2億人以上の登録ユーザーを抱えるMusical.ly(ミュージカリー)は、音楽に合わせて口パク動画を作成できるアプリで、米国でも人気を拡大している。いまのところ同アプリは、ユーザー数の拡大にフォーカスしているようだが、米国では、3つの広告製品を提供してエージェンシーに売り込みをかけている。
2億人以上の登録ユーザーを抱えるMusical.ly(ミュージカリー)は、音楽に合わせて口パク動画を作成できるアプリだ。2014年に中国人起業家のアレックス・チュー氏とルーユー・ヤン氏によってリリースされ、米国でも人気を拡大している。いまのところ、Musical.lyはマネタイズではなくユーザー数の拡大にフォーカスしているようだ。だが米国では、3つの広告製品を提供してエージェンシーに売り込みをかけている。
Musical.lyのユーザーは、スマートフォンのカメラの前で面白い顔をしたりポーズを決めたりしながら、ヒットソングの口パク動画を撮影できる(時間は最大15秒)。モバイルアプリ市場調査会社のアップアニー(App Annie)によると、Musical.lyのユーザーは13歳~24歳の女性だ。このようなニッチなユーザー層は、モバイルファーストのティーン世代にエンゲージしたいと考えるブランドにとって、広告機会が存在することを意味する。だが、Musical.lyは、米国市場で魅力的な広告製品を提供できずに苦労しているようだ。その理由は、同社の広告パッケージの価格が法外なほど高いこと、そして同社の販売規模が限られていることにあると、メディアエージェンシーの幹部らは指摘する。
匿名を条件に語ってくれた2人のメディアバイヤーによれば、Musical.lyが販売している広告フォーマットは3種類ある。ホームページタブのキュレーテッドセクションに表示されるバーティカル動画広告、ユーザー(通常はソーシャルスター)が動画を作成し、フォロワーに同じような動画を作るように促すカスタムチャレンジの近くに表示される広告、そしてインフルエンサーの動画投稿だ。このバイヤーらの話では、Musical.lyがバーティカル動画広告を導入したのはおよそ3カ月前、カスタムチャレンジとインフルエンサーの投稿をはじめたのは2016年の夏だという。
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広告費が高すぎる
米西海岸に拠点を置くあるエージェンシーの幹部によれば、Musical.lyに広告費を使おうと考えるクライアントはほとんどないという。その理由は、初期のSnapchat同様、広告の価格が常識からかけ離れているからだ。この幹部がいうには、最初の頃の価格は1日あたり約30万ドル(約3280万円)だった(Snapchatの初期の広告価格は1日あたり約75万ドル[約8200万円]だったといわれている)。さらに、Musical.lyの販売担当者が提示した広告パッケージの見積額は250万ドル(約2.7億円)を超えていたという。この価格は「実績のない企業の製品としてはあまりに高額で、早い段階からこのプラットフォームに広告費を投じてみようという意欲を削ぐ」ものだった。また、最近になってMusical.lyの担当者が提示した価格は、カスタムキャンペーンで平均7万5000ドル~15万ドル(約820万〜1640万円)だったと、この幹部は語っている。
「多くのブランドやバーティカルがMusical.lyでの(広告の)テストに関心を持っていることは以前から気づいているが、価格が高すぎる」と、この人物は言う。「私の考えでは、(Musical.lyが)拡大可能なビジネスを目指しているのなら、エントリー向けの(広告製品の)価格をもっと下げる必要がある。別のプラットフォームの標準的な動画広告ではなく、Musical.lyでなければ得られないものは何かということを考えるのは、そのあとの話だ」。
この幹部はまた、Musical.lyが自分の会社にあまり声をかけてこないのは、まだ規模が小さく、ほかのプラットフォームと同じくらいの数の顧客に対応するのはとても無理だからではないかと推測している(この記事のために取材した9社のエージェンシーのうちの6社が、Musical.lyに広告製品が存在していることさえ知らなかった理由も、Musical.lyの米国における販売規模が小さいことにあるのかもしれない)。
提供サービスも不完全
