卒業」して巨大な力を手にしたという事実は、大きな変化をもたらしてきたとワイザー氏はいう。Shopifyは、シューズメーカーのオールバーズ(Allbirds)やマットレスブランドのリーサ(Leesa)、男性用ショートパンツを販売するチャビーズ(Chubbies)など、多数のこうした企業の原動力となっている。

GoogleやFacebookがオンラインでマーケティングを行う者にとっての核であるのと同じように、Shopifyはオンラインで直販を行う者にとっての核になりつつある。

「一種のネットワーク効果」

どのプラットフォームもそうであるが、Shopifyもデベロッパーやスタートアップ、エージェンシーからなるエコシステムをいままさに築こうとしている。Shopifyは自社のアプリストアで2500種類のアプリを販売している。AppleのApp Storeと同じように、そのエコシステムには販売業者が購入できるアプリが追加されている。たとえば、無料アプリの「シューレース(Shoelace)」を使えば、Facebookやインスタグラムで広告をリターゲティングできる。「セーブ・マイ・セールス(Save my Sales)」では、いわゆる「カゴ落ち」客にテキストメッセージを送る作業をライブエージェントが手伝ってくれる。

アプリ/パートナープラットフォーム部門のディレクターを務めるアトリー・クラーク氏は、Shopifyはこの10年間に、アプリのパートナーに1億ドル(約1140億円)以上を支払ってきたと話す。また同社は、デベロッパーカンファレンス「ユナイト(Unite)」も開いているという。「アプリのエコシステムには現在、パートナーがおり、ともにパートナープログラムを作成している」とクラーク氏は語る。「一種のネットワーク効果だ」。

一部のケースでは、Shopifyはこれらの企業を買収してきた。2013年には、カナダのUXエージェンシー、ジェット・クーパー(Jet Cooper)を買収した。2016年には、ソーシャルメディアでの広告やFacebookページの管理などのマーケティングタスクをアシストするバーチャルマーケティングアシスタントを開発するキット(Kit)を買収した。また同年には、クラウド開発に重点を置くソフトウェア開発企業のボルトメイド(Boltmade)も買収している。

パートナーはShopifyの成長にとって非常に重要だ。Shopifyによれば、昨年は2万に及ぶ「パートナー(ベンダー)」が販売業者を同プラットフォームに紹介してくれたという。またサードパーティエージェンシーやeコマースエージェンシーも販売業者紹介の大きなソースになっているようだ。

中小から大企業まで

Shopifyはサイト「Shopify Experts(ショップファイ・エキスパート)」も運営している。このサイトでは、エージェンシーをはじめとするさまざまな企業が、ショップのセットアップやデザイン、マーケティングのサポートを申し出ることができる。多数のeコマースブランドのサポートを行うワンダーソース(Wondersauce)のCEOで共同創業者のジョン・サンポーニャ氏は、同社は数年前、Shopify Expertsを訪問し、パートナーエージェンシーエコシステムへの参加を申し出たと話す。

ワンダーソースは「Shopifyオンリー」のエージェンシーではない。サンポーニャ氏によれば、クライアントの技術的なIQや目標によって異なるが、Shopifyが理にかなっている場合は多いという。Shopifyの最大のメリットはそのスピードだが、クライアントが運営に関する大きな責任を負うことを望まず、単にビジネスを立ち上げて販売に取り組みたいだけの場合、同氏は高い確率でAmazonをすすめている。

成長の大きなチャンスはDTCブランドの急増によってもたらされてきた。彼らは、夫婦が経営する小さな店と巨大複合企業のあいだにある、この特別な場所を占めている。

Shopifyの背骨が小規模企業であることは明らかだが、同時に同社は、プログラム「Shopify Plus(ショッピファイ・プラス)」を介して、大企業を獲得すべく一丸となって努力してきた。前四半期だけでも、ダイヤモンド採掘・販売大手のデビアス(DeBeers)や日用消費財メーカーのレキット・ベンキーザー(Reckitt Benckiser)、家庭用飲料炭酸化システムメーカーのソーダストリーム(Sodastream)、ファッションブランドのコム・デ・ギャルソン(Comme des Garçons)が、Shopify Plusの利用登録を行っている。

