マイクロソフト(Microsoft)が発表したChatGPT型AIチャット機能搭載の検索エンジン「ビング(Bing)」とブラウザ、マイクロソフトエッジ(Microsoft Edge)の最新版は、同社の見方では、マーケットシェアのわずか1%を手にするだけで、20億ドル(約2600億円)の広告収益が見込めるという。
マーケットシェア1%の価値とはいくらか。それは、検索界においては数十億ドル(数千億円)だ。
マイクロソフト(Microsoft)が発表したChatGPT型AIチャット機能搭載の検索エンジン「ビング(Bing)」とブラウザ、マイクロソフトエッジ(Microsoft Edge)の最新版は、同社の見方では、マーケットシェアのわずか1%を手にするだけで、20億ドル(約2600億円)の広告収益が見込めるという。
たとえ、新AIチャット機能に特化した広告プロダクトがなくとも(少なくとも現段階では、ない)、ビングへの広告出稿の未来図はどうなるのか、そしてそれはユーザーとマーケター双方を勝ち取れるのかと、専門家らは早くも思いを巡らせている。
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トレンドは対話型
実際、一部の企業はすでに、ビングの最新版から利益を得る方法に当たりを付けている。たとえば、イスラエルが拠点のデジタル広告会社であるペリオン・ネットワーク(Perion Network)のCEOドロン・ガーステル氏は、2月第二週の決算説明会において、「AIチャットは『ビングの検索機能に革命を起こす』だろうし、より多くの広告主が入札し、その後ビング広告に投資するようになれば、投入される広告費が増大し、その結果、ペリオン・ネットワークの検索事業も強力に後押ししてくれるだろう」と語った。
ガーステル氏はDIGIDAYのインタビューに応え、「ペリオン・ネットワーク(ビングの公式検索パートナー)はすでに1日2000万件の収益化可能な検索を、ビングを通じて、関連広告に転送させた」と話した。同氏はまた、質の高い検索結果が今後の鍵を握ることになるだろう、とも言い添えた。
「検索結果の表示よりも対話的なやり取りの進歩を重視する、それが今のトレンドだ」とガーステル氏はいう。「ChatGPTとのやり取りはもはや、人間と喋っているのと変わらない。つまり、可能なかぎりユーザーフレンドリーになりつつある」。
興味こそ先行しているものの、消費者の検索習慣は変えがたい
とはいえ、未来図の大半は、いまのところ仮想でしかない。2月第二週後半に発表した調査書のなかで、信用格付け会社のムーディーズ(Moody’s)のアナリストらは、マイクロソフトによる今回のAI統合にはたしかに、長期的収益の可能性を生むものだが、検索広告の機会についてはまだ何とも言えない、と述べている。
調査書には、「検索広告市場におけるシェア移行は、現段階では予想しがたい」と、ムーディーズのアナリストらは書いている。加えて、「マーケットシェアを得るには、マイクロソフトには消費者と広告主の双方を、同社のデジタル広告プラットフォームに切り替えるよう納得させ、同社のテクノロジーが双方にとってより価値のある検索結果を提供できると、実証する必要がある」と続けた。また、「消費者の検索習慣は変えがたく、とくにモバイルとデスクトップ双方の検索市場におけるGoogleの長い歴史を踏まえると、なおさらそう言える」としている。
そんななか、ビングはすでにChatGPTの恩恵を受けている。たとえば、わずか48時間で、実に100万人以上が新AI機能搭載ビングのプレビューのウェイティングリストに名を連ねたと、マイクロソフトのコンシューマーマーケティング部門トップであるユセフ・メディ氏はTwitterに投稿した。
ただし、ウェブトラフィックはいったん上下動を見せたものの、現在は落ち着いている。マイクロソフトがこのたびの一大発表をした2月7日の翌日、日間トラフィックは3990万から4370万に跳ね上がったが、ここ数日は3700万から3900万に再び下がっている。とはいえ、シミラーウェブ(Similarweb)による週間検索キーワード調査によれば、「bing ai」は700%増となっており、マイクロソフトによるこの発表が検索の未来にどう影響するのか、多くの人が興味津々だったのは間違いない。
オープンAI(OpenAI)のウェブサイト者数もまた、未来図の予兆と言えなくもない。シミラーウェブの調査によれば、同サイトのウェブトラフィックは12月のわずか1830万から6億7200万に急増しており、そのうち92%はChatGPTが後押ししたものだと、シミラーウェブは分析している。
AIチャットは検索界を活性化させる
一部の検索エンジンマーケターは、既存の広告プロダクトに対する影響を見定めるべく、ビングの新機能を試している。そして、早くもいくつかの欠点を見つけている。たとえば、オーソリティ・ハッカー(Authority Hacker)の創業者ゲール・ブレトン氏は、オーガニックリンクの上に表示される広告に注目した。その発見に関するツイートのなかで同氏は、旅行に関する問合せに応じたビングのAIチャットの処理能力は素晴らしいと認めたが、表示されたホテルのリンクはすべて切れていたと、記している。また、Google広告のキャンペーンも検索しており、最初は「よかった」が、より多くの情報を得るために結局、YouTubeに頼らざるを得なかったと、報告している。
検索界におけるこの大変動は、ビング以外のところにも利益をもたらす可能性がある。ブレインラボ(Brainlabs)の検索部門VPアレッサンドロ・クレソ氏によれば、ニーバ(Neeva)といった広告のない検索エンジンおよびブラウザ (独自のChatGPT型機能を数週間前に導入した)のようなスタートアップに競争力を与えうると述べ、とくに、プライバシー優先のコンポーネントという利点もあると指摘した。言い換えれば、市場における先駆者というビングの立ち位置は、マイクロソフトに多少の優位性をもたらすとはいえ、従来の検索習慣は変えがたく、多くのGoogleユーザーは、マイクロスフトエッジではなくChromeを使い続ける、ということだ。
「チャンスは平等にある」とクレソ氏はいい、「業界に大きな変化が起きるときは、ほかの業者すべてを考慮に入れて、状況を判断する必要がある(中略)。他の検索エンジンも、負け犬のままで終わるのではなく、追いつくためのチャンスを手にできることになる」と続けた。
揺らぐ広告の透明性
一方、検索結果のなかで広告がどのように出るのか、どういった表示がなされるのかについても、疑問が残る。広告であると明確に表示されるのか? そしてそうした広告は、AIチャットの答えをクリックするだけで済まそうとするユーザーの目に、はたして魅力的に映るのか?
コロンビア大学センター・オン・グローバル・ブランド・リーダーシップ(Center on Global Brand Leadership)のディレクターであるマシュー・クイント氏は、どれが広告でどれが広告でないのかの差が、さまざまなテックプラットフォーム上でますます微妙になっていると、指摘する。
「どれが企業の購入したもので、どれがオーガニックサーチなのかを明確に示す透明性の欠如、という考え自体が消滅しつつあるのだが、それは消費者にとってはゆゆしき事態だ」とクイント氏は強調する。「広告に大いに依存している場合、『社会をよりよくする』という目標は、各々の利益のために、さまざまなかたちで妥協させられることになる」。
[原文:Microsoft’s ad ambitions for ChatGPT-powered Bing bring new opportunities — and questions]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)