Amazon の脅威を利用し、小売提携を進める Google と MS : クラウド戦争の最前線

大手量販企業はいかなる形であれ、Amazonとの提携に二の足を踏むものだ。それによって生まれるビジネスチャンスを活用しているのが、小売企業向けに競争力のあるクラウドコンピューティング事業を構築しているマイクロソフトやGoogleだ。

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は市場で最大規模を誇るクラウドコンピューティングサービスで、2018年の第4四半期でAmazonに74億ドル(約8300億円)の収益をもたらしている。だがここ2年で、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)、クローガー(Kroger)といった小売各社とAWSの最大のライバルであるMicrosoft Azure(マイクロソフト・アジュール)やGoogle Cloud(グーグル クラウド)とのあいだで複数年契約が相次いでいる(マイクロソフトもGoogleも、クラウド部門の収益については明かしていない)。

小売業者をロックオン

両社とも、この2年間で小売企業を狙ったクラウドコンピューティング事業を構築している。直近では4月10日にGoogleが、毎年開催しているイベント、Google Cloud NextでGoogle Cloud for Retailという小売企業専門のソリューションの提供開始を発表したばかりだ。この新しい小売向けソリューションでは、小売各社がGoogleのほかの技術も活用できる仕組みとなっている。たとえば小売企業がGoogle レンズ(Google-Lens)のようなリアルタイムで画像を認識し、検索する新しいモバイルアプリを作ろうと考えた際に、Cloud Vision APIを活用できるのだ。Googleのプレスリリースによると、Cloud Vision APIを活用した商品検索を行うモバイルアプリの開発を進めている小売企業のひとつとして、イケア(Ikea)の名前が挙げられている。

一方、マイクロソフトは昨年、小売各社と提携してクラウドストレージを活用した新アプリや実店舗における小売技術の試験運用を行っており、将来的にほかの小売企業への販売を考えているとされている。

Googleやマイクロソフトは次世代技術を試験運用するための提携企業として小売企業を誘致しており、その入り口となっているのがクラウドコンピューティングサービスだ。

AWSの営業利益率

これまで小売分野ではインハウスでデータセンターを構築したり、毎月サーバーを借り受けたりする企業が少なくなかった。だが、いまや大手量販企業はオンライン販売の拡大、商品配送や受け取り方法の多様化、カスタマーデータを集めるさまざまなモバイルアプリの展開といった取り組みを進めており、それに伴ってこうした企業が保有するデータとオンライン処理量は莫大なものとなっている。こうした動きに先んじて反応したのは、Amazonだった。AWSが展開を開始したのは2006年だ。だが、小売企業からすれば、Amazonとの提携に慎重になるのも無理はない。

Microsoft AzureもGoogle Cloudも、提携している小売企業の具体数については公開していない。だが過去2年で、Microsoft Azureはウォルグリーンズ(Walgreens)やアルバートサンズ(Albertsons)、ウォルマート、クローガー、GAP(ギャップ)との提携を発表している。かたや、ここ2年でターゲット、ショッピファイ(Shopify)、ホーム・デポ(Home Depot)といった企業がGoogle Cloudを利用している。以前CNBCは、Amazonがホールフーズ(Whole Foods)を買収したことで、特にターゲットがAWSの利用取りやめを検討していると報道した。同分野で競合する企業に協力するのは得策ではないと考えたためだ。

ガートナー(Gartner)でアナリストを務めるエド・アンダーソン氏は、CIOダイブ(CIOダイブ)に対して次のように語っている。「(小売各社は)AWSの営業利益率が、Amazon.comより高いのを知っている。Amazonがこうして得た利益を自分たちとの競争に使うことを恐れているのだ」。

マイクロソフトの戦略

マイクロソフトと小売企業との連絡窓口となっているのがシェリー・ブランステン氏だ。ギャップに16年勤めた同氏は昨年、マイクロソフトに消費財と小売部門を率いる立場として引き抜かれている。マイクロソフトの同部門でゼネラルマネージャーを務めるキース・マーシア氏は、米DIGIDAYに対し、小売企業と協力するにあたって「マイクロソフトの人材とイノベーションを提供する」ことを重視しているとメールで回答している。例として挙げられるのが、同社が昨年提携を発表したウォルマートとクローガーの2社だろう。

昨年、ウォルマートとマイクロソフトはテキサス州オースティンに共同研究開発施設を設立することを発表した。同施設では社内アプリや店舗内の冷蔵システムの温度が一定以下になると、ウォルマートの技術者に通知するIoTセンサーシステムなどを開発する。

また、1月にはクローガーも、買い物客ごとにパーソナライズしたデジタル広告を表示するデジタル商品陳列システムを、マイクロソフトの協力を得て2店舗で試験運用することを発表した。さらに両社は今後、同技術をほかの小売企業に提供することを目指して協力していくとしている。

マーシア氏にマイクロソフトの小売企業への売り込み方法について尋ねたところ、Amazonの名前こそ挙げなかったものの「当社はカスタマーを助けるためにある。決してカスタマーと競合するようなことはしない」と語った。

Googleの考えていること

Google Cloudの場合は、いまのところマイクロソフトと上述の2社のような試験運用の提携は発表していない。Google Cloudの市場シェアはMicrosoft AzureやAWSよりも小さい。さらにCEOのダイアン・グリーン氏が昨年11月に退任している。だがGoogle Cloudの新CEOであるトーマス・クリアン氏は、4月10日に小売業界をはじめ、より業界ごとに特化したソリューションを提供していくと発表した

特にAmazonは音声ショッピングや「レジなしコンビニ」など、さまざまな小売技術で業界をリードしようと目論んでいる。今後はさらに多くの小売企業が、Amazonのライバルと他分野で協力して、同社に立ち向かうという構図が見られるようになるかもしれない。

Google Cloudの小売業界ソリューション部門のグローバル責任者を務めるプラビン・ピライ氏は次のように指摘している。「(小売各社は)人工知能や機械学習といった次世代技術の活用を望んでおり、業界でイノベーションを起こせるようなパートナーを探している」。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)