Amazonに対する見方

時間とともに、市場に対するShopifyのピッチは徐々に固まってきた。9月下旬に開かれたリコード(Recode)主催のカンファレンス「コード・コマース(Code Commerce)」で、壇上に登ったCEOのルケ氏は、ある意味でShopifyの事業は、Amazonの外にいるすべての販売業者をサポートすることで築かれてきたと述べた。「我々は、人々が起業する力を失わないようにすることに取り組んでいる」と同氏は語った。

Amazonを「仲間でもありライバルでもある企業」と呼ぶShopifyは、同プラットフォームを利用する販売業者の顧客は彼らの顧客であって、自分たちの顧客ではないという点を前面に打ち出している。この点は興味深い。とくに、いまのようなご時世においては。というのも、Amazonが顧客データを保持していることに対して、ますます多くの販売業者があからさまに不満を口にするようになっているからだ。顧客データはAmazonに可能性の門戸を開き、同社は一部のケースで、データとそこから得られた知識を活用して、販売業者と直接競合するプライベートブランドまでローンチしている。

ルケ氏は壇上で、Shopifyとは違い、Amazonはブランドを怯えさせる存在だ、なぜなら同社は「販売業者は重要ではない」と思っているからだと述べた。

「独自のマーケットプレイスを持たず、それゆえPinterest(ピンタレスト)やインスタグラムなどのマーケットプレイスを所有するあらゆる人々と気軽に話ができるような、中立的な立場のおかげで、それらすべてを統合する形で顧客を抱えることが可能になっている」と、ルケ氏は直近の収支報告で述べた。

Shopifyに存在する課題

以前なら、ビッグコマース(BigCommerce)などのeコマースプラットフォームと比較されていたであろうShopifyだが、同社はいまやAmazonと直接競合する存在であることに疑問の余地はない。Amazonは9月下旬、「ストアフロント(Storefronts)」をローンチし、小規模企業が独自のオンライン「スペース」をAmazon上に構築できるようにした。Shopify路線を狙った、ちょっとした取り組みだ(ワイザー氏は「まだまだ余地はある」といっており、その一方でShopifyの顧客は販売業者のものであって、同社のものではないと指摘している)。

ROIエージェンシーのゼニス(Zenith)でグローバルコマースディレクターを務めるカッサンドラ・スティーブンス氏は、オンラインで商品を売りたいブランドにとって、コマースを自社のウェブサイトに組み込む必要があるのであれば、ShopifyはAmazonに代わる選択肢だと話す。Amazonはエンドツーエンド(E2E)のソリューションを提供しているものの、カスタマイズは不可で、ブランドエクスペリエンスとデータはAmazonが所有している。彼らの商業協定には厳しい条件が盛り込まれており、遂行されない場合には、商業的なリスクがもたらされるおそれがある。

Shopifyにとっての問題は、彼らの成長はスタートアップブランドにとって大きな意味を持ってきたが、その模倣は容易であるという点だ、とスティーブンス氏は指摘する。競争は世界各地のペイパル(PayPal)的な企業によってもたらされる可能性がある。彼らなら、支払いとともに、テンプレート化されたチェックアウトソリューションも提供できるだろう。また、その体験をパーソナライズできる相当量のデータも持っている。それだけではない。大手小売業者に企業向けソリューションを提供しているエージェンシーであれば、ブランドがE2Eジャーニーを完了できるアラカルトのソリューションを提供できるだろう。

フライホイール(弾み車)

こう考えれば、Shopifyの成長するエコシステムの説明がつく(そのエコシステムはブランドによる「メールチンプ[MailChimp]」や「ペイパル」などのCRMソリューションの提供を可能にするソーシャルショッピングアプリなどを含み、その完全にモジュール化されたポジショニングに適合している)。「要するに彼らは、アプリソリューションを買収あるいは開発することにより、ブランドがE2Eのコマース体験を提供できるようにしているのだ」とスティーブンス氏はいう。

ワイザー氏はこれを、Amazon用語を借りて、「フライホイール(弾み車)」に見立てている。「成功が成功を生む。成功例を見れば、人は自分も参加したいと思うようになる」と、ワイザー氏は続ける。「中小企業向けの小売のオペレーティングシステムをローンチする場合、そこにすき間が見えれば、サードパーティ企業が提携を求めてくる。DTCは、やがて来る大きな波なのだ」。

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)