Netflixがゲームとeスポーツに興味を持っていることは周知の事実だ。そして7月14日にNetflixはマイク・ベルドゥ氏をゲーム開発部門の責任者として起用し、ゲームへの取り組みを強化した。ゲーム業界でPCからモバイルまで幅広い経験を有する同氏は、Netflixに何をもたらすことになるのだろうか。
Netflixがゲームとeスポーツに興味を持っていることは周知の事実だ。このことは、同社のCEOであるリード・ヘイスティングス氏が2019年に、彼らの最大の脅威としてHBO maxのようなほかのプラットフォームではなく「フォートナイト(Fortnite)」を挙げた時点で明らかだった。
それにもかかわらず、Netflixのゲーム業界への参入は比較的軽いレベルにとどまっている。ヘイスティングス氏は7月中旬に発表した第2四半期決算のインタビューで、「私たちは数年間、参入のタイミングについてメリットとデメリットをまとめながら、ゲームについて話してきた」と述べている。
ゲームへの関心を示してきたNetflix
これまでにもNetflixは、同社のヒット番組をゲーム化した「ストレンジャー・シングス(Stranger Things)」など、いくつかのオリジナルゲームをリリースしてきた。しかし、社内での開発はほとんどされておらず、開発の多くを外部のスタジオに委託している。さらに、同社のゲーム業界への進出は、2018年に公開されたインタラクティブ映画の「ブラックミラー:バンダースナッチ(Black Mirror: Bandersnatch)」や、人気ゲームを脚色したドラマ「ウィッチャー(The Witcher)」やアニメ「キャッスルバニア(Castlevania)」といった実験にも及んでいる。
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Netflixは7月14日、マイク・ベルドゥ氏をゲーム開発部門の責任者として起用し、ゲームへの取り組みを強化した。以前はFacebookリアリティラボ(Facebook Reality Lab)でコンテンツ部門バイスプレジデントを務め、同社のVRとARへの参入を監督していた同氏だが、NetflixではCOOのグレッグ・ピーターズ氏の下に就くことになった。Facebookに入社する以前、ベルドゥ氏は大手ゲームパブリッシャーのエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts:以下EA)をはじめ、ジンガ(Zynga)、タップゼン(TapZen)、カバム(Kabam)といったのモバイルゲーム企業のプロデューサーおよびエグゼクティブとしても働いていた。ファイナンス企業のクレジット・カルマ(Credit Karma)でCPOを務め、EAとジンガ在籍時にベルドゥ氏の同僚だったコリーン・マクレアリ氏は「マイクは素晴らしいリーダーだ」と語った。
ベルドゥ氏には本稿のための米DIGIDAYの取材を受けてもらうことはできず、Netflixも取材を拒否した。
Netflixがベルドゥ氏から得るもの
長年のゲーム開発の経験を持つゲーム業界のエグゼクティブを起用することは同社にとって理にかなった戦略だ。同社の長期的な狙いは、ストリーミングや非インタラクティブ・コンテンツにとどまらない。アクティビジョン・ブリザード・メディア(Activision Blizzard Media)のグローバル・ビジネスマーケティング、測定・インサイト部門バイスプレジデントであるジョナサン・ストリングフィールド氏は次のように語る。「Netflixはいつもディズニープラス(Disney+)やHulu(フールー)ではなく、フォートナイトを競合として名指ししている。消費者のアテンションはゼロサム・ゲームであり、ゲームはそのアテンションの多くを奪い始めていることを知っているからだ。言ってみればNetflixは動画ビジネスではなく、アテンションを取引するビジネスを展開している。当然ながら、その最前線にしっかりと参加したいと考えている。そして繰り返しになるが、消費者の時間はますますゲームに向かっている」。
特にEAでの経験から、ベルドゥ氏はNetflixのオリジナルゲームを開発する準備が整っている。同氏のリンクトイン(LinkedIn)ページによると、EAではふたつの役職についていたことが確認できる。最初が2002年から2009年にかけて「ロード・オブ・ザ・リング:中つ国の戦い2(Lord of the Rings: The Battle for Middle-Earth II)」などのゲームのマネージャー、クリエイティブリーダー、2017年から2018年にかけてEA Mobile(EA Mobile)の責任者を務めた。
モバイルゲームスタジオのモビリティウェア(MobilityWare)でシニア・アートディレクターを務めるギャリー・コックス氏は、「ベルドゥ氏は(Netflixのために)素晴らしいチームを作るだろう」 と語った。コックス氏はEAの元アートディレクターであり、「ロード・オブ・ザ・リング」などのタイトルでベルドゥ氏と一緒に働いたという。「一緒に仕事をしていたとき、彼はチームのみんなをとても大切に扱っていた。私たちに課せられた納期は常に厳しく、かつクオリティに関しては非常に高い水準を要求されていた。マイクはそんななかで、常に我々と一緒になって働いてくれた」と述べた。
ゲーム開発者としての経歴に加えて、彼のモバイルゲーム経験はNetflixにとってさらなる恩恵である。モバイルでのアテンションエコノミーにおいてゲームは相対的な強さを持っており、同社のゲームへの取り組みもそれがモチベーションになっている。2017年の「ストレンジャー・シングス:ザ・ゲーム(Stranger Things: The Game)」など、これまでのモバイルゲームへの取り組みは、iOSとAndroidのアプリストアで広くリリースされている。
これまで有していなかった知識と経験をもたらす存在
「ゲームで育った私のような人間は、ケーブルテレビも従来型のリニアテレビももう持っていない。私がテレビを見ているとしたら、それはOTTやNetflixを見ているということだ」とアクティビジョンのストリングフィールド氏は述べた。「だから、もう私の(モバイル端末上の)セカンドスクリーンは違うものに使われている。Netflixを見ながらソーシャルメディアを見ているのではなく、(自身の場合は)ゲームをしているのだ。つまりセカンドスクリーン利用に関して私たちは(ゲーマーではない消費者と)同じような『ならが視聴』行動を、異なる形でとっていることになる」。
強力な競合であるゲーム市場のシェアを獲得することは、Netflixにとって難しい課題になるだろう。GoogleやAmazonといったテクノロジー大手も、この分野への参入に取り組んできたが、必ずしもすべて成功してきているとは言えない。Netflixはゲーム業界でも一般的にも強いブランド認知を誇っているが、抱えているオリジナルゲームのタイトル数が少なく、コアなゲーマーを惹きつけることはなさそうだ。しかし彼らにとって幸いなことに、同社は「アンブレラアカデミー(The Umbrella Academy)」や「ビッグマウス(Big Mouth)」など、ゲームの脚色に適した既存のIPを豊富に所有している。
与えられた任務の難しさにかかわらず、ベルドゥ氏はNetflixがこれまで社内で所有したことのないレベルのゲーム開発関連の専門知識と経験をもたらすだろう。高品質のPCゲームなのか、モバイルゲーム、VR・AR技術開発なのか、どのような形になるにしろ、ゲーム業界に深く飛び込もうとしている同社にとって同氏のスキルは貴重な資産だ。
クレジット・カルマのマクレアリ氏は「彼はゲーム業界では数少ない、この種の機会をうまくリードできる人材のひとりだ」とベルドゥ氏について述べた。
[原文:Netflix’s new vp of game development Mike Verdu brings much-needed skillsets]
ALEXANDER LEE(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)