「メタバース」というすばらしい新世界を生み出せるようになった今、企業や専門家は、彼らの新たな仮想社会に、利用者のプライバシー保護と合意を組み込もうとしている。それは、倫理面から考えて必要不可欠であり、ビジネスとしても合理的な決断だからだ。
「メタバース」というすばらしい新世界を生み出せるようになった今、企業や専門家は、彼らの新たな仮想社会に、利用者のプライバシー保護と合意を組み込もうとしている。
メタバースは、永続性と相互運用性のある仮想世界であり、ユーザーがまるで実世界と同じように動き回り、交流できるようになる日がいつか訪れるかもしれない。まだ黎明期にあるメタバースだが、ビルダーたちはデジタルの仮想世界に現実に類似した世界感を再現するだけでは飽き足らない。世界全体のルールを決められるようになれば、メタバースビルダーが、相互に交流する方法(さらにいえば、その交流を許可する方法)の改善や安全性の強化に携わることも可能になる。
「相手の同意がなくても、その人をフォローできるというのは、ちょっと気味が悪いし、そもそも危険だと思わないかい?」そう話すのは、メタバースのプラットフォーム、トピア(Topia)でCEOを務めるダニエル・リーベスキンド氏だ。「トピアでは、『安全性』や『合意』といった私たちが特に重視する価値をメタバースの世界で構築している」。リーベスキンド氏がその具体的な例として説明したのが、トピアがまもなく投入する「フォロー」機能である。これは、ユーザー双方の合意がなければ、仮想空間で相手をフォローできないというものだ。
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個人間のやりとりに関するルールに加え、仮想世界が持つ物理的性質が、安全性と合意性を強化するのに役立つ可能性がある。その一例としてリーベスキンド氏が引き合いに出したのが「AltspaceVR(オルトスペースVR)」だ。このバーチャルリアリティのプラットフォームでは、一部のユーザーがほかのユーザーの顔を繰り返し手で殴りつけて、しつこい嫌がらせをしたという複数の事例を受け、アバター同士が実際に交流するときの方法に修正を加えた。「具体的な対処方法としては、手が相手の顔に近づきすぎたら、手首から先が消えるようになっている」とリーベスキンド氏は話す。「要するに、単なる腕だけになるということだ」。
倫理面から必要不可欠
製作会社3ブラックドット(3BLACKDOT)で戦略および収益の統括を担当し、UCLAでデジタルメディアと起業家精神の教鞭もとるイリナ・シェイムス氏は、メタバースのプラットフォームに合意を組み込むことは、倫理面から考えて必要不可欠であり、ビジネスとしても合理的な決断だと考える。
「たとえばバンブル(Bumble)は、デートアプリに『合意』を導入した企業第1号で、女性に権限を与える方法として、女性ユーザーが合意を意思表示できるようにした」と話す。「気になるのは、果たしてそれで本当にビジネスとして成り立つのか、だろう。現在のバンブルを見れば明らかだ――売上数十億ドル(数千億円)規模の企業に成長している」。つまり、使い手が安心・安全だと感じられるプラットフォームであれば、ユーザーは自然に集まるとシェイムス氏は話す。
安全を担保したうえで、他人とのコミュニケーションがとれるメタバースの構築は、ユーザー双方の同意が得られると起動する1対1の双方向システムの構築というような単純な仕組みではない。完全に閉鎖したソーシャルシステムの場合、ユーザーが見知らぬ人物とやり取りしたり、規模の大きなグループ、たとえばプロトメタバースの代表格のフォートナイト(Fortnite)やロブロックス(Roblox)でつながったりすることが、かえって難しくなる。
「人は皆、これからも人のままだ――つまり、ある一定のガイドラインに従い、自分自身を表現していかなければならない」と話すのは、双方向イベント会社キスウィ(Kiswe)のCEO、マイク・シェーベル氏だ。「テクノロジーを提供するものとして私たちが訴えているのは、ブランドパートナーであるユーザー自身が、『これはコミュニティに必要だ』と思うことに関しては、ユーザー自ら決断をくだせるようなツールセットを開発すべきだ、ということだ。我々のようなシステムの場合、ブランド化や価値の方向性をユーザーに託さざるを得ない」。
安全な世界に変えるカギ
ユーザーを蚊帳の外に置かずに、メタバースをより安全な世界に変えるカギは、慎重にフレームワークを改善していくこと――そう話すのは、モバイルエンターテインメント会社アジア・イノベーションズ・グループ(Asia Innovations Group)でCEOを務めるアンディ・ティアン氏だ。まずは柔軟性よりも安全性を重視した対策を行ない、そこからできることを取り戻していけばいいという。「安全でなければ、先には進めない。ルールが厳しくても、それはそれでヨシとすべき。なんとかなるものだ」。
メタバース各社がどのようにして自社のプラットフォームに「同意」をコード化するのかは別にして、遅きに失してメタバースの基盤に組み込めなくなる前に、このテーマについて議論を深めることは非常に重要なのではないだろうか。「まさに今下される決断が、インターネットそのもののあり方、つまり、これから10年後に、人と人とのつながりや社会の進化の様子を大きく変えることになるだろう」とトピアのダニエル・リーベスキンド氏は話す。「少なくても議論をはじめているのであれば、一企業としての価値観を明確に提示していることになるだろう」。
[原文:Why metaverse builders want to create safe, consensual virtual worlds]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)