ニューヨークに本拠を置く別のエージェンシーのメディアディレクターも、この意見に同調する。この幹部の指摘によれば、Musical.lyの広告製品はまだ登場したばかりで、広告パッケージによっては不完全なものもあるという。たとえば、Musical.lyのソーシャルスターのほとんどはこのプラットフォームを通じてブランド契約を結んでいるが、ブランドはこのようなクリエイターに直接コンタクトを取れるため、Musical.lyと話をする必要はまったくない。
「我々のなかで、バーティカル動画広告がMusical.lyで流れているのを見かけた人はほとんどない。したがって、彼らがどのくらいの数の広告を販売しているのか私にはわからない」と、このニューヨークの幹部は語った。「それに、APIパートナー経由でMusical.lyの広告を買うこともできないのだ。とはいえ、公平を期すなら、これは登場から間もないアプリであり、広告契約をどのようにすべきなのかまだ模索している段階にある」。
米DIGIDAYは、Musical.lyにコメントを求めたが、締め切りまでに回答は得られなかった。
注目は高まっている
Musical.lyの広告製品について知らないエージェンシーの場合、このプラットフォーム上でブランドのプロモーションを展開している企業はほとんどない。グレイ(Grey)、アーノルド・ワールドワイド(Arnold Worldwide)、アテンション(Attention)といったエージェンシーの幹部らは、いまも「Musical.lyの広告機会を評価している段階だ」と口を揃える。
一方、ブランドのなかには、ウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)やコカ・コーラ(Coca-Cola)のように、Musical.lyでインフルエンサーマーケティングをテストしている企業もある。
「Musical.lyはこのところ大きな牽引力をみせており、ブランドからこのプラットフォームに関する問い合わせが定期的にある。だが、そういったブランドも実験的な予算を使うのが普通で、予算を最優先に割り当てることはまずない」というのは、ソーシャルメディアエージェンシーのエピック・シグナル(Epic Signal)でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるブレンダン・ガーハン氏だ。「我々は売り込みや調査を行っているが、キャンペーンを実施するには至っていない。いまのところ、ほとんどのブランドは実験的に取り組んでいるようで、その際にはインフルエンサーが使われることが多い」。
強みは若年層へのリーチ
デジタルエージェンシーのR/GAでバイスプレジデント兼マネージングディレクターを務めるイーライ・チャップマン氏は、Musical.lyについて楽観的な見通しを持っている。このプラットフォームが次世代の主要なソーシャルネットワークになると考えている同氏は、Musical.lyと機密保持契約を結び、広告取引について話をしていると語った。ただし、一部のパッケージは「ブランドがひとつのキャンペーンに支払おうと考える金額と比べて高すぎる」と、チャップマン氏は指摘する。また、Musical.lyのオーディエンスは非常に若い(13歳未満も含まれる)ため、広告主がコンプライアンスの問題に直面する可能性があると注意を促す。
「ブランドはMusical.lyに関心を寄せているが、我々がすぐにでも利用したいと思えるものではない」とチャップマン氏は言う。「だが、今後1年のうちに、このプラットフォームがマネタイズの面で成熟し、オーディエンスの年齢に関する法的な問題を解決できるようになれば、ここでお金を使いたいと考える広告主が増えると確信している」。
ブランドやエージェンシーと比べると、パブリッシャーはMusical.lyに対して積極的なようだ。たとえば、バイアコム(Viacom)やNBCユニバーサル(NBCUniversal)といったメディア企業や、ハーストマガジンデジタルメディア(Hearst Magazines Digital Media)が所有する雑誌『セブンティーン(Seventeen)』は、Musical.lyと提携してオリジナルの短編動画を制作することを6月に発表している。その狙いは、より若いオーディエンスにリーチすることだ。